外伝 はじめての冒険者物語 ~プロローグ~
ラキア(16)という新米冒険者が、マジルカ村で働く、という外部の人から見たマジルカ村のお話です。
どのくらいで終わるかはわかりませんが、「後の祭り」話みたいな長編にはならないです。
「人生は一度しかない。だからラキアは、ラキアがしたいことをすればいい」
死んだ母さんが、最期に残した言葉だ。
小麦農家の長男として産まれ、父が死んでからは身体の弱い母を支えてきた。
だが、母にはわかっていたようだ。僕が冒険者として成功したいと思っていることを。
西大陸は魔物の個体数こそ世界で最も少ないと言われているが、その代わり、南大陸に次ぎ2番目に魔物が強いことでも知られている。
だが、このサイセイの町付近ではそこそこ弱い魔物もいた。
そのため、僕は母さんの目を盗むように、魔物を狩った。
本来、15歳になるまで魔法使い以外、スキルを付けてはいけないという決まりがあり、魔物を狩ってもスキルレベルは上がらないのだが、僕には生まれ持って装備しているユニークスキル「魔剣」があった。
どんな武器でも魔法のオーラを纏い、攻撃力を大幅に上げるというスキルだ。
ユニークスキルはとても珍しく、僕の知る限り近隣の町を含めてユニークスキルを持っているのは僕だけだろう。
そんなスキルを持っていることがバレたら大事になると、両親と町長は口裏を合わせて黙っていてくれた。
ただ、成長するにつれ、僕はこのスキルがあれば何かができるのではないか?
それこそ、伝記で伝えられるような冒険者になれるのではないか?
日々魔物を狩り、スキルレベルを上げていくにつれ、そんな思いが膨らんでいった。
母もそんな僕の気持ちをわかっていたのだろう。
母が最後に残した箱を見ると鋼鉄の剣と革の鎧、僅かだが銀貨の詰まった袋が入っていた。
決して裕福とは言えない我が家において、これらを買うために母がどれだけ苦労しただろうか?
そして、その思いは、全ての生活を捨て、僕を冒険者として旅立たせるには十分なものだった。
「ラキアくん、本当に行くの?」
そう呼び止めたのは、幼馴染のカリナだ。
緑色の髪をサイドテールに纏めた、僕と同じ16歳の少女だ。
「ああ。カリナ、またいつか」
「私も一緒に行っちゃダメかな?」
「そりゃ、カリナがいたら心強いけど……いいのか?」
カリナは生まれ持った魔法の才能があり、火炎の中級魔法まで使える。
後衛パーティーとしてはこれほど心強い存在はいない。
「ラキアくんのお母さんに、ラキアくんのことを面倒見るって約束しちゃったし」
「何勝手に約束してるんだよ……カリナ、安全な旅じゃないぞ?」
「わかってるよ。でも、二人の方が安全に近づくでしょ?」
「……あぁ、正直心強いよ。よろしくな、カリナ」
「うん。ところで、どこに行くの?」
カリナに聞かれて、僕はニヤっと笑った。
行くところはすでに決まっている。
「マジルカ村さ!」
「マジルカ村? 確か、木綿で有名な村だよね。商人さんが売りに来てた」
「あそこには、ドラゴンレンジャーズという凄い冒険者の集団がいるらしいんだ」
不確かな情報だが、そのメンバーには、冒険者ギルドのランク測定装置を使っても判別できない、Sランクの冒険者がいるらしい。
しかも、一年間だけだがこの町で働いていたバッカスさんがその村の冒険者ギルドで働いているというからコネもあるといえばある。
「僕はそこに行こうと思う。きっと、すごい冒険が待ってるぞ」
そして、馬車を乗り継ぎ、時には歩いて進むこと1ヵ月。
ミーシピア港国、オセオン村と経由し、僕たちはマジルカ村の手前まできた。
カリナの言っている通り、木綿の産地で間違いないのだろう。綿花畑が広がっていた。
まだ蕾の段階だが、あと一ヶ月もすれば花が開くだろう。
「いい景色だね」
カリナが言う。カリナは馬車の中でも終始リラックスしている状態で、いつも景色を堪能していた。
綿花畑の中で働いている人達が見えた。これから世話になる人達だからと僕は馬車から頭を下げた。
すると、働いていた人もそれに気付いたらしく、僕に向かって手を振ってくれた。
よかった、小さな村では排他的になるところもあるというが、そういうのはなさそうだ。
考えてみれば、ドラゴンレンジャーズももともとはよその町からやってきたと聞いたな。
これなら、きっと僕を受け入れてくれるに違いない。
僕が剣を強く握ってそういうと、
「坊主、冒険者か?」
御者の男がそう尋ねた。
「はい」
「そうか、俺もだ。ドラゴンレンジャーズってメンバーの一人なんだよ」
「本当ですか!? え、でもなんで?」
「さっきの山は魔物が多いからな、護衛を兼ねてるのさ」
「そうなんですか……」
「はは、幻滅したか? でもな、この山の魔物は強敵だからな、ランニングドラゴンを余裕で倒せるくらいじゃないとここの御者は務まらないんだぜ?」
それは自慢ともとれる発言だが、僕はそれに少し感動した。
ランニングドラゴンといえば、竜族では最下種の怪物だが、普通の魔物よりははるかに強い。
その怪物を余裕で倒せると御者の男は言い切ったのだ。
これが、ドラゴンレンジャーズと言われる所以なのか。
やばい、震えてきた。
(ラキアくん、怖いの?)
カリナが心配そうに尋ねる。
「いや、逆だよ。うれしいんだ。やっぱり、マジルカの村には僕の求めていた冒険があるとわかったから」
「御者さん、僕、ラキアといいます。どうしたら僕もドラゴンレンジャーズに入れますか?」
「ん? 坊主、俺たちのチームに入りたいのか?」
御者の男はうれしそうに笑い、
「そうだな、村長の許可を貰えばいいぜ。村長が認める冒険者なら、俺たちは絶対に拒まないからな」
そう言った。
村長か。頭の中で、白髪交じりのお爺さんの姿を想像する。
その姿は、サイセイの町の町長の姿そのものだったが。
「村長さんは凄い人なんですか?」
カリナが尋ねると、御者は少し考え、
「ん? ああ、凄いといえば凄いな。くっ、はははは」
何かツボに入ったらしく、大笑いをはじめた。
他の客も驚いたらしく、何事かと御者を見る。
「ああ、悪い悪い。まぁ、会ってみればわかるさ。どうせ今日も役場の中にいるだろうからよ。俺の名はゲンガーだ。今夜は酒場にいると思うからいつでもこい」
「ありがとうございます、ゲンガーさん」
これは幸先がいい。
ドラゴンレンジャーズの人とも繋がりを持つことができたようだ。
あとは、村長に会って許可を貰えばいい。
全てが順風満帆だ。
そう思っていた。
「これ以上、ドラゴンレンジャーズのメンバーを増やすつもりはない」
村長にそう言われるまでは。




