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外伝 はじめての冒険者物語 ~村長と冒険者~

 マジルカの村に入ると、俺はゲンガーさんに言われた通り役場へと向かった。

 築五十年は超えるであろう古い役場だが、手入れはきっちりされていると思う。

 壁にも目立つ汚れはない。

 僕の町の役場は2階建てで部屋もいくつかあったが、この様子だと一部屋のみしかない、応接間も休憩室もない、本当に仕事場のみの役場なのだろう。

「緊張するなぁ」

「私が代わりに話そうか?」

 カリナが心配そうに尋ねる。カリナは実家が客商売をしていて、大人相手に接する機会も多いのでこういうことも慣れている。

 でも――

「冒険者たるもの逃げ出すわけにはいかない。たとえ未知の相手であろうとも」

 有名な冒険者の伝記に書かれた一説を引用して、自分を鼓舞し、僕は扉をノックした。

「どうぞ」

 男の声が聞こえた。

 若い声だ。秘書さんだろうか?

 そう思いながら、扉を開け、と同時に頭を下げた。

「……僕はラキアで……と申します!」

「ラキアデさん?」

「いえ、ラキアです。彼女はカリナ」

 そう言うと、カリナが頭を下げた。

 そして、僕たちが顔を上げると、そこにいたのは若い男だった。

 僕たちとそんなに変わらない年齢だ。

「ラキアさんにカリナさんですね。ようこそマジルカ村へ。村長のスグルです」

 そう名乗った男は椅子から立ちあがり、頭を下げる。

 え? 村長?

 思っていたイメージとだいぶと違う。

 若いし、とても優しそうな人だ。

 ただ、目の下の隈がはっきりと見える。

「あの、村長さんは今何歳ですか?」

「ちょ、カリナ……」

「ああ、構いません。年齢で驚かれるのは慣れてますから。16歳ですよ」

「え、僕たちと同じ……」

 驚きを隠せない。

 村長って16歳でなれるものなのか?

 ゲンガーさんが言っていた『凄いといえば凄い』というのは、強さではなくその年齢のことだったのだろうか?

「ラキアさんとカリナさんはどのような御用で当村へ?」

「あ、はい! 僕達はドラゴンレンジャーズに入りたくて、この村に来ました!」

 そう言うと、突如、村長の笑みが崩れた。

「ちっ」

 しかも舌打ちまでされた。

「一応商売相手かもしれないからそれなりに扱ったが、やっぱり冒険者か」

「え?」

「最初に言っておくが、これ以上、ドラゴンレンジャーズのメンバーを増やすつもりはない」

「え……?」

「お前で32人目、そっちの女の子もそうなら33人目だ。ドラゴンレンジャーズに入りたいと言う輩の数だよ」

 村長は続ける。

「冒険者が増えたからって、魔物の数が増えるわけではない。正直、飽和状態なんだ。ただの冒険者としてなら宿の紹介くらいはするが、ドラゴンレンジャーズにはもう誰も入れるつもりはない。全員断ってる」

「そんな……」

 断られるなんて考えてもいなかった。

 いや、そうだ、村長は僕の実力を知らないから。

「僕はこう見えて、ユニークスキルの持ち主です! 魔剣という剣に魔力を付与するスキルでして」

「うちの村にもいるぞ、ユニークスキルの持ち主。4人」

「え……」

 ユニークスキルの持ち主が4人?

 僕はかつて自分が神に選ばれた存在だと思ったこともあった。

 それは、ユニークスキルというスキルがとても珍しいから。

 今でこそ、そういう驕りの感情は捨てたつもりだが、それでも唯一他人に自慢できるものだと思っていた。

 なのに、この村には4人もユニークスキルの持ち主がいるなんて。 

「それに言っただろ、飽和状態だから断るだけだ。弱いから断ってるんじゃない。用はそれだけか? こう見えて一週間ほとんど寝てないんでな、お前と話す時間があったら少しでも仕事を早く終わらせなければならないんだ」

 そんな、これで終わるなんて。

 何か、村長の機嫌を取る方法はないか?

 そういえば、町長は奥さんの美しさを褒めると喜んでいた。

 村長の好きな人のことを褒めたら……

「ねぇ、ラキアくん。あの絵……」

 カリナに言われ、部屋の隅の木箱に乱雑に置かれている肖像画を見つけた。

 それを見てみると全て同じ人の絵だった。

 村長と同じくらいの年齢の胸の大きな女性だ。肖像画を見ても少し化粧が濃い気がするが、世間一般からするとかなりの美人といえるだろう。

 間違いない、きっとこの人が村長の好きな人だ。

「村長、この肖像画、とても綺麗な人で――」

「お前等はとっとと出て行けえぇぇぇぇぇえっ!」

 なぜかものすごい怒られ、役場を追い出された。



「バッカスさん、どうしてダメなんでしょうか」

 冒険者ギルド兼酒場となっている建物のカウンターに座り、で久しぶりにバッカスさんと挨拶したのもつかの間、僕はそう尋ねた。

 バッカスさんは優しい笑みで「うーん」と考え、

「ドラゴンレンジャーズは村長の言っている通り、飽和状態なんだよ。だから、これ以上人員を増やすのは本当によくないんだよ」

 そもそも、冒険者のグループとは、本来は6人で組むものだとバッカスさんは言った。

 パーティーの上限が6人なのもそうだが、人数が多すぎると報酬の分配でもめるのも大きな理由になっているそうだ。

 報酬の分配は、現在は村長からの委任ということでバッカスさんがしているらしいが、人数が増えたらそれに不満を持つものも現れるだろう。

 言っていることはわかる。

 でも、諦められない。

 横を向くと、おれよりも小さな、とんがり帽子をかぶったおかっぱ髪の女の子が木箱を持ってきていた。

「マスター、氷持ってきましたよ」

「おう、嬢ちゃん。いつもご苦労さん。ジュースでも飲んでいくかい?」

「あとでもらいますね。今から商会に行かないといけないので」

 そう言い、女の子は立ち去った。

 カリナもその子をじっと見つめ、バッカスに尋ねた。

「氷、この村にあるんですか?」

 氷といえば、冬のうちに湖から切り出し、氷室に蓄えておくものだ。

 うちの町でも初夏のころまでは氷が残っているが、だからといって気軽に手に入るものではない。

 ましてや、酒場の飲み物に入れるなんて、贅沢すぎる。

「ええ。おかげでここの飲み物はとても冷えていて美味しいですよ」

 そういって、バッカスは氷の入ったジュースを僕たちの前に出した。

「再会のお祝いで、僕のおごりです」

 出されたジュースは酸味の利いた果実とハチミツを混ぜたものらしく、冷えていてとてもおいしかった。

 ジュースを飲んでいると、さっき聞いた声が聞こえてきた。

「おう、坊主たち、もう来ていたのか?」

 ゲンガーさんだ。

 ほかにも強そうな男の人を大勢連れている。

「もしかして、皆さんドラゴンレンジャーズの……」

「おうさ、ドラゴンレンジャーズといえば俺達のことさ」

 ゲンガーの横にいた若い男がうれしそうに笑い、

「坊主か、俺たちのメンバーに入りたいと言ったのは。その様子だとダメだったみたいだな。あ、マスター、俺達は麦酒、冷えた奴を頼むよ」

「あいよ」

 マスターと呼ばれた男はそう言うと、本当に冷えた麦酒を持ってきた。

 さっきの氷で外から冷やしたのだろうか、注ぐとグラスの外側が白く曇った。

「と、俺はウォックソンだ。坊主の名前は? やっぱりダメだったんだよな?」

「あ、ラキアといいます。村長さんを怒らせてしまったそうで」

「へぇ、あの村長を怒らすとは、ラキア、お前、なかなかやるな。一体何をやらかしたんだ?」

 ウォクソンは興味津々という感じで俺に尋ねた。他の男達も同様のようだ。

「えっと、ただ、部屋に置いてあった女性の肖像画を見て、きれいな人だと」

 僕がそう言うと、場が静まり返った。

 全員が顔を見合わせ、小声で「あれか?」「あれだろ」「あれしかないよな」と囁き合った。

 そして――爆笑。

 大爆笑、何がそんなに面白いのかというほど全員が笑い出した。

 バッカスさんも笑いをこらえるのに必死だ。

「いや、悪い。ただ、何も聞くな。うん、彼女は美人だ。なにせミスコン優勝者だからな」

「え? ミスコン優勝?」

「それにしても、村長、まだ肖像画持ってたのかよ」

「また贈られてきたんだろ」

「でも可愛かったもんなぁ、スーちゃん」

 スーちゃんという名前が出ると、さらに爆笑が起きた。

 何がおかしいのかわからない。

「まぁ、よかったんじゃねぇの? 彼女も賞金がもらえたみたいだし」

「だな、村長の借金で全部消えてしまったらしいが」

「村長、まだ借金まみれなのかよ。まぁ、兄貴や姉さんたちも返すのはいつでもいいと言ってるみたいだしな」

 さらにおかしなことを聞いた気がする。

 ミスコン優勝者の賞金が全部村長の借金で使われた?

 しかも村長は借金まみれ。

 ドラゴンレンジャーズの上役っぽい人からもお金を借りていて、そっちは返す気がない?

 それって――

「村長って、最低な奴じゃないか」

 僕がぽつりとつぶやいた。

 と同時に、さっきまでの盛り上がりがウソのように再び場が静まり返る。

 また爆笑が来るのか?

 そう思ったが、それは楽天的すぎる考えだとすぐに気付いた。

「おい、お前、村長の悪口を言うんじゃないぞ」

 さっきまで爆笑していたウォクソンさんが威圧的な表情で俺を見てくる。

 一体、どういうことだ? 言葉には明らかに怒気が混ざっている。

 すると、マスターはウォクソンの頼んだ料理をテーブルに置き、

「悪いな、坊主。だが、お前が悪いんだぜ? こいつらは、いや、この村の奴らは全員、村長に大きな恩があるんだよ」

 マスターは「サービスだ」と俺の前にスープを置いてくれた。

 マスターの説明に皆も落ち着きを取り戻し、

「脅かして悪かったな、だが、マスターの言う通りだ。村長がいなければ、俺たちは今頃こうしてここで笑っていられないんだ」

「本当だ。村長のおかげで俺たちはこうして酒飲んで笑っていられるんだ」

「村長に乾杯!」

「村長に乾杯!」

「ついでにスーちゃんにも乾杯!」

 一人がそう言うと、再び酒場は爆笑の渦に包まれた。

 わからない、何があって、この人達をこれほどまで村長のことを心酔できるのか?

「あ、このスープおいしい」

 カリナはマイペースにスープの味を堪能していた。

スーちゃんとは一体誰なのか?

村一番の美人のスーちゃんにラキアは会えるのか?

前半部分だけだとスグルの評価が下がりそうですね。

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