ショートストーリー02【ナイフ訓練】
二章に入るまでのショートストーリーです。
少しキャラの性格がギャグよりになりますがご容赦ください。
役場の終業時間を過ぎても、俺はひたすら手を動かし続けていた。
仕事は一段落ついて、今日は残業はしなくてもよさそうだ。なのに、どうして手を動かすのか?
それは、手に持っているのがペンではなく、ハンゾウからもらったクナイだからだ。
幅1メートル、高さ2メートル、厚さ10センチメートルくらいの板。それに向かって俺はひたすらクナイを振るっていた。
仕事が終わってから一時間、一日100回、こうして木の板に対してクナイを振るうのが俺の日課になっていた。
いわゆる反復練習。こうすることにより、「短剣」というスキルを手に入れることができる。
普通なら100回程度全力で攻撃することで手に入るらしいが、未だに手に入っていない。
俺の現在のスキルは「村経営12・計算15・商売14・身体防御1」。
サブとして、料理技能1と料理知識1、信仰(神)1がある。迷宮でハンゾウ達と一緒に魔物を倒したが、物質戦闘スキルは手に入らなかった。
スキルが手に入るには運が必要だという。短剣スキルといい俺には運がないようだ。だが、せっかく異世界に来たんだ、せめて魔物を倒せるスキルの一つや二つは欲しい。そう思い、今日もひたすら板を叩いていた。
そして、教会へと向かう。これもまた俺の日課になっていた。
「シスター、こんばんは」
「村長、よくおいでくださいました」
修道服を着た若いシスター、ミシェルが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、村長」
15歳の少年キーラも出迎えてくれた。妹のファナの姿は見えないな。別の場所にいるのだろうか。
二人は10年前、この町に訪れていた冒険者が村に預けていった子供だ。
夫婦そろって冒険者だった彼らの両親だが、南にあるという迷宮に向かい、帰らぬ人となった。
そして、10年前にここにいた先代のシスターが引き取り育てていたという。
その先代のシスターさんも去年病気で亡くなり、そのシスターの娘であるミシェルが新たなシスターになった。ちなみに、ミシェルもまた元は孤児であり、書類の上ではシスターの養女であるらしい。
そういう経緯もあって、三人は家族のように教会で暮らしている。
どこかの養子家族とは大違いだ。
そして、俺は教会の中央にあるスキルの陣の上に立った。
「スキルサーチ!」
魔法を唱え、淡い光を全身に纏わせる。
そして、頭に俺のスキルが浮かんだ。
スグル:【村経営13・計算15・商売14・身体防御1】
村経営スキルが1レベル上がっていた。スキルレベルが上がるのも久しぶりだ。
だが、メインはこれから。
「スキルチェンジ!」
スキルを変更する魔法を唱える。身体防御を他のスキルに変更するように念じると、頭に変更可能なスキルが並んだ。
【料理技能・料理知識1・信仰(神)1】
いつも見るのと同じサブスキル。だが、最後にそれがあった。
【短剣1】
思わずガッツポーズをする。
よし、短剣スキルゲットだ。とりあえず、付け替えようかな。
と考えていると、キーラが後ろから声をかけてきた。
「村長、僕のスキルレベル見てくれませんか?」
「あぁ、わかったよ。じゃあ、ここに立って」
俺はキーラをスキルの陣に立たせる。
そういえば、キーラのスキルを見るのは初めてだな。
「キーラって普段はバランと一緒に木の伐採してるんだっけ?」
「あぁ、そうだよ」
キーラが元気に頷く。
「そうか、じゃあ見るぞ」
そう言って、俺はスキルサーチの魔法を唱えた。
キーラ:【斧6・伐採7・採取3・素手4】
俺は調べたままをキーラに伝える。
「あぁ、斧レベルまだ6なのか……」
「いやいや、斧レベル6なんて凄いじゃないか。毎日木を切ってるおかげだな」
「ダメだよ、村長。レベルは10になって一人前、それ以下なんてむしろ恥ずかしいよ。村長って、村長になったの最近なのに、しかも僕と一歳しか変わらないのに、もう村経営スキルとか計算スキルとか10を超えてるんでしょ?」
「うん。まぁな」
「流石だよ。俺なんて計算レベル1だしさ。ダメダメだよ。まぁ、スキルはつけないとレベルが上がらないから当然なんだけどさ」
「レベル1ってダメダメなのか?」
「うん、ないのも同じだよ」
ないのも同じって、ま、まぁ、レベル1ならってだけでレベルはこれから上げたらいいんだしさ。うん。
毎日一時間素振りすれば、一年後にはレベル10くらいになるだろう。
「本当にレベルってなかなかあがらないよな。毎日朝から夕方まで斧を振るってるのにレベル6だなんて」
そ、そんなに頑張ってレベル6なのか。魔物を倒さないとレベルってあがらないのか?
「そんなことありませんよ、キーラ」
ミシェルが笑顔でキーラに言う。
「キーラは一日で斧スキルを覚えたのですから、才能はあるはずですよ」
「へぇ……一日で覚えたんだ……朝から晩まで斧を振るったら覚えられるのかな」
「いいえ、キーラはその日は体験ということで、三十分斧を振るってただけですから。才能があったんだと思います」
「そ……そうなんだ。ちなみに、ナイフを500回くらい振るってようやく短剣スキルを手に入れる人ってどのくらいの才能があると思う?」
「あはは、村長。そんな奴いるわけないじゃん。短剣スキルって、100回ナイフを全力で振るったらほぼ全員が覚えるスキルだよ?」
俺、500回どころか、1000回程度クナイを振るってようやく短剣スキル覚えたんだけど。
キーラは俺が冗談を言ったと思ったのだろう、元気に笑い、
「ありがとう、村長。僕を慰めようとしてそんなありもしない話をしたんだよね?」
「あ、あぁ。キーラは斧の才能があるんだしさ、頑張れよな」
ひきつった笑みを浮かべながら、俺はキーラにそう言った。
才能……俺、戦いの才能まるでないのか?。
と、とりあえず、ある程度短剣スキルレベルがあがったら、ハンゾウに迷宮に連れて行ってもらって魔物を倒せば一気にレベルが上がるはずだ。
「あら、村長も教会にいらしたのですか」
聞きなれた声が聞こえて振り返ると、金髪縦ロール狐耳少女のパスカルがいた。
「シスター、頼まれていた花をお持ちしました」
パスカルは白い花束をシスターに渡し、
「村長、私のスキルも見ていただけませんか?」
「あぁ、わかった」
俺はスキルの陣に立ったパスカルにスキルサーチの魔法を唱える。
パスカル:【商売20・計算19・接客13・魔物使い9】
お、商売スキルが20に上がってる。スキルレベルは20で玄人レベルと言われている。
さぞや喜ぶだろうと思ってパスカルに伝えたら、
「接客スキルが思ったよりあがってないですわね……」
それほど喜んでいる様子はなかった。
キーラといいパスカルといい、なんなんだ、この落ち着き様は。
俺なんて短剣スキル1を覚えて、心の中でファンファーレが鳴り響いたのに。
「あぁ、パスカル、サブスキルの確認もしておくか?」
「ええ、お願いいたします」
「わかった。スキルチェンジ」
そう魔法を唱え、魔物使いのスキルを変更しようと念じる。
「お、料理知識と料理技術を覚えてるぞ」
「最近料理を始めたからですわね」
確かに、俺が金がないため、たまに料理を差し入れしてもらっている。
他には、前と違いは……ん?
「パスカル、短剣スキル覚えてるぞ? 短剣で鍛えてたのか?」
「え? そんなはずは……」
パスカルは怪訝な顔をして考えた後、
「そういえば、今日はやけに商会への手紙が多かったので、ペーパーナイフで封筒を開けたから、そのせいかもしれませんね」
「ペ……ペーパーナイフ……?」
確かに、短剣といえば短剣だけど、手紙を切っただけで覚えるようなスキルなのか、短剣スキルって。
「どうだ? 付け替えておくか?」
「遠慮しますわ。短剣スキルなんて経営には必要ありませんから」
パスカルはそう言うと、俺に礼を言って教会を出た。
短剣スキルのことはもう忘れようと思う。
ただ、手に残ったクナイダコが消えるまではなかなか忘れられそうにない。




