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28 想定外です、冒険者ギルド -前編-

「そうですそうです、上手ですよ、マリンちゃん」

「えへへ、当然ですよ、マリンは天才ですからね」

 そんな朝の光景。

 セーラー服の幽霊に料理を教わりながら魔女っ子が朝食の準備しているいつもの風景。

 ハヅキちゃんが幽霊であるということをマリンに打ち明けたときはどうなるかと思ったが、マリンはすんなりと受け入れた。

 この世界に来た人間は順応性が高すぎる。まぁ、俺もそのうちの一人なのだが。

 そして、ハヅキちゃんが幽霊だとわかると、マリンの俺への呼び方も変化した。

 ハヅキちゃんを呼び捨てにしていて、俺のことを「さん」付けで呼ぶのはおかしいということで変わったのだが。

「スグル、ごはんできたよ! 食べる?」

「あぁ、もらうよ」

 俺は苦笑してそう答えた。別に俺を呼び捨てにしなくてもハヅキちゃんに敬称をつけたらいいだけと思うのだが。

 ハヅキちゃんが「そのままでいいですよ」と甘い顔をしたから、今の形になった。

「お、ハムエッグか……高いんじゃないのか?」

 テーブルに並んだ少し焦げたハムと目玉焼きを見て、俺は口元を緩めた。

 卵もハムもこの世界では高級品だ。

「今日は大切な日だからって、ハヅキが」

 マリンに言われて、ハヅキちゃんを見ると、彼女はとてもかわいらしい笑顔で返してくれた。

 その笑顔に、俺の顔はちょっとだけ赤くなった。




 その日、村に二つの大きな変化があった。

 一つ目は、とうとう乗合馬車の運行が開始したことだ。

 乗合馬車ギルドと協議を重ねた結果、サンドカライの町からマジルカ村の間の区間はサンドカライの乗合馬車ギルド支部が運営、マジルカ村からオセオン村への山道の区間はマジルカ村が運営、オセオン村からミーシピア港国までの区間はミーシピア港国の乗合馬車ギルド支部が運営することになった。

 運賃はそれぞれの区間で500ドルグ。決して安い金額ではない。

 それと、馬車の幌にも工夫がなされている。まず、一番目立つのは、幌の外側だ。

 今までの幌は何も書かれていない白い布地だけのものだったが、今はそこに絵と文字があった。

 馬車の絵と、サンドカライ町-ミーシピア港国馬車、3区間1500ドルグ、回数券販売中、詳しくは御者にお聞きください。

 そして、内側にも小さな広告を貼るスペースが用意してある。

 今貼られているのは、サンドカライの町の宿屋の広告と、貸し本屋の案内だ。

 宿屋、貸し本屋、ともに馬車を利用する多くの客が利用する施設である。

 これらはバスの車内広告をイメージして俺が乗合馬車ギルドに打診したものだ。

 もちろん、マジルカ村・オセオン村間の馬車にも広告は貼られていて、僅かではあるが村の収入となる。

 それと、もう一つ。

 それは、サンドカライの町から走ってきた乗合馬車の最初の乗客がもたらしたものだった。

 その客は、馬車から降りるとまっすぐ役場へやってきたそうだ。

「冒険者ギルドのバッカスと申します。この村に、今日から冒険者ギルドの支部を作りたいと思い参りました」

 20代半ばくらいの年齢の、茶髪の細身の男。イケメンの部類に入る。

「冒険者ギルドの支部を今日から? いきなりそう言われても建物が――」

「その点は心配してないよ、村長」

 そう言ったのはゴメスだ。ゴメスはバッカスの前に行き、

「俺の酒場に支部を構えるつもりだったんだろ? 今では冒険者どものたまり場だしな」

 ゴメスがそういうと、バッカスは笑顔で、

「その通りです」

 と言った。何か妙だ。流石に冒険者のたまり場となっている酒場とはいえ、事前の話し合いもなく場所が決まるものなのか。

「思ったより早く帰ってきたんだな、バカ息子」

「お元気そうで何よりです、父上」

 その会話を聞いて、少し沈黙した後、

「親子なのかっ!」

「あぁ、そっくりだろ?」

 ゴメスが言うが、似ていないにもほどがあるぞ。

 片方は山賊にも間違えそうなゴツイ男、片方はホストクラブにでもいけそうな営業スマイルの素敵な兄ちゃん。

 どこが似てるっていうんだ?

「ほら、目の色とか髪の色とか一緒だろ?」

「それは似てるとは言わない……」

 確かに二人とも茶髪に茶色の瞳だが、ただの遺伝情報だろ。

 まぁ、それも親子の証といえばそうなのだが。



 場所を酒場に移動して話をしていた。

 俺が入ってくると、マリンができたばかりの氷を持ってきていたところだった。

 後ろをハヅキちゃんがついてきている。

「あ、スグル、どうしたの? そっちのカッコいいお兄さんは誰?」

 出来たばかりの氷を冷蔵庫に入れながら、マリンが興味津々に尋ねた。

「マスターの息子さんだよ。ほら、氷を置いたら――」

 マリンを追い出そうと思ったが、後ろにハヅキちゃんがいるからな。

 あまり邪険にしたら彼女にあとで怒られそうだ。

 俺はごまかすように咳をして、バッカスに向かった。

「冒険者ギルドについて確認したいんだが――」

「詳しい話は書面で行いますが、冒険者ギルドの仕事は主に――」

 バッカスは語った。

 冒険者ギルドがしている業務は、依頼の請負と斡旋。依頼には、清掃活動といった雑務から、アイテムの採取や、魔物の退治、賞金首の退治などがある。

 依頼の他にも、情報の売買や、冒険者の犯罪抑制活動も含まれている。

 そして、今日したいのは冒険者のランク付けらしい。

 といっても、ドラゴンレンジャーズのみんなは、御者としてオセオン村に行っている人を除けば、魔物や竜を狩りにいっているからできない。

「ランク付けね……どうやってするんだ?」

「簡単ですよ。これらを使います」

 そう言って出されたのは三つの野球ボールくらいの球だった。

 一つは白色の球。残りの二つは透明の球だ。

「リューラ魔法学園が開発した測定用の魔法装置だよ」

 魔法装置!? その言葉に俺はかなり興味を持った。

「この白色の球は魔力抵抗を調べる装置です。能力の高い人が使えば黒く、逆に能力が低い人が使えば薄くなっていきます」

「へぇ……使ってみてもいいか?」

「はい、かまいませんよ」

「あ、マリンからさせてください」

 マリンが俺の前に割って入り、灰色の球に手をかざした。

 球は黒よりのグレーに色が変わった。

「へぇ、君はなかなか魔法防御が高いね。お世辞じゃなく、本当に凄いよ」

 確かに、色で判断する以上、黒に近いということは本当に高い能力があるのだろう。

「えへへ、あ、スグルもどうぞ」

 マリンが手をはなすと、球は元の白色に戻った。

「よし、真っ黒に染めてやる」

 俺は息を呑んで、手に力をこめた。俺の隠れた能力よ、今ここに!

 手をかざした、その瞬間!

 信じられないことが起こった。

「まさか――そんな」

「どういうことなんですか?」

 バッカス、マリンがそれぞれ俺の球を見て感想を言った。

 あぁ、自分でも驚いたよ。

 まさか――

「球が透明になるって……俺、そんなに魔力抵抗ないのか?」

 感触はあるのに、球が完全に見えなくなっていた。

「ガラス球のようになる現象は確認できていますが、まさか光の屈折まで無視して消えて見えるとは……あ、魔法防御がなくても魔法攻撃をされることなんて普通の人生ではありませんからご安心ください」

「あぁ……ありがとうございます」

 フォローを受けたが、さすがに魔防無しは辛い。

「あ、そうだ、ハヅキちゃんもやってみる?」

 俺は椅子に座っていたハヅキちゃんにそう提案した。

「えっと、これは人間用ですから、ペットは――」

「あぁ、ハヅキちゃんは魔物じゃなくてぬいぐるみに憑りついた幽霊だから」

 村に住む以上、隠すことでもないので正直に言った。

「よろしくお願いします」

 ハヅキちゃんがテーブルの上で右前足を前に出す。

 バッカスは口を開けたまま信じられないといったゴメスに助けを求めた。

 ゴメスは黙って首を頷いた。

 それでも信じられないといったようなので、ハヅキちゃんがぬいぐるみから出てきた。

「改めてはじめまして。ハヅキです」

 セーラー服の美少女姿のハヅキちゃんが丁寧にお辞儀した。つられてバッカスもお辞儀をする。

「…………あぁ、これはどうもご丁寧に」

「では、私もやらせてもらいますね」

 ハヅキちゃんはそう言って、白色の球を触ろうとし、

「あ、霊体だからすり抜けちゃいました」

 照れ笑いをして、再び猫のぬいぐるみの中に戻った。

「では、今度こそさせていただきますね……」

 彼女がぬいぐるみの体を使って白色の球に手を触れた――次の瞬間。

 世界から光が失われた。

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