ショートストーリー04【神様と一緒】
二章に入るまでのショートストーリーです。
少しキャラの性格がギャグよりになりますがご容赦ください。
パスカルが実家に帰らなくてはいけないという理由で長期休暇に入り、俺は一人、役場で仕事を続けていた。
思えば、この世界に来て、ゆっくり休んだのは、シルヴァーに村長の座を奪われたときくらいではないだろうか? いや、そうに違いない。
などと愚痴をこぼしていても、仕事は終わらない。
そもそも、誰だよ、風呂を作りたいだとか、水道管を作りたいだとか、乗合馬車を走らせたいだとか言った奴は。
あぁ、採用することにしたのは全部俺だ。中には数年がかりの計画もあるが、今からやっていかないといけない仕事だ。
そもそも、村に水道管を走らせるのに、なんで都市同盟の許可がいるんだ? そりゃ、確かに東の山はマジルカ村の所有地じゃないが、誰の土地でもないだろうが。
いっそのことハンゾウやミコトの力を使ってマジルカ村を独立させてみようか?
反対する人間がいたらハヅキちゃんに憑りついてもらって、賛成だと公の場で宣言させたらいいんだ。
「……って俺は何考えてるんだ……」
そんなことをしたら、ハンゾウやミコトがいなくなった時に村が立ち行かなくなる。
むしろ、俺達がいなくなった後のことを考えて、俺達がいる間にできることをするのが俺の村長としての役目なのに。
どうやら、本当に疲れがたまっているようだ。
疲れをとるにはリラックスでもしたらいいというが、本などの娯楽品を買う余裕も我が家にはない。
ミコトに借金をしている状態で、村長の安月給ですべてを返そうと思えば一年は倹約生活をしなくてはいけない。
しかし、最近だと一日18時間くらい働いている気がする。もちろん残業手当などももらえない。
村長って……本当に割に合わない仕事だ。
「……今日は帰るか」
片付かない仕事を前に、俺はため息をついて窓の外を見た。
すでに窓の外は暗くなっていた。
「スグルさん。お疲れ様です。食事の用意はできてますよ」
家に帰ると猫のぬいぐるみに入ったハヅキちゃんが器用にパンの乗ったお皿を運んでいた。
「あぁ……ハヅキちゃん、ありがとう。あれ? 今日はちょっと豪華じゃない?」
スープとパンと野菜炒めだけではなく、魚のムニエルが並んでいた。
海から離れたマジルカ村だが、魚の魔物が倒したときに手に入るカードは具現化するまで鮮度を維持できるので、海から遠くても海の魚が手に入る。
目黒の秋刀魚のようなネタはこの世界では通用しない。
ただし、もちろんカードとはいえ輸送の手間はあるため、少しお高い商品だ。
お皿を並べ終えると、ハヅキちゃんが猫のぬいぐるみから出てきて、ポニーテール、セーラー服の美少女幽霊となった。
「はい、今日は商会のお給料日だったんで、奮発しちゃいました」
両手をそろえて頬に添えて喜んでいた。
「へぇ、給料日だったんだ……」
俺は何気なくそう呟いて、ふと思ってしまった。
「ハヅキちゃんってさぁ……」
「はい?」
「お給料どのくらいもらってるの? ちょっと気になって」
ハヅキちゃんが本当の猫ならば、お給料に鰹節をもらってます、みたいなノリが通用するだろう。
だけれども、パスカルはお金にはいい意味で細かい、例え相手が幽霊だろうと猫のぬいぐるみだろうと、払うものは払う性格だ。
「あぁ……もちろん、言いたくなければいいんだけど、村の人の収入状況とか村長として知っておきたいんだ。なのに家族の給料も知らないっていうのは村長としてどうかと思ってね」
俺は慌てて言い繕う。が、ハヅキちゃんは笑顔でその金額を言う。
それは――俺の給料のだいたい1,5倍はあった。
「そうなんだ……結構もらってるんだね」
「鑑定スキルが役立つみたいで、別の商会からも鑑定してほしいアイテムがこの村に送られてきているみたいですよ」
「そうか、ハヅキちゃん、頑張ってるんだね。でもいいの? そんなに頑張って稼いだお金を俺の食事代にしちゃって」
「はい、私以上にスグルさんが頑張っているのはよくわかっていますから」
笑顔で言うハヅキちゃんに、俺は感動した。
が、それ以上に、自分の村長としての評価と給金が釣り合っていないのではないかという不満が心に強くのしかかった。
その日の夜、俺は夢を見た。
それが夢だとわかったのは、彼がいたからだ。
「やっほぉ、お兄ちゃん! 久しぶり」
五歳くらいの、私立小学校か私立幼稚園みたいな綺麗な学生服を着ている少年。
思い出した、自称神様だ。
なんで忘れていたのか? というくらい重要人物だ。
「もしかして、何かボーナス特典がもらえるの?」
「ううん、お兄ちゃんの様子を見に来ただけだよ」
「そのお兄ちゃんっていうのやめてくれないか?」
「そう? 見た目子供だから敬意をこめたんだけどね」
神様はちぇっ残念そうに言った。
「では、剣崎傑殿とお呼びします」
「もっと普通に呼べ。てかなんで俺のフルネーム知ってるんだよ」
「神様だからそのくらいは知ってるさ。わかったよ、普通に呼ぶよ、スグル村長」
なんでだろう、確かに村長と呼ばれるのが一番普通に思える。
「で、様子を見に来ただけって、神様は暇なのか?」
「まさか。これでもこの世界の人類、魔物、精霊、その他全てを管理しているからね。忙しさでいったら、スグル村長の比じゃないよ」
「まじかよ、俺なんてこの村の管理だけでいっぱいいっぱいなのに」
そう言えば、魔物のカード化とか魔法とか、下手すれば世界が崩壊しかねない要素てんこ盛りのこの世界を管理するというのは大変だな。
「あとは、異世界からの来訪者の管理も重要な仕事だからね。スグル村長はキーパーソンになる要素があるからこうして話をしに来たのさ」
「それは喜んでいいのか?」
「もちろんだよ。日本にいたころからなんの能力も持たないのに、ボーナス特典も日本の記憶だけ。そんな変わったプレイスタイルを維持しているのはスグル村長くらいだよ」
好きで維持しているわけではない。
「ぐっ……いるだろ、他にも少しは……というか、他に日本人がこっちに来ているのか?」
「あはは、そのあたりは自分で調べてよ」
「いいだろ、どうせ忘れるんだし」
「まぁ、こっちにもいろいろ都合があるのさ。情報は小出しにしたほうが面白いからね」
神様は無邪気に笑ってそう言った。
「でも、神様ってやっぱり儲かるんだろ?」
「そんなわけないよ。教会への寄付も全部教会の取り分で僕には回ってこないしさ。無料働きだよ」
「え? 無料働き? 世界全体を管理しているのに?」
俺が尋ねると、神様は「うん」と頷いた。
その時、俺の価値観が崩壊した。
「そうか、神様は俺より仕事が多いのに給料が低いのか」
「え? ちょっと、その言い方はどうかと思うよ」
「そうかそうか、下には下がいたのか。てっきり俺の待遇が一番悪いと思ってた」
「ちょっと、その言い方は絶対ダメだと思うよ。僕、一応神様だからね」
神様が文句を言ったが、俺はその神様の頭をポンポンと叩き、笑顔を浮かべた。
「辛いと思うが、それが世界のためになると思えるから頑張れるんだよな。俺もわかるよ」
「うん、その通りだけどさ、ちょっと待って、別に給料がなくても僕は困らな――」
「よし、いい話も聞けたし、もう寝るか。あ、神様、帰るときは戸締りよろしくね!」
「スグル村長、もういいの? 神様に会ったのに聞いた話が給料の話だけになるよ」
「いいのいいの、それで俺は万事OKさ」
「なんでそれで満足できるのさぁぁぁ!」
神様の怒る声を聞きながら――
声を聞きながら、俺は目を覚ました。
あれ? 誰の声を聞いて目を覚ましたんだっけ?
どうも思い出せない。確か、とても、とても重要な話を聞いたと思ったんだが。
だが――なぜだろう、とても気持ちのいい朝だ。
昨日まで村長の仕事が辛く、逃げ出したい気持ちだったが、今はどうだ?
おそらく、世界にはもっときつい仕事を安い仕事でしている人いるだろうと思えてきた。
そういう人のためにも、俺は村長として頑張りたいと思った。とても清々しい気持ちだ。
ああ、神様、ありがとう。気持ちのいい朝をありがとう。
なぜか神に感謝しながら俺は寝室を出た。
ゴールデンウィークに休みがとれないために書いたショートストーリー。




