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34 今から始まる後の祭り ーその1ー

 役場で仕事をしていた。

 パスカルと一緒に仕事をするのも一週間ぶりだ。

 いつもと違う仕事なので時間はかかるが、少し楽しい気分になってくる。

 冒険者ギルドができたおかげで、ドラゴンレンジャーズ関係の仕事をバッカスに割り振ることができたのが大きい。

 報酬の管理や報告などは全部、俺を経由してサンドカライの町の冒険者ギルドに報告していたからな。その仕事が無くなっただけでもだいぶ助かっている。

「……なぁ、パスカル、ドラメル焼きってなんだ?」

「ドラゴンの形をした、カステラみたいなお菓子です」

「なるほど、卵を使うから高いのか。カンデアートっていうのは?」

「高温に熱した飴をドラゴンや鳥の魔物の形を模して販売いたします」

「あぁ、飴細工のことか。へぇ、こっちにもあったんだ。ドラメル焼きより安いんだな」

 ふと、パスカルを見て、

「俺もツイストポテトとかしたいなぁ」

 と呟いた。

「ツイストポテトってんなんですの?」

「ジャガイモをこう、らせん階段みたいにくるくる切って、それを油で揚げて塩を振るんだ。うまいし食べやすいぞ」

「そんな料理があるんですのね。でも、村長はその日は仕事がありますから、そのツイストポテトは私の部下にやらせますわ。売上次第ではアイデア料も差し上げますので」

「それはうれしいな」

 アイデアを出してくれたのは、パスカルの縦巻きロールの髪なんだけど、貰えるものはもらっておこう。

 俺は今、祭りの出し物の候補を見ていた。

 出し物はゴメスの他、ドラゴンレンジャーズの面々がいろいろとアイデアを出してくれており、祭りの当日も店を開いてくれることになっている。

 あと、マリンがフローズンフルーツの店、その横でビルキッタがかき氷の店を開くことになっている。

 カキ氷の機械は俺がイメージを伝えるとビルキッタが作ってくれた。昨日試食をしたが、砂糖水をかけただけでも最高にうまかった。

 パスカルも商会で祭り用に販売をするため、そっちでも忙しいらしい。

「あぁ、これは却下と」

 俺は候補として届けられた紙をちらっと見て、却下と書かれた箱にいれた。。

「どんな案だったんですの?」

「秘宝館だってさ」

「秘宝館? なんですの? それは」

「中身は読んでいなかったが、ハンゾウがアイデアを出していた」

「村長、こちらの資料ですが、宛名が間違っていますわ」

「あれ? 違うのか? これ」

 ミーシピア港国の偉いさんはピアンであってるはずだが。

「ミーシピア港国の国長はピアン様であっていますが、ピアン様に宛てる手紙は、息子のエレトン様に送って欲しいと非公式で発表していますから」

「そういえばあの王さん、認知症がひどいって言ってたな」

「ピアン様は選挙によって選ばれた国長ですので、国王ではないですわよ」

「知ってる」

 俺はそう言って、封筒をもう一通用意しながら、別の出し物の案を見た。

「……ミス・マジルカコンテスト?」

 案を出したのは、サイケ、ベル・マーク、ハンゾウの三人の連名になっている。

「却下だな」

「あら? 検討してもよろしいのでは?」

 意外にもパスカルは俺が捨てた紙を拾い上げて言った。

「意外だな、パスカルなら反対すると思ったんだが」

「商会を含め、多くの経営は、良くも悪くも男社会ですからね。そのくらい多めに見ませんとやっていけないんですわ」

「あぁ……ビルキッタもそんな理由でこの村にやってきた感じだしな」

「本当に、この村がちょっとおかしいんだと思いますの」

 パスカルが苦笑して言った。

 まぁ、この村の最強はミコトだからな。普通に強い程度なら男が嫉妬するかもしれないが、圧倒的すぎて嫉妬することができない、と以前誰かが言っていた。

 ただ、それはこの村だけの基準なのだろうな。

「男女雇用機会均等法か……」

「なんですの?」

「仕事によって男だけ、女だけなんていう基準を作らずに、平等に働く場を作っていこうという法律だ」

「そんな法律聞いたことありませんが」

「……夢のまた夢の法律だよ」

 この世界では実現するのは何百年、下手したら何千年も先になるだろう。

 でも、俺が村長でいるうちは、いや、村長をやめても数十年はこの村に男女の不平等がなければいいなとは思った。

 それは村長としての責任でもあるし、俺の親父が生前に夢見た政治の形だと思う。

「いつか、実現するとよいですわね」

「……そうだな。でミスコン、本当にするのか?」

「ええ。賞品や衣装などの費用を全てハンゾウさんに出させたら予算もかかりませんから」

「それは、確かに安上がりなプランだ」

 あいつなら尻尾を振って出してくれるだろう。

 村の予算が足りないから無理だと言うだけで、出してくれそうだ。

「あぁ、でもハヅキちゃんが出られないのは残念だな」

「そうですわね。村の人だけならともかく、観光に訪れる方にはちょっと驚かれますわね」

「じゃあ、ミコト、シスター、ビルキッタ、パスカルくらいか。マリンは危ない需要が付きそうだしなぁ」

「私も出るんですの?」

「え? そりゃそうだろ。かわいい女の子って、ハヅキちゃんを除いたらこの五人しかいないからな」

「かわいい?」

 あら? 褒められていることに慣れていないのか、パスカルは顔を赤らめて、

「はぁ、そういうことを平気で言うと、勘違いする女性も現れるから気を付けてくださいね」

「わかった。パスカルも、押しに弱い女の子はかわいいとは思うが、悪い男に騙されるから気を付けろよな」

「余計なお世話です!」

 パスカルがそう言って、小声で、「悪い人かどうかくらい区別はつけられます」と言った。

 それは直接的に「俺がいい人だからときめいた」と思っていいのか、「俺が悪い人だから付き合うことがない」と言ったのかはわからない。

「こうなったら、スグルさんにも女装して出ていただきませんと……」

「おい、なんでそうなるんだよ」

「男女雇用機会均等法ですわ」

 いや、それは絶対違うだろ。

 雇用じゃないし。そんな機会いらないし。

「というのは冗談で、女装して出ていただきます。案外似合うと思いますわよ」

「やめてくれ、これ以上笑いものにされたら困る」

 ただでさえランクS(笑)村長という不名誉な呼ばれ方をしているのに。

「もちろん、冗談ですわ。女装して司会をしていただこうと思います」

「それって、出場者より目立つじゃねぇか!」

「安心してくださいませ、ウィッグ等の衣装代は私が全て持ちます」

「本気すぎて安心する要素が一つも見当たらない! それなら出場者のほうがまだましだ」

「では、司会兼出場者ということで一つ――」

「よろしくねぇ……なんだよ、クラ○ドみたいに他のヒロイン差し置いて選ばれたらどうするんだ?」

 まぁ、そんなことはあり得ないとは思うが。

「ク○ウドが誰かは知りませんが、バッカスさんを差し置いて入賞するとは思えませんわ」

「バッカスを巻き込んでしまった!」

 確かに、あいつは女装が似合うだろうな。

 ただ、現在候補にあがっている出場者7人中2人が男って、ミスコンの言葉の根幹を翻す悪行だ。


 その後も仕事をしながらミスコンについて案を出し合っていく。

 俺は女装を回避するための案、パスカルは俺に女装をさせる案だったが。

 そして、役場も閉まろうと言うとき。

 一通の封書が届けられた。

 差出人は「リューラ魔法学園・西大陸窓口」となっている。

「村長、それは?」

「あぁ、リューラ魔法学園からの書類審査合格通知だ」

「リューラ魔法学園といえば、北大陸にある世界唯一の魔法の学び舎ですわね」

「あぁ、一定以上の技量があれば、特待生として無料で入学できるらしいんだよ」

 俺はそれに、ダメ元で書類を送った。

 ギルドランクC、氷魔法の使い手。

 バッカスの話では、十分特待生枠を狙えるという話だったが、書類審査に落ちたときのことを考え、自信家のマリンのために、黙って応募していた。

「まぁ、あと実技試験と面談があるから、これで合格っていうわけではないんだが」

 でも、まぁマリンの腕なら、合格できるだろうとバッカスも言ってたしな。

「試験はミーシピア港町で……祭りの最終日の翌々日か」

「ならば、祭りがマリンさんの送別会になりそうですわね」

「だな、合格したら、船でそのまま魔法学園に行けるみたいだし」

 魔法学園を卒業したら、どこかの国でそのまま宮廷魔術師として雇用されることもあるという。

 そうなるのなら、マリンは二度とこの村に戻ってこれないかもしれない。

 だが、この村で氷を作ったりしてお金を稼ぐよりも、マリンのことを思えば魔法学園に行った方がいいだろう。

「そうなったら、パイクリートの生産も終わりですわね」

「子供に頼ってばかりというのもダメな話だしな」

 といいつつ、村長の俺とその秘書のパスカル、二人は16歳と15歳なんだが。

 まだ子供といってもいい年齢の二人に、村の運営を任せている大人たち、あんたたちはそれでいいのか?

 などと思いながら、俺は魔法学園の合格通知とともに届けられた説明文を読むことにした。

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