25 再び絶対おかしいスキル確認
昨日、乗合馬車ギルドで仮に決めた運賃や、馬車の費用などをもとに再度予算を組み直す作業が続いていた。
パスカルは今日は商会での仕事があるために来ておらず、今日中に一人でしないといけない。
だというのに、
「暇ですねぇ」
マリンは俺の真正面で、パスカルの使っていた椅子に座り、足をぶらぶらさせながら、俺に聞こえるように呟いた。
だが、独り言なので、俺はそれを無視した。
ハヅキちゃんがガルハラン商会で鑑定の仕事をしていて、一人で留守番をさせるわけにもいかないので、仕方なく役場に連れてきたが失敗のようだ。
乗合馬車の出発時間と到着時間による酒場や宿屋の収入予測や、オセオン村との交易による収支予想などもまずは村長として作るように言われている。
本来はパスカルがしてくれている仕事だが、彼女がこの村にいるのは五年間限定。その後のことを考えると俺が学ばなければいけない作業だ。
それはまるでテストを受けている学生のようだ。いつも以上に集中しなくてはいけない。
「ひぃぃまぁぁぁでぇぇすぅぅよぉぉぉ」
マリンがぶらぶらさせていた足はついに水平にまで上がり、さらに角度は広がっている。
そこまで足が上がっていると白い布きれがはっきりと視界に入る。
「そんなに足を上げるとパンツが見えてるぞ」
「にゃっ! スグルさん、見ましたね」
「お前が見せただけだ」
俺は顔を上げて、顔を赤らめてスカートを押さえているマリンに言った。何を一人前に恥ずかしがっているのか。
「そもそも、くまさんパンツで欲情するようなロリコンじゃないからな」
「しっかりガラまで見てるじゃないですかっ!」
マリンが手を上下にばたばたさせて文句を言ってきた。
全く仕事に手が付かない。
「他の子供と遊んで来いよ」
「ふん、小さな子供と遊ぶなんてそんな子供のようなことできません」
「そういうやつは大抵子供だ……はぁ……ついてこい」
俺はため息をついて立ち上がった。
「え? どこか連れて言ってくれるんですか?」
「あぁ……行くぞ」
俺は役場から出ると、マリンが出たのを確認し、鍵をかけて、外出中の札をかけた。
「あ、村長、おはようございます」
町を歩いていると、4歳から8歳くらいの子供の一団がかけてきて、俺に挨拶した。
確かに、全員マリンより幼いが、マリンよりしっかりしている気がする。
遊んでいるのかと思ったら、全員水を入ったバケツを運んでいた。
この世界において、水汲みというのはとても重要な仕事だ。
お前もあの子たちを見習って働いたらどうだ? と言おうとしたが、俺は言葉を飲み込んだ。
そのまま歩いていき、目的の場所についた。
「ここ、どこですか? 普通の家に見えますが」
「教会だよ」
俺はそう言って建物の中に入った。
ただ、シスターの姿はなかった。孤児を育てているシスターに昼間だけでもマリンを預かってもらい、ファナのようなお利口な子供に教育してもらおうとか思ったのだが、留守なら仕方ない。
礼拝所は基本、鍵はかけられていない。鍵がかけられているのは、礼拝所の奥のシスターたちの私室のほうだろう。
「……神聖な空気で満ち満ちていますね。ここでなら白魔術がうまく使えそうです」
「言っておくが、この世界には黒魔術とか白魔術って魔法はないぞ」
「またまた御冗談を」
「本当だ。俺も聞いた話なんだが――」
この世界にある魔法は全部で10種類しかないらしい。
攻撃魔法として、火・氷・地・雷・風・光・闇の7種類。
あと、回復と補助が存在しており、その9種類にはそれぞれ対応したスキルが存在する。
そして、唯一スキルを必要としないのが、俺の使えるシステム魔法だ。
また、システム魔法以外の魔法を使うには、魔法技能というスキルが必要で、魔法技能がないと魔法を覚えることができないという。
当然、俺にも魔法技能というスキルはないため、魔法を使うことはできない。
俺は魔法を使うことができない。悔しいので2回言いました。
「そんなわけありません。マリンは大魔法使いです! きっと伝説魔法の一つや二つ使えるはずです」
「あぁ、それは絶対ないな」
俺は笑いながら言った。
伝説魔法。それが何なのかは誰も知らないだろう。だが、その取得条件を俺は知っている。
なぜなら、この世界に来る前のボーナス特典選択画面にこうあった。
【伝説魔法取得可能】
そう書かれたボーナス特典があった。しかも、消費ポイントは5000ポイント。つまり、初期ポイント100しかないボーナス選択時においては入手は絶対に不可能だ。
ただ、それならどうして入手できない特典がボーナス特典として存在しているのか? それは俺にもわからない。
「まぁ、なんなら見てみようか?」
「見てみる?」
「あぁ、村長特権で、そこに立てばマリンの持っているスキルを見ることができるぞ」
「え? 本当ですか! ぜひ見てください!」
マリンが自信満々にスキルの陣の上に立つ。
「……スグルさん、この魔法陣はもしかしてマリンを洗脳するための術式を埋め込んでいたりしませんよね」
「しないから。というか、そんな魔法できるなら魔物倒しに行ってるから。ったく、見るぞ」
そう言って、俺はスキルサーチの魔法を唱えた。マリンのスキルが脳に直接文章として浮かび上がる。
マリン【黒魔術9・白魔術3・空き・空き・空き・空き】
俺は目を……いや、脳を疑った。
なんだ、これ。黒魔術と白魔術が本当に存在している。次にスキルチェンジの魔法を唱えて、空きを選択する。
【魔法特性1・信仰(神)1】
魔法特性、つまり彼女は魔法使いの才能を持っていた。
「ふふん、どうですか? 伝説魔法はありましたか?」
「いや……伝説魔法はないが、黒魔術と白魔術があった。レベルは低いけど。マリンは魔法を使うことができる」
「え? レベルが低いですって、なんでですか! 昨日の夜もハヅキと一緒にお星さまに向かってお願いしたのに!」
「そんな方法で魔法が使えてたまるかっ!」
俺が怒鳴りつけると、マリンはびくっとなり、
「き……キレル大人ですか、そんなことでこれから村長としてやっていけると思ってるんですか」
俺を指さしてギャァギャァ喚いた。
喚きたいのは俺のほうだ。
寝る前に毎日瞑想1時間を日課としていたこともあったし、糸に小石をくくりつけてじっと1時間見つめるという修行も何度もしたというのに、魔法特性は身に付かなかった。
それをこのお子様は……
「わかりました。マリンの才能に嫉妬しているんですね」
「ぐっ」
「ふふん、図星ですか」
マリンは勝ち誇った笑みで俺を見上げてくる。見下しているつもりだが、身長差のせいで俺を見上げている状態になっている。
だが、見た目は見上げていても、俺のことを見下しているのは間違いない。
「で、魔法ってどうやって使うんですか?」
「あぁ……とりあえず、魔法書と契約しないと魔法は使えないみたいだから、当分魔法はお預けだな」
「じゃあ、魔法書を買いに行きましょう!」
「待て、そんな金は俺はないぞ」
魔法書の値段はわからないが、俺は現在借金持ちの状態だ。
無駄遣いなどできるわけがない。
そう言ったら、マリンは何か考え、
「スグルさん、あなたは魔法に並々ならぬ興味をお持ちのようですが、魔法を見たことがありますか?」
「システム魔法なら何度か見たし、ハンゾウの火遁の術とかも魔法のようなものだが……本物は見たことないな」
村で戦っているのはハンゾウとミコト、ドラゴンレンジャーズの冒険者。
ドラゴンレンジャーズの冒険者にも魔法が使える奴はいなかった。まぁ、魔法というのは才能がないと使えないらしく、逆に言えば魔法が使えるのなら冒険者として重宝される。
彼らは冒険者として食べていけなくなり、シルヴァーの息子になったような奴らだから使えないのは当然だ。
「実際に見たいと思いませんか?」
魔法を見る?
ははは、何言ってるんだ。魔法なんて派手なエフェクトだけで大したことない。ハンゾウの火遁の術や風遁の術も魔法みたいなものだし、今更興味などあるはずもない。
「魔法書の値段だけでも聞きに行くか。それで諦めるだろう」
誰が諦めるのかはあえて言わずに、俺とマリンは教会を出た。