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2 憎んではいけない山賊退治

 山賊のイメージでいえば、やっぱりバンダナと髭面で、斧を持って襲い掛かってくる感じか

 風呂に入っていないために不潔で、毛皮の服とか着ていそうだな。

 イメージが膨らんでいくなか、ふとあることを思い出した。

「ああ、そうだ。ハヅキちゃん、動いていいよ」

 そういうと、ハヅキちゃん(の入った猫のぬいぐるみ)は俺の肩から飛び降り、大きく伸びをする。その姿は本当に猫だ。

 ハヅキちゃんは俺を見上げてきて、

「スグルさん、私のこと忘れてたでしょ」

 と少し恨めし気に問いかけてきた。

「忘れるわけないじゃないか。あ、爺さん、彼女は俺たちの仲間のハヅキちゃんね」

「なんと、人形使いでいらっしゃったのですか?」

「いや、うん、まぁそれでいいや」

 足元でハヅキちゃんが見つめてくる。黒いビーズの瞳のせいで表情はわからないはずなのに、睨まれていると思ってしまう。気のせいだと思いたい。

 この状況でぬいぐるみが動き出しても追い出されることはないが、幽霊だとかいったら爺さん驚きのあまり昏倒して死んじまいそうだし。

 そういうわけで、忍者ハンゾーを主軸として山賊退治がはじまることになったのだが――

「なぁ、爺さん、日本って知ってるか?」

 村長から譲ってもらった革製の靴を履きながら俺は試しに尋ねてみた。

「ニホン? いえ、知りませんが」

「今話してる言葉、日本語って言葉じゃないの?」

 さっきから全員日本語で話している。

 吹き替えものの映画を見ているようで違和感ありまくりだ。

「ニホンゴ? 言語は古の竜が使うと言われたドラゴン語と今は使われていない古代語の他はこの現代語だけだと思いますが」

 やはり、ここはどうやら日本ではない。

 それどころか、爺さんの話が本当なら……

「ドラゴン? そんなのいるの?」

「わしは生まれてから一度も見たことがございませんが、北の谷に住んでいるそうですぞ」

 村の伝承、というやつだろうか?

 ドラゴンなんて本当にいるとは思いたくないが……日本語も知らないのに日本語を話す村人たちの様子を見ると――

(ゲームの中とか、そんなふざけた話があるのか? 本当に――)

 アナザーキーには誰もが知らない秘密が隠されている。もしかして、秘密ってこれ?

 でも、爺さんとも普通に話すことができている。人工知能なんてまだ開発されてないんじゃないか?

 それに、この世界の再現度は、俺の常識なんて打ち砕いていた。少なくともブルーレイディスク一枚やダウンロードデータで再現できるような世界じゃない。

「スグルくん、大変よ」

 山賊が来たか!

 ミコトの方を向くと――山賊ではない、小さな白い粘土人形みたいなのが100匹ほど積み重なって二つの椅子のようになり、そこにミコトとハンゾウが座らされていた。

「くそっ、魔物か!」

 それほど強くはなさそうだが、数が多い。しかも人質をとられている。最大戦力であろうハンゾウまでもが捕まってるとなれば万事休すか。

 これはやばい、こんなところでゲームオーバーか?

 と思ったら――

「そうじゃないの。袖の下にこういう紙切れがあってね。ゴミだと思って捨てたのよ」

 ミコトが見せたのは一枚の紙切れだった。紙ふぶきに使われるような紙切れだ。

 それを彼女は床に落とす。大地に接した紙切れはまるで空気を入れられた風船のように膨らんでいき、粘土人形のような姿を取った。

「で、ちょうどいいから椅子にしてみたのよ」

「気持ちいいでござる。この感触は癖になりそうでござるよ」

 あぁ、人質じゃなくて、ただ座っていただけなんですね。

 ミコトは「それで」と一体の粘土人形を持ち上げ、

「これは何かしら?」

「い……いや、わからん」

 異世界の魔法?

 助けを求めるように爺さんを見たが、爺さんもまたそんなもの見たこともないようで、俺を見て首を横に振った。

 なんだよ、これ。

「もしかしたら、式神ってやつかもしれない。陰陽師とかが紙から魔物とかを造り出すって聞いたことがある」

 少なくとも紙ふぶきのようなものではなかったが。

 武器破壊する忍者に式神使いの巫女。

 凄いな、俺ももしかしたら何か見えない技術があるんじゃないか? 魔法とか使えないかな?

「強さはわからないが、その粘土人形に対山賊戦の先陣をきってほしいんだが。数は凄いからな」

「そうね。そこの村長さんに先陣をきってもらおうと思ったんだけど、それよりは使えそうね」

 そんなことを考えてたのかよ。年よりは大事にしてやれよ。

 爺さん、恐怖でぷるぷる震えて生まれたばかりの小鹿みたいじゃないか。

 シスターも顔が引きつっている。

 その時だった――

 ハンゾウ、ミコトが椅子から立ち上がった。

 ん? どうしたんだ?

 と思ったら、今度はハヅキちゃんがその毛を全身逆立てさせる。

「私の野生の勘が告げています。何かが来ます」

 野生の勘? いや、ハヅキちゃんは野生の猫じゃなくてぬいぐるみでしょ?

 そう思ったときだった――

「村長さん! 来た! やつらが来た!」

 建物の上からさっきの男の子の叫び声が。

「行くぞ!」

 俺はそう言って、ミコト、ハンゾウ、ハヅキちゃんとともに村の入り口に走っていく。てか、ハンゾウもミコトも足が速すぎる。

 まるでおいつけない。ハヅキちゃんはさすがにぬいぐるみだけあって俺より遅い。俺はハヅキちゃんの身体を持ちあげ――

「きゃっ、どこ触ってるんですか」

 肩に乗せた。え? 俺、どっかまずいところ触った?

「すまないが、急ぐぞ!」

「あんなところ触られたら、私……スグルさんのおよめさんになるしかありません」

 だから、俺は一体どこを触ったんだよ。

 そうして入口にたどり着いたとき、確かにいた。

 斧を持った30歳くらいのおっさんを先頭に、クワやスキを持った男達がこっちに向かって歩いてきている。

 先頭の男以外はまるで一揆をしている農民のような装備だが、当然、油断はできない。

 クワもスキも十分な武器になる。

「おい、村長! 例のもの貰い受けに来たぞ!」

 斧を持った男がそう叫んだ。

 とてもすごい迫力だ。

 だが、俺の仲間たちはそれに尻込みすることなど全くなく、

「よし、行くわよ、ハンゾウ!」

「うむ、ハンゾウ参るっ!」

 ミコトが粘土人形と一緒に突撃、そして、ハンゾウが一瞬にして消えた。

 と思ったら、半蔵はすでに先頭を歩く山賊の頭のような男に急接近。

「女山賊がいるかと期待した拙者の無念、晴らすときは今!」

 そんな無念勝手に抱いてるんじゃねぇと内心ツッコミをいれるが、ハンゾウの力は凄かった。

 クナイで斧に攻撃を加える。斧は一瞬にして粉砕。

「なんじゃこりゃぁぁぁ」

 男が叫ぶ。そりゃそうだ、一瞬にして斧が粉々に砕け散ったんだから驚くよな。

 そこにミコトの粘土人形があらわれ、男に飛び移っていく。

 それは粘土人形に囲まれるというよりかは、巨大な粘土に飲み込まれているような光景だった。

 山賊達はそれを見ただけで戦意を喪失、逃げ出そうとする。

「逃がさないわ!」

 ミコトはそういうと、今度は単身山賊達の中に飛び込み、体術を用いて山賊達をさばいていく。動きが正確にはわからないが、彼女が手を払うと山賊達は一回転して大地を背に倒れていた。

 だが、散り散りに逃げていく山賊達を全員倒すのは無理そうだ。

「私も行きますね!」

 そういうと、肩の猫のぬいぐるみがぽとりと落ちた。

 そこから空気のように半透明セーラー服美少女のハヅキちゃんが現れて空中を飛んでいく。逃げ出そうとする山賊にすぐに追いつき、その山賊に体を重ねると、

 突如、戦闘を走る山賊が反転。

「ここから先は行かせませんよ!」

 と男の太い声なのに女の子の口調でスキを構えていった。

 ハヅキちゃん、男にとりついたのだ。

 しっかりハヅキちゃんが憑いたところを見ていた山賊は恐怖で元来た道を引き返し、それを待ち構えていたようにハンゾウが一人ひとりを無効化していく。

 俺も行く!

 俺は逃げる山賊に向かって駆け出した。その圧倒的な勝利の雰囲気に恐怖はなかった。

(これは異世界補正だ。きっと俺にも何かある!)

 魔法でも秘技でも前世の力でもいい、来てくれ!

 一人別方向に逃げようとする山賊に回り込んだ。

 相手は逃げようとする山賊、武器はクワ。

 さらにこっちには異世界パワーがある。

 負ける道理がない。

「これでもくらいやがれ!」

 俺はクナイで相手を薙ぎ払おうとし、

「そんなもんくらうか!」

 山賊がクワを横に薙ぐと、

「ぐはっ」

 横腹に当たって俺は横に飛ばされた。

 いてぇぇぇ、刃の部分だったら間違いなく死んでたぞ!

 って、山賊、俺に向かって今度はクワを振り下ろそうとしてないか?

 そんなのくらったら死ぬ! 絶対死ぬって!

「スグルくん! すぐにスグルくんの救助を!」

 ミコトの指示で、粘土人形が一体、目にも止まらぬ速さで山賊の鳩尾に突撃した。その衝撃で山賊は泡を吹いて倒れる。

(はは――俺、人形一体の実力にもかなわないのか)

 そう思いながら、意識を手放した。



 目を覚ましたときは、俺はベッドに横になっていた。

 ランプの淡い光が部屋を照らす。

 石造りの天井を見るかぎり、自分の部屋ではなさそうだ。

「大丈夫ですか?」

 俺のまくらもとにいたハヅキちゃんがそう尋ねる。

「あぁ、このくらい大したことないよ」

 俺は痛む腹を押さえながら、ゆっくりと上半身を起こす。

 そこは広い部屋だった。

 酒場か何かだろうか? カウンターの奥に棚があり、酒瓶が置かれている。

 椅子も複数ある。

 あれ? なんでこんなところにベッド?

 と思ったら、ベッドと思っていたそれは、ミコトの粘土人形が積み重なっているだけだった。

「ミコトが運んでくれたのか?」

「ええ、その子たちに命じてね」

 そうか、助けられちゃったな。

 俺は身体の下の人形をやさしく撫でて、再度現状を確認する。

 部屋にいたのは、俺、ミコト、ハンゾウ、爺さん、シスター、女の子、男の子。

 そして、捕えられた12人の山賊。全員、白いロープにくくられて身動きができなくなっている。

 あの白いロープはおそらく粘土人形だろうな。結び目が全く見えない。

 さて、この後の山賊の処遇だが。

 どうしたものか――決まった法律などあるかはわからないが、小さな村でも、きっと村の掟とかあるんだろうな。

 山賊には死刑? あんまりグロテスクなものは見たくないんだが。

「こやつらの処遇はいかがいたす?」

 ハンゾウが尋ねた。

 その恐怖に山賊の一人が「ひぃっ」と声をあげる。

 爺さんが何かを言いかけた、その時だった。

 男の子と女の子が斧を持っていた山賊の親玉っぽい男の前に立ち、

「お願いです!」

「どうか、おじさんたちを許してあげてください!」

 そう言って頭を下げた。

「ならん、こやつらは元は村人とはいえ今は山賊。村の掟により――」

「ちょっと待て、話が見えないんだが、爺さん、こいつらは元は村人なのか?」

 俺は尋ねた。

「いかにも」

「いや、さっき聞いた話だと働ける村人は全員山賊に殺されたと聞いたと思ったんだが」

「いえいえ、働ける男は女房や子供を伴って全員山賊に。シスターは神の教えに従い、孤児だったこの子たちと村に残ったんです」

 山賊に殺されたんじゃなくて山賊になったのかよ。

 なんと紛らわしい。

「でも、なんでまた山賊なんかに?」

「それは税金を納められなかったからです」

「税金を?」

「いかにも――」

 爺さんが話をはじめる。

 この世界には東西南北よっつの大陸があり、ここは西の大陸。

 西の大陸には国というものは存在しておらず、いくつもの自治を持った都市がある。

 この村もその自治都市のひとつである。

 ただ、都市がそれぞればらばらに行動していたのでは大国に攻め込まれたときには一気に攻め滅ぼされる。

 そのため、自治都市同士が連携をとり、金を出し合い、魔物や他国に対する強化やインフレを抑制するという名目がある。

 そのために出す金のことを税金と呼んでいた。

「昨年は干ばつにより苗が枯れ、果樹の実りも僅か、そのため税金を納める余裕は我々にはなかった」

 不作による年貢の取り立てとのいざこざは時代劇でもよくある話だ。

 そうか、それで税金を納められなくなった男達が村を捨て――

「領主会議で税金を納める額を減らしてもらおうと思った。そして、わしは勢いをつけるために酒をあおり――」

 爺さんは熱く語った。

「酔っていい気になったわしは、気が付いたら、去年の倍額の税金を納めるとみんなに宣言してしまったのじゃ。なんと、なんとふがいない、わしが村長としてしっかりしていたら。それを聞いた村人は怒って全員出ていってしまった。他の村に移り住むから、わしがため込んでいた村の財を全部よこせと山賊のような――」

「村長さん、それは言わない約束でしょ」

 と優しいシスターさん。いや、甘やかしてるだけな気がしてきた。

 俺たちはその話を理解し、どう考えても一つの答えにしか結びつかない。


『全部お前が悪いわぁぁぁぁぁ!』



 俺たち、子供たち、村の男達誰もが理解していたことだった。

 とりあえず、村の男たちは全員解放、一人を山に使いにやり、彼らの家族もとりあえず今日は家に帰るように伝えさせた。

 報酬として約束していた夕食は決して豪華とはいえないものだったが、状況が状況だけに文句はいえない。

 今は空き家となっていて、旅人や行商人に有料で貸しているという家で俺たちは一泊することになった。

 二つの部屋に男女それぞれ別れている。

「これからどうしたものかな……」

「リーダーはどうお考えで?」

「あぁ、そのリーダーってのはやめてくれ、スグルでいいよ。俺もハンゾウって呼び捨てにしてるし」

 あと、ハンゾウ、立ったまま寝るのはやめてほしいんだが。夜に目が覚めたら絶対に心臓に悪い。

 しかも、忍び装束を未だに取ろうとしないし。

「そうだな、明日考えてみるか」

 下手な考え休むに似たり。

 考えたところでここがゲームの中なのか異世界なのかもわからないし、元の世界に戻る方法もわからない。

「明日? 今からしないのでござるか?」

「急いでどうにかなるものではないだろ」

「確かに警戒はしているでござろう。だが、スグル殿も見たいではござろう?」

 見たい? 戻りたいとか、知りたいとかならわかるが、何を見たいというのだろうか。

 よくわからない俺はハンゾウに尋ねた。

 すると、ハンゾウは即答した。

「ミコト殿の寝姿をでござる!」

「当たり前のように言うな、そんなことしたら殺されるぞ」

「む、そのことについて話していたのではござらんのか?」

「んなわけあるか! くそっ、俺は寝るぞ。ミコトに寝起きドッキリしたら逆に俺の心臓が止まるわ」

 そういい、俺は眠りについた。

 太陽が昇る少し前、隣の部屋から、車にひかれたカエルの断末魔のような声が聞こえてきた。

 ハンゾウは部屋にいなかった。

――合掌。

 俺は両手を合わせ、もう一度眠ることにした。


 翌日、村の男――昨日、斧を持っていて最初にハンゾウに武器を壊され粘土人形にやられたおっちゃんがやってきた。

 どうしたんだ、と俺が目を覚ます。。

「大変です! ってなんですか、ハンゾウ様、そのお怪我は」

 隣のベッドではハンゾウが虫の息で横になっていた。

「こいつは男の本能に従っただけだ、それよりどうしたんだ?」

「村長が、あのくそじじいが私財と村の運営資金を全てもってとんずらしました!」

 その言葉の意味をゆっくり考え――

「あのくそじじぃぃぃ!」

 どうしようもない爺さんに怒りを覚えたのだった。

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