外伝 はじめての冒険者物語 ~調査と冒険~
マリンは困っていました。
昨日のお昼。
帰ったらスグルが寝ていたので、ちょっと魔法を試してみようと思ったのです。
時間逆行魔法。
新しく覚えた魔法です。
ただ、魔物に使っても変化がありませんでした。そもそも、魔物という種族は生まれたときから同じ姿ですから、魔法を使っても効果がでなかったようです。
とりあえず、魔法書を読むかぎり、解除方法も書いてあるので、ここはスグルに試してみようと思いました。
副次効果として、体力回復効果もあるそうですし、疲れたスグルの身も心もリフレッシュさせてあげようという善意もあったんです。
なのに、まさか子供になってしまい、さらに、記憶を失ってしまうなんて思いもしませんでした。
効果は一ヶ月若返りのはずなのに、マリンの魔法の威力が強すぎたそうです。
そして、解除方法は解呪の泉に行くか、もしくは1週間待つかのどちらかみたいです。
「はぁ……ハヅキも昨日は帰ってこなかったし……」
ため息をつくと、子供になったスグルは心配そうにこちらを見て、
「どうしたの?」
「い、いえ、なんでもないんですよ。スキヤキくんはごはんを食べていてください」
酒場で買ってきた朝食を並べて、小さくなったスグルに食べさせていました。
「うん、ありがとう、マリンお姉ちゃん」
「はうっ」
お姉ちゃんと呼ばれるたびに、ときめきと罪悪感とがマリンの心を埋め尽くします。
スグルなのになんでこんなにかわいいのでしょうか。
それにしても困ったことはもう一つあります。
どうやら、子供の村長が、スグルの隠し子として村中の噂になっているらしいのです。
まぁ、これだけ似ていたらそう思うのは無理ありませんが。
「マリンお姉ちゃん、本当に大丈夫? ごはんたべないの?」
「あ、うん、大丈夫ですよ。スキヤキくんこそ嫌いなごはんとかないですか?」
「うん。全部おいしいよ」
はぁ、もういっそのことこのまま1週間、スキヤキくんとして村にすごしてもらいたいくらいいい子です。
ですが、そうもいかない事情があります。
ミコトがいうには、マリンの魔法を解析したところ、この魔法はスグルを若返らせる魔法ではなく、スグルの肉体を若返らせ、それだけでなく過去のスグルの魂をこっちにつれてきている状態だそうです。
なので、このまま放っておけば下手したらスグルは子供のころ寝たきりとして過ごすことになる、という状態のようです。
ただ、幸い、精神と肉体とでは時間の流れが多少異なるらしく、1日くらいこっちに来ていても子供のころだと6時間くらいしかロスがないそうです。
子供の睡眠時間が8~10時間とするなら、今日中になんとかしたらなんとかスグルを無事に元の世界に戻せるはずです。
「スグルくん、いるかしら?」
「スグル殿、いるでござるか?」
困っていたマリンのもとに訪れたのは、ミコトさんとハンゾウでした。
「この子ね、噂になってる子っていうのは。はじめまして、私はミコト。こっちはハンゾウよ」
「はじめまして、スキヤキです」
スグルが立ち上がりお辞儀をする。
「ふむ、肉体的特徴はスグル殿と似ているというよりかはスグル殿そのもの」
「ええ、気の流れもスグル君と同じね」
二人がそう呟いた。
スグルは首を傾げているが、マリンは焦りました。
(バ、バレてます)
逃げ出したい気持ちにもかられたが、このままでは小さい頃のスグルに迷惑をかけてしまいます。
「あの、話があります」
マリンは意を決してスグルとは離れた場所に二人を連れ出し、全てを話しました。
ハンゾウは、「肉体だけ若返ることができるのでないでござるか。女湯に堂々と入るチャンスと思ったでござるが」と残念そうに言った。
「そう……解呪の泉……でもそれがどこにあるのかわからないのね」
「ふむ、一つ聞きたいでござるが、今のスグル殿の記憶は、元の身体に戻った場合どうなるのでござるか?」
「えっと、マナが言うには、子供のころに目を覚ましたときに、夢みたいな感じで覚えてるそうです」
「そうでござるか。ふむ。ビルキッタ殿を若返らせて、拙者のことを好きになるように刷り込むのも……いや、しかしあの巨乳が一時的とはいえこの世から失うのは耐えられぬでござる」
また変な魔法の使い方をハンゾウは思いついたようです。
この人、本当にどうしてこんなことに頭が回るんでしょうか。
「お、そうでござる。そういえば、スグル殿は妙なことを言っていたでござるな。最近発見した遺跡に隠し階段があるような気がすると。もしかしたら、子供のころの記憶が原因ではないでござろうか?」
「え? それなら、スグルはこれからそこに行くってことなの?」
「たぶん、そうなんでしょうね。それが運命だというのなら、逆らわずに行ってみたほうがいいと思うわ」
ミコトさんからもゴーサインが出ました。
目指すは北西の谷の遺跡です。
※※※
マリンちゃんの護衛依頼を終えた翌日、僕とカリナを待っていたのは、役場からの依頼だった。
詳しい話を聞くために役場へいくと、村長の代わりに狐耳の少女、パスカルさんがいた。
「迷宮の調査?」
「はい。遺跡の調査が最初の依頼ですが、この依頼書にある通り、木彫りの女神像を動かし、隠し階段が現れたら迷宮に入り、調査をしてほしいのです」
「あの、隠し階段があるかどうかもわからないんですか?」
「はい、全ては村長の勘だそうですが、実際、この遺跡の周りは魔物が多く、使われていない迷宮が存在する可能性が高いです」
迷宮は魔力鉱でできている。
魔物は死ぬと魔力となって世界に彷徨い、再びどこかで集まって魔物として生まれ変わる。
魔力鉱はその魔物の魔力を集めやすい性質をもち、迷宮に魔物を造り出す。
ただ、魔物であふれた迷宮では、迷宮の中に魔物が増えることがなくなり、代わりに迷宮の外に魔物が生まれる。
「未踏の迷宮の調査は本来、Bクラス以上の冒険者がするものなんですが、なぜか村長がこの依頼を用意なさいました。
断ってもよろしいで――」
「やります! ぜひやらしてください!」
僕は食い気味で答えた。
わかった。これが村長からの信用なんだ。
だから、僕はその信用に全力で応えたらいい。
「わかりました。では、こちらが資料になります」
「はい、ありがとうございます」
礼をいい、僕たちは役場を出た。
迷宮の散策、冒険者らしい仕事だ。
「村長、僕のこと認めてくれたんだ」
「よかったね、ラキアくん。でも、危ないから準備はしっかりしていこうね」
「もちろんだよ」
僕たちがこれからの冒険に思いを馳せていると、ゲンガーさんたちがいた。
ただ、ゲンガーさんのパーティー6人は全員、憂鬱そうな顔をしている。
「ゲンガーさん、こんにちは。どうしたんですか?」
「おう、坊主か。村長から特別な依頼を受けたんだがよぉ」
ゲンガーさんはため息をつき、
「南の森の腐臭地帯の調査だ」
「腐臭地帯?」
「あぁ、南の森の迷宮よりもさらに南にな、臭い植物が大量に生えている腐臭地帯って呼ばれる場所があるんだ。そこの調査をするように言われよ」
「え、ドラゴンレンジャーズさんでもそんな依頼をしないといけないんですか?」
「まぁな、村長には何か考えがあるのかもしれないが、さすがにやる気にはならないよな」
「そ……そうですね。頑張ってください」
「あぁ、適当に調査したら切り上げるがよ。まぁ、特別に風呂の用意はしてもらえるらしいから、ちょっくら行ってくるわ」
そういって、ゲンガーさんのパーティーが町を出て行った。
僕たちも、薬などの確認をしたら出て行かないと。
これから、僕たちの本当の冒険がはじまる。
最後の文章ですが、決して打ち切りじゃありませんよ。
もうちょっとだけ続くんじゃ。




