外伝 はじめての冒険者物語 ~魔剣使いと魔法使い~
護衛依頼の意味がわかった。
湖に向かう途中、魔物が出たのだ。
そういえば、このあたりは凶暴な魔物が出ることで知られた湖だ。
出てきたのは大きな猪の魔物だ。確か、名前はワイルドボアといったか。
つまり、この魔物からマリンちゃんを守ればいいというわけか。
「ファイヤーボール!」
カリナが樫の杖を持って魔法を唱える。
火の玉が現れて、僕に飛んできた。
その火の玉を剣で受け止める。剣が炎を纏った。
そして、僕はワイルドボアに一撃を放つ。
炎を纏った剣はワイルドボアを一刀両断する。
魔剣。魔法を剣で受け止め、付加効果として攻撃力を上げるユニークスキル。
魔法を受け止められるのは一回のみなので、魔法に対して無敵になれるとかそういうスキルじゃない。
しかも、炎を纏った状態では鞘に納めることができないから、効果が切れるまで持ち続けないといけない。
だいたい3分で効果が切れる。
あと、僕は魔法が使えないので、カリナがいないとこのスキルを有効利用できない。
でも、威力は見ての通りで、きっとあの女の子も驚くはずだ。
「お疲れ様でした、じゃあ水汲みしましょうか」
マリンちゃんは全然驚いてくれなかった。
「うん、じゃあ水汲みを……ってあれ?」
そういえば、今更だけどマリンちゃんはバケツも桶も何も持っていない。
そもそも、ただの水汲みなら井戸で事足りるはずなのに、なんで湖に来たんだろう?
「あれ? 水汲みじゃないの?」
カリナが尋ねると、マリンちゃんは笑顔で「いいえ、水汲みですよ」と言った。
そう思ったら、マリンちゃんは湖の方向を向き、一枚のカードを取り出した。
そして、カードを具現化。
「え? 杖のカード?」
マリンちゃんが出したのはミスリルの杖だった。
ミスリルの杖を落とす魔物なんて聞いたことないけど。
でも、なんで杖?
不思議に思っていると、マリンちゃんは杖をかまえ、
「ダイヤモンドダスト!」
そう叫んだ。
「「うそ………」」
そして、その光景を見て、僕たちは呆れた。
「あの魔法……氷の上級魔法だよ。しかも、すごい威力……」
「うん、凄い威力なのは見たらわかる」
なぜなら、巨大な湖の半面が凍っていた。
その余波で周りの草地にも霜がおりている。
「あの、もしかして氷を砕いて持っていくんですか?」
「ちょっと待ってくださいね。クールタイムがありますので」
魔法は一度使うと一定時間待たないといけない。
それを待つということは、もう一度湖を凍らせるのだろうか?
暫く待つと、再びマリンちゃんが杖を構え、
「サンダーストーム!」
僕たちは再び驚愕を目にした。
雷の嵐が湖へと降り注ぎ、氷を打ち砕いていく。
上級魔法の連続使用、そしてその威力もさることながら、二属性の魔法詠唱に僕たちは驚いた。
一体、なにものなんだ、この子。
「では、氷をカード化しますね」
「え? カード化?」
聞いたこともない言葉に戸惑っていると、さらに信じられないものを見た。
マリンちゃんが氷の塊に手を触れると、氷の塊が一枚のカードに変わった。
そんなスキル、聞いたことがない。
いや、魔法なのかな?
「では、二人は氷を集めてきてください」
「わ、わかりました」
僕たちはつい敬語になってしまった。いや、依頼主と冒険者という立場を考えたら当然のことなんだけど。
氷を集め終わり、全ての氷をカード化した。氷の中には魚のカードも一緒に入っていたものもあり、そういうものは、氷がカード化されると外に出てきた。
魚のカードだけでも300枚はある。
後の帰り道、カリナはマリンちゃんに尋ねた。
「あの、マリンちゃんの実力ならリューラ魔法学園にも行けるんじゃないですか?」
リューラ魔法学園、北大陸にある、世界唯一の魔法を学び鍛える学園都市。
生徒のほとんどが魔法使い、そのうち貴族や金持ちの子供がほとんどで、あとは才能のある魔法使いも入ることができる。
ただ、授業料が高いので一般人は通うことはできない。唯一の例外が、優れた実力者のみが恩恵を授かる奨学生制度である。
カリナも去年挑戦したが、現在ここにいるということは、試験に落ちたということだ。
悔しそうな顔をするカリナの顔はあのとき初めて見たな。
そして、僕たちの予想では、マリンちゃんは十分奨学生として魔法学園に行くことができるというもの。
だが、事実はそのさらに斜め上を行くものであった。
「もう卒園しましたよ」
「「え?」」
「先月、面接のときにそのまま卒園証明書を貰いました」
「「えぇぇぇぇぇえっ??」
面接のときにそのまま合格?
いや、さっきの魔法を見たらあながちウソとも思えないが。
「でも、リューラ魔法学園卒園する実力があれば、宮廷魔法使いなどもっと仕事があるんじゃ」
どう考えても、マリンちゃんが水汲みをするなんて役不足だ。
彼女なら冒険者としても宮廷魔法使いとしても超一流になれるはずだ。
「どうして――?」
「スグルを放っておけないですから」
マリンちゃんは屈託のない笑顔でそう言った。
スグル? 村長のこと?
「え? マリンちゃんと村長ってどういう関係なの?」
カリナが尋ねると、マリンちゃんはうぅんと考えて、
「そうですねぇ、スグルはマリンのヒモですね」
「ヒモっ!?」
「はい、ヒモです。スグルは借金まみれで生活費が一切ないですから、マリンとハヅキがスグルを養っています」
借金まみれだって話は酒場で聞いていたけど。
あれ? でもハヅキって……昨日、ビルキッタさんから聞いた。
「ハヅキって、黒猫の名前ですよね」
「はい、そうですよ? よくご存知ですね」
マリンちゃんが言う。
えぇ!? 村長、女の子と黒猫に養ってもらってるの!?
それも人望なのか?
村に帰ったときはすでに昼過ぎだった。
マリンちゃんとはそこで別れ、僕たちは報酬を受け取るべく酒場に向かった。
酒場にはドラゴンレンジャーズの人は誰もおらず、行商人と思われる男の人が食事をしているだけだった。
「バッカスさん、終わりました」
「お疲れ様です」
バッカスさんはそういい、報酬のドルグを僕に渡した。
「あの……一つ聞きたいんですが、護衛の意味ありました?」
魔物が出てもマリンちゃん一人で対処できた気がする。
「一度魔法を使うとクールタイムがありますからね。不測の事態に備えて必要だと村長が仰って」
「あぁ、そうか。でも、あれだけの仕事でこんなお金を貰っていいんですか?」
貰った報酬は二人で2400ドルグ。決して安い金額ではない。
それに、護衛中に狩った魔物が落としたドルグももらっている。
「問題ありませんよ。一回の採取で手に入る魚のカードだけでも3000ドルグの価値はありますし」
「では、明日も依頼を用意しています。ぜひ来てくださいね」
「ありがとうございました」
「あ、あと村長は今日は家で休んでるそうなので、役場に行っても秘書のパスカルさんしかいませんからね」
「わかりました」
その後、夕食の時間には少し早そうなので、僕たちは今日も村を見て回ることにした。
といっても、大きな村ではないので、あと見る場所といったら、ガルハラン商会くらいだろうか?
綿花畑でも見に行こうかな?
そう思ったら、マリンちゃんがいた。
「あ、ラキアさん、カリナさん、さっきはありがとうございました」
「ううん、こっちこそありがとう」
「その子は?」
マリンちゃんと一緒にいたのは7歳くらいの男の子だった。
とてもかわいらしく、下手したら女の子と間違いそうになるな。
もしかしたら本当に女の子かもしれない。
僕た尋ねると、マリンさんはなぜかバツの悪そうな顔になり、
「えっと、この子は――」
「僕の名前はスキヤキといいます。よろしくお願いします」
「へぇ、スキヤキくんか」
変わった名前だけど、しっかりした子だな。
「マ、マリンたちは失礼しますね。スキヤキくん、行きましょう」
「はい、マリンお姉ちゃん」
一体、なんなんだろう?
やけに慌てて去って行ったマリンちゃんに対して疑問を抱きながらも、僕たちは綿花畑へ向かった。
ここでまさかの新キャラ登場。
その名もスキヤキくん。




