ショートストーリー01【着替え】
二章に入るまでのショートストーリーです。
少しキャラの性格がギャグよりになりますがご容赦ください。
文字数も通常3000文字以上ですが、ショートストーリーは1500~2500程度にするつもりです。
いつもの自宅。
いつもの通り、ハヅキちゃんが今日、村で見たことを話して、俺が聞き役にいながら、持ち帰ってきた書類を書き進めていた。
ハヅキちゃんは俺に遠慮して話すのをやめようとしたが、夜の部屋でランプの灯りに照らされながら黙々と作業をするのは気が滅入る。
それに、猫のぬいぐるみではなく、セーラー服の美少女姿のハヅキちゃんなら、彼女には楽しい気分でいてくれたほうがうれしい。そのほうが彼女の身体が発光して部屋も明るくなる。
ドラゴンレンジャーズの冒険者の一部が故郷に残してきた妻子をこの村に移住させたため、村の人口がとうとう100人に達した。
もともとマジルカ村は大人が23人(シルヴァーを除く)、子供が7人の小さな村。そこに俺とハンゾウとミコトが住民として加わり、ビルキッタ、パスカルが加わり、住民登録はされてはいないがガルハラン商会の従業員が4名加わった。
そこまでの合計39人、そこにドラゴンレンジャーズ29人、妻として連れてきた18人、未成人(16歳未満)子供が14人、成人(16歳以上)の子供が2人。今年の夏の間にめでたくもう一人増えると、今度お母さんになるベル・マークの妻から報告もある。
つまり、現在は合計102人だ。ドラゴンレンジャーズの関係者が多すぎて派閥問題などが起きないかと心配したが、大きな問題は起きていない。
冒険者たちがハンゾウやミコトに頭が上がらないおかげだろう。
人口が増えたおかげで村経営に関して、住民管理や税金や身分管理、スキル管理など村長としての業務が増え、持ち帰り残業も余儀なくされていた。
ハヅキちゃんの話が一区切りついたので、俺も一息いれるためにハヅキちゃんになんとなく質問してみた。
「そういえば、ハヅキちゃんっていつもセーラー服だけど、他の服とかに変えられたりするの?」
「え? あぁ……待ってください」
ハヅキちゃんは「ううん」と念じるようにつぶやき、「えいっ」と声を上げた。
すると、セーラー服だったハヅキちゃんの服が、一瞬でシスターの着ていた修道服へと姿を変わった。
シスターハヅキちゃんの誕生だ。
「はぁ……あ、うん、とても似合ってるよ」
「そ……そうですか? スグルさん、何か着てほしい服とかありますか?」
「き……着てほしい服!?」
そう言われ、俺は固まってしまった。
やばい、これは、俺のフェチを探るための罠ではないか?
有名どころでいえばやっぱりメイド服だろうか? だが、幽霊だけに冥途服などと冗談を言っていると思われたら困る。そもそも俺はメイド好きではない。
ハヅキちゃんが一番喜びそうな服でいえばウェディングドレスだろうが、そんなこと言えるわけもない。
着物姿はどうだろうか? 日本人には無難な選択だ。
「よし、じゃあ着も――」
言おうとしたところで俺は思いとどまった。
待てっ、俺は村長だ。役人が着物の女性を呼ぶと言うことは、時代劇でよくある、帯をひっぱって「あーれー」みたいなことをしたいとハヅキちゃんに思われるんじゃないか?
そんな趣味はない! いや、一度はやってみたいが触れることもできない彼女の帯を引っ張ることなんてできない。
「あの、スグルさん?」
彼女が心配そうに尋ねる。
うん、早く決めないと。
そうだ、いっそのこと、いつものハヅキちゃんの姿が一番好きだよ、でいいんじゃないか?
ダメだ! それだと俺がセーラー服マニアだという誤解を生みかねない。
もう開き直って水着姿を頼んで、「スグルさんのエッチ」で終わらせるのがいいんじゃないか? あぁ、でもハヅキちゃん、真面目だから本当に水着になりそうだ。
そうなったとき俺が困る。嬉しいんだけど困る。
「……あぁ……え」
「え?」
「エプロン姿でお願いします」
「はい」
ハヅキちゃんは笑顔で頷くと、「えいっ」と掛け声をかけた。
いつものセーラー服姿にピンクのフリル付きエプロンが加えられている。
「とてもよく似合ってるよ」
うん、両親のいない俺のために幼馴染であるハヅキちゃんが手料理を振る舞いに来てくれた。そんなシチュエーションだ。
「ダメでござるな」
突如、声だけが先に現れた。
もちろん、こんな口調を言う人間は一人しかいない。
「ハンゾウ、どこにいるんだ?」
「ここにござる!」
と、俺の後ろから声がした。振り向くと、少し離れた位置にある椅子にいつもの忍び装束のハンゾウが座っていた。先ほどまで絶対いなかったはずなのに。
いつの間に入ってきたんだこいつ。
「何がダメなんですか?」
ハヅキちゃんが首を傾げて尋ねる。
「ハヅキ殿はスグル殿の言いたいことを全く理解してござらん」
ハンゾウは拳を握りしめ、熱く語りだした。
「男がエプロンと言ったら、それは裸エプロ……ふっ、あまいでござるなスグル殿」
俺が投げたペンをいとも簡単に受け止めるハンゾウ。そこは素直にぶつかっておけよ。
「いいから帰れ、お前は何をしに来たんだ」
「うむ、ハヅキ殿とスグル殿が魔法少女みたいに変身してコスチュームプレイをしているという虫の知らせが拙者に届いて」
「そんな虫絶滅してしまえ。というかコスチュームプレイとか言うな」
「ハヅキ殿、もう一度変身してほしいでござる。今度はメイド姿に」
ナイスだハンゾウ……じゃない、なんで勝手に頼んでるんだ。
「わかりました」
ハヅキちゃんが笑顔で快諾する。ハンゾウが必要以上に凝視するなか、ハヅキちゃんが「えいっ」と力を入れた。
そして、メイド服姿へと変わった。ロングスカートで、メイド喫茶のメイドというよりかは、本格的なメイド姿だ。カチューシャ付き。
「ダメでござるな」
「いや、これはこれで風情があるだろ」
「メイド服の問題ではござらん」
ハンゾウは再度拳を強く握りしめ、熱く語りだした。
「変身シーンは、一度服をばらばらにして裸になってから、服を再構成しないと意味がないでござる!」
「お前は出ていけっ! 二度と来るなっ!」
俺はハンゾウを無理やり追い出した。




