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外伝 はじめての冒険者物語 ~信用と実績~

「先ほど、見慣れぬ女子おなごが公衆浴場に入っていくのを見かけたでござる。これは覗くしかないと思ったでござる」

 見慣れぬ女子? カリナのことか?

 だとすれば、ダメだ。

 カリナの裸を見られるのは、何か嫌だ。

 ハンゾウさんに嫌われ、ドラゴンレンジャーズに入る道のりが険しくなるのも覚悟し、叫ぼうと息を吸い込んだ。

「カリナ、すぐに――」

「忍法金縛り!」

 すぐに風呂から出ろ、覗かれるぞ! そう言おうとしたところで、ハンゾウさんが何か妙な技をかけてきた。

 手も触れられていないのに、体の自由が完全に奪われる。

 これが、ドラゴンレンジャーズの力なのか。

『ラキアくん、どうしたの? 何かあったの?』

 だが、僕の最初の叫び声が女湯に届いたようで、カリナが声をあげる。

 よし、このまま僕の返事がこなければ、カリナは僕の様子を探るためにお婆さんに声をかけるだろう。

 そうしたら覗かれる心配はない、そう思ったのだが、

「ううん、ちょっとお湯が熱いから、そっちで水を足してくれないかな」

「……………………!」

 ハンゾウさんは僕の声色を使ってそう言った。

 少し違う声のような気がするのは、他人が聞く声と自分が聞く声とでは違うからだろうか?

 実際、その声は完璧だったようで、

『ラキアくん、熱いお湯苦手なんだね。わかったよ』

 そう言って信じてしまった。

 一体、何者なんだ、この人。

 変な術を使うし、声を真似るし、顔を布で覆っているし。

「うむ、これで問題ないでござるな」

 そう言って、ハンゾウさんは壁に身体をくっつけると、まるで匍匐前進をするかのように無音で壁を登り始めた。

「問題だらけだ」

 そう言ってハンゾウさんの足を掴んだのは、あの村長だった。

「スグル殿、どうしてここに」

「お前が女湯を覗こうとしているからだ。言っておくが、こいつら、すでにビルキッタと知り合いだぞ。仲良くなっているし買い物もしたそうだ」

「む、姫の……そうでござるか」

 ビルキッタさん? 姫?

「姫に嫌われるわけには行かぬゆえ、諦めるでござる」

 そう言うと、僕の体に自由が戻った。

「はぁ、疲れをとるために風呂にきたっていうのに、余計に疲れるぞ」

 村長はそう言い、桶でお湯をすくい自分の身体にかけ、風呂の中に入る。

「そういえば、ハンゾウ。北西の谷底に遺跡が見つかったって言ってただろ?」

「うむ、教会のような遺跡でござるな」

「その教会の祭壇の奥に木彫りの女神像がなかったか?」

「あったでござる。どうしてそれを知っているのでござる?」

「いやぁ、なんとなくなんだが、その女神像を一周回すと隠し階段が出てきて、その下に迷宮がある気がするんだよ。今度、調査してみてくれ」

 仕事の話をしているところを割って入るのも悪いと思ったが、僕は恐る恐る村長に声をかけることにした。

「……あの、村長」

「あぁ、ラキアといったか。さっきは怒鳴って悪かったな」

 意外なことに村長は僕に謝罪してきた。

 その顔には先ほどの覇気もない、本当に疲れたからお風呂に来たという感じだ。

「あ、いえ。僕もお忙しい中押しかけて。それで――」

「ドラゴンレンジャーズに入りたいなら諦めろ」

 先回りして、断られた。

 だが、諦めきれない気持ちがある。

「あの、僕、今日村を回って聞きました。みなさん、村長のことを凄く信頼しているようでした」

「信頼……か」

「ビルキッタさんも、村長の信頼に応えられるように頑張ってると」

「あぁ、ビルキッタはよくやってくれている。いい鍛冶屋だ」

「僕のことも信用してもらえないでしょうか! 絶対に期待を裏切るようなことはしません」

 僕はそういい、頭を下げた。

 正直、村の人の話だと、これで村長さんは僕のことを認めてくれる、そう思った。

「ラキア、お前は勘違いしているぞ。信用というのはあるものじゃない。築き上げるものだ」

「でも、ビルキッタさんのことは最初から信用しているって」

「ビルキッタを信用したのは、ハンゾウの見る目を信じたからだ」

 そういい、村長はハンゾウを見た。

「ハンゾウはエロくてスケベだが、腕は確かだ」

 ハンゾウさんがエロくてスケベで、凄腕だというところは僕もすぐにわかりました。

「それに、鍛冶職人の存在は村に必要不可欠だった。だからビルキッタの信用を得るために、俺は全面的にビルキッタのことを信用することにした」

 村長はそう言って、一息つき、

「中には記憶があるというだけで信用されちまう男もいるがな」

 複雑そうな表情で村長は言った。

 記憶がある? どういう意味なのかはまったくわからない。

 僕がその意味を考えていると、村長は立ち上がり、

「ここにいてもリラックスできそうにないな」

 そう言って風呂から出て行った。

 そして、風呂場では再び僕とハンゾウさんだけが残された。

「信用……か」

「信用を得るのは難しいでござるからな」

 ハンゾウさんはそう呟き、壁をじっと見つめている。

 女湯を凝視しながら信用という言葉を出すのは変な気がする。

「あの、ハンゾウさん、信用を得るにはどうしたらいいと思います?」

「拙者からは何も言えぬでござる。ただ、スグル殿は決して冷たい人間ではござらん」

「……ハンゾウさんも村長のことを信用してるんですね」

「そうでござるな。今は信用しているでござる」

 ハンゾウさんがしみじみとした口調で言う。

「今は」というところを強調しているということは最初は違ったのだろうか?

「もしも悪人でござれば、すでに刀の錆にしていたでござるが」

「な……なんか怖いこと言ってません?」

 つまり、村長が悪人だったら殺していたと言っているのか、この人。

「主と認めたからこそ、主君の過ちを正すのは部下の宿命。ただ、その必要はないようで安心したでござる」

「それが、信用を築くってことなんですか?」

「そうでござるな。拙者から言えることは二つ。信用とは決して一方通行のものではないということ。そして、スグル殿はおそらくヒントを出しているであろうということ」

「ヒント?」

「うむ、では拙者はこれにて」

 そう言うと、ハンゾウさんの姿が煙のように消えた。

 何者なんだ、あの人……


 ハンゾウさんはお風呂に来たのに、一度もお湯につからずに出て行った。


 ヒント……か。


「カリナ、聞こえる?」

『うん、聞こえるよ、どうしたの?』

「明日、もう一度冒険者ギルドに行ってみようと思う」

『冒険者ギルド?』

「うん、まずは冒険者として認められるところからはじめてみるよ」


 村長は言っていた。

 ただの冒険者としてなら宿の紹介くらいしてやると。

 ならば、ただの冒険者としてやってやる。

 そして、向こうから声をかけられるくらいの実績をあげてやるんだ。



 宿屋で一泊し、翌朝、僕とカリナはバッカスさんの冒険者ギルドで、仕事の相談をした。

「依頼ですか……まず、この村の現状をいいますと、魔物討伐依頼はありません」

「一件もですか?」

「はい。というか、魔物が減りすぎて困っているくらいですから」

 ドラゴンレンジャーズの魔物乱獲は、村に他の冒険者が集まらない要因にもなっているということか。

「今ある仕事の依頼といえば畑の作業の手伝い、手紙の輸送などですが」

「そうですか……」

 弱ったな、実力を示す依頼としてはどれもパッとしない。

 悩んでいると、昨日も見たとんがり帽子の女の子が訪れた。

「バッカスさん、お風呂用の水を汲みに湖に行きたいんだけど、誰か予定の空いてる人いますか?」

「いらっしゃい、マリンさん。ええっと、今日はあいにく皆さん予定が埋まってますね。明日なら――」

 バッカスさんは言いかけて、

「そうだ、ラキアくん、カリナちゃん。よかったらマリンさんと一緒に湖まで行ってもらえませんか? 護衛依頼です」

「え?」

 湖に水汲み?

 一番地味な仕事が回ってきた。

 いや、これも信用を得るという意味では必要なことなのだろう。

 報酬は悪くはないものだった。むしろ、水汲みでこれだけもらってもいいのだろうか? というくらいの金額だ。

「わかりました、受けさせてもらいます」

「この人達も冒険者さんなんですか?」

「ええ、僕の昔の友人です」

「わかりました。マリンはオズ・マリンといいます。よろしくお願いします」

 マリンと名乗った少女はそう言って頭を下げた。

 賢そうな子供だと思う。

「よろしくね、マリンちゃん。あぁ、可愛いなぁ、マリンちゃんみたいな妹が欲しいなぁ。ねぇ、ほっぺた触っていい?」

「カ、カリナ、子供でも相手は一応依頼主なんだから」

「いいでしょ、ねえ」

「え、あの、え?」

 マリンちゃんはなんと答えていいのかわからず戸惑いの表情をうかべた。カリナは答えも聞かず、マリンちゃんのほっぺをつんつん触り始めた。


 本当にこんな感じで信用が得られるのだろうか?

 自分の考えに対して少し不安になりながらも、僕たちは湖へと向かうことになった。

外伝が思ったより長引きそうで、怖いです。

本当は3~4話程度で終わらせるつもりだったのに。

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