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40 今から始まる後の祭り ーその7ー

「似合ってますよ、スーちゃんにそういう趣味があるとは思いませんでした。あとでサイン貰えますか?」

 マリンに爆笑され、サインペンを俺に出す。俺は恥ずかしいながらもカウンターをまたいで椅子に座ろうとした。

「スーちゃん、そんなに足を開いたらスカートの中が見えますよ」

「マリンさん、あまり村長さんをからかわないでください。さぁ、もう一度お願いします」

「はい」とマリンは頷き、ミスリルの杖を構えて、「ダイヤモンドダスト!」と唱えた。

 氷の上級魔法。

 無数の氷の小さな刃が壁、床を傷つけないように舞い、姿を消した。

 もう四度目になるらしいが、その威力は衰えていないそうだ。

 ただ、マリンは少し辛そうに息をしていた。

 すでに制御と威力測定は合格ラインに達しており、今はMP総量のテストだという。

「もうそろそろMPも限界のようですね。では、最後に、マリンさん、この腕輪をつけてください」

「はい」とマリンは腕輪を受け取り、自分の腕にはめた。

「MP総量も十分です。最後に、この腕輪をはめた状態で魔法が使えるかテストをしてください。アイスニードルで結構です」

「はい。アイスニードル!」

 そう叫ぶが、何も現れない。

「あれ?」

「これは、氷属性の魔法を一時的に封じる魔法道具です。さすがにそれを破る力はないようですね」

「となると、試験は――」

 俺が恐る恐る尋ねた。

「いえ、今までの試験結果で十分奨学生としての適性はあります。ぜひ、奨学生として魔法学園にお越しください」

 その結果を聞き、マリンが俺にむかってピースサインをした。

 俺もそれに応えるように微笑む。

「では、腕輪を外します――あれ? 鍵がない」

 アメリアはポケットの中、鞄の中を探すが、鍵が見つからないという。

「え、じゃあマリンは一生氷魔法が使えないんですか?」

「いえ、学園に戻れば予備の鍵がありますから。すみませんが、鍵が見つかるか、学園に戻るまでは――」

「うぅ、わかりました」

 やれやれ、最後にとんだハプニングがあったが、試験も無事終了のようだ。

 と俺は視線を壁に移す。

 そこには手配書と似顔絵が貼られていた。

――あれ?

 人身売買組織の優男、この顔どこかで。

 既視感。

 そういえば、同じような感覚は昨日もあった。

 アメリアに会ったときだ。

『趣味は人それぞれでござるからな』

 ハンゾウが言った。何故それが今脳裏に浮かぶ?

『スーちゃんにそういう趣味があるとは思いませんでした』

 マリンのセリフ。

 趣味……

 俺は手配書を凝視した。よく書かれた似顔絵、そして、そのホクロの位置が――

「……人身売買組織のヒャコ」

 俺がそう言うと、似顔絵と全く同じ位置にホクロがあるアメリアの顔が歪んだ。

「マリン、そいつから離れろっ!」

「えっ?」

 マリンが聞き返している間に、アメリアはマリンを抱え、太もものあたりに隠していたナイフをマリンの首元につきつける。

「動くんじゃないよ」

 その声は、先ほどまでのハスキーな声から一転、明らかに男の声だった。

「くっ」

「はぁ、手配書に気付かないなんて、俺も落ちたもんだよ」

 そういい、アメリア、いや、ヒャコはマリンを椅子に座らせ、縄で縛っていく。

 逃げようにも出入り口はヒャコの向こう側。逃げられるわけがない。

 助けを期待しようにもミスコンの真っ最中だ。

 その時、ポケットからマリンのサインペンが落ちた。

 あれなら――

「まぁ、いたのがあんただけでよかったよ。最弱なんだって? 話は聞かせてもらってるよ」

「あぁ? 誰が最弱だ。こう見えても最強の村長で通ってるんだよ」

 俺はそう言いながら、目でマリンに合図を送る。

 マリンもそれに気付いたように、両足をじたばたさせて、靴を脱いでいく。

 あとは時間を稼ぐだけだ。

「聞かせろ、なぜマリンが特待生の試験を受けるってわかった」

「魔法学園の支部に入って名簿を盗み見た。その中で、一番警備の低いこの村を狙ったのさ。もちろん、この村で試験をするっていうのも俺が偽造させてもらった。あんなのでも紋章さえあれば十分に通用したようだな」

「マリンを誘拐してどうするつもりだ」

「見ただろ、俺は人身売買組織のボスだぜ。魔法使いはそれだけで高値で売れるからな。特にこいつの力は人並み以上なのにガキだ。扱いやすい商品だからな」

 そう言うと、ヒャコは飽きたのだろう。

「もういいだろ、死ねよっ!」といい、ナイフを振ろうとしたところで、俺は手を前にだす。

「な、お前、一体――」

 ヒャコは俺の手を見て叫んだ。

「一体何を握っている」

 俺の前に出された手は、それを握っていた。

 明らかに手が何かを押している。なのに何も見えない。

「誰が最弱村長だって? 自分の肺を握られているのに何も感じないバカに言われたくないな。大丈夫か? 呼吸辛くないか?」

「……ぐっ、でまかせだ!」

「なんならもう少し強く握ってやろうか?」

 俺はさらに手に力を加えた。

 明らかに手の平が何かを握っているように変形するが当然、ヒャコには何も見えない。

 俺の意味不明の行動にヒャコは混乱したのか、俺の手めがけてナイフを投げてきた。

 だが、

――キンっ

 という音とともに、ナイフが俺の手の平の僅か手前、空中ではじけた。

「だから効かないって言ってるだろ」

 そう言いながらも――

(あせったぁぁぁ、頭とか狙われてたら確実に死んでたぞ)

 もちろん、俺には相手の肺を握りつぶす能力とかはない。

 あるのはただ、魔法抵抗を測定する装置を握ったら、誰にも見えないようにすることくらいだ。

「お前、お前は一体なんなんだ?」

 ただ、見えない魔法抵抗を測定する玉にナイフが当たっただけなのだが、そんなこと予想できるわけもないヒャコが叫んだ。

「はぁ? お前、この村について何も調べてないんだな」

 俺はマリンの足元を見ながら、もうすぐだと、最後の時間稼ぎを出す。

「これを見な」

 俺が出したのは、【S-】と書かれたギルドランクを測定する装置だった。

「まさか――ランクSの冒険者……お前が……」

「あぁ、俺の特殊能力は肺だけでなく、そうだな、お前の心臓を握りつぶすことだってできるからな」

 直後、「従魔召喚」というマリンの声により、ヒャコの後ろ、マリンの足元から小さな光が現れた。

 足の指でサインペンをはさみ、魔法陣を書き、従魔を召喚。

 そう、一番最初にマリンの従魔となったハヅキちゃんを召喚したのだ。

「どうしたんですか、マリンちゃん!」

「ハヅキ、お願い!」

 マリンが急いでハヅキちゃんに状況を説明しているが、

 だが、なんだ?

 ヒャコの様子がおかしい。

「さ……さ……」

 マリンの声にもハヅキちゃんが現れたことにも気付かずに肩をふるわせ、

「さ…………サンダーポイントっ!」

 しまった――と思ったのはその声を聞いたときだった。

 ヒャコを追い詰めすぎた。

 血迷ったヒャコが俺に雷の下級魔法を放ってきやがった。

 というか、こいつも魔法使いだったのかよ。

 そして、それがさらにヒャコを混乱させる。

「な、サンダーポイントはただの下級雷魔法だぞ、なんで――」

 なんで? それは俺が言いたいよ。

「なんで左腕がまるまる吹っ飛んでるんだ!」

 ヒャコの叫びに対する答えを言うほどの余裕は、俺には当然なかった。

 チクショウ、痛すぎて逆に痛みが麻痺してくる。

あと2回程度で、2章終わりです。

スグル、魔法抵抗がないにもほどがある。


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