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20 最初にするのが事後の処理

 ペンをひたすら走らせる。もう自分が何を書いているのか頭に入ってこないという危険な状態だ。 

 俺が村長に再び選ばれて5日が経とうとしていた。なのに、書類の山は一向になくなる気配をみせない。

 たった一週間近く村長を変わっただけなのに、なんでこんなに仕事が増えてるんだ。

「というか、なんでまた俺が村長に選ばれたんだ? 俺がふがいないばかりにみんなにあんなに迷惑かけたのに!」

「迷惑かけたことを反省するのなら、私に迷惑かけないように仕事をしてください」

「すみません」

 商会の仕事の時間以上に役場仕事に手を回してもらっているパスカルにそう言われたら謝るしかない。

 その後、パスカルが「それだけ貴方のことを認めてるってことですよ」と言ってくれた。

 はぁ、そう言われたら頑張るしかないよな。

 再びペンを走らせる。最後に村長印を押して次の書類にとりかかった。

 ていうか、村長再任の最初の仕事が事後処理っていうのが辛すぎる。

 新しく冒険者になった、元シルヴァーの息子達。奴隷となった奴らは奴隷から解放し、シルヴァーとの養子縁組を解消させた。

 さらに一冒険者としてマジルカ村への転入届を作成して受理して住居の建造許可を出した。さらに、ドラゴンレンジャーズという団体名を作って、冒険者団体として、西の町にある冒険者ギルドに登録させた。

 29人なので、5人組を5組と、4人組を1組にわけ、A~Fに割り振りしている。

 今日は、Cグループがミコトとランニングドラゴン狩り、Fグループがハンゾウと迷宮探索となっており、それなりの成果を出している。

 成果が出ているので、書類も増える。これでもかというほど増える。

 俺は増える仕事に嘆息をもらしながら、もう一つの懸念事項に関してパスカルに相談することにした。

「仕事をしながら相談したいことがあるんだが、いいか?」

「はい、手を休めないでくださいね」

 パスカルも視線をこちらに向けずに書類の処理を続けていく。

 計算尺を器用に使って建設費の予算を組み立てているらしい。

「ハヅキちゃんのことなんだけど」

「ハヅキさんがどうしたんですか?」

「最近、なんか俺と距離を置いてるんだ」

 許可印を押して呟く。

「……倦怠期ですか?」

「いや、そんな熟年カップルじゃないんだけどさ」

 シルヴァーをはめる歓迎会の日から、次の日までハヅキちゃんはずっと俺の服の中、正確には直接肌は触れずに服と服との間にいた。

 ただ、そうすると俺が座ったときとかに、どうしても俺の大事なところに何度も触ってしまったみたいで。

「俺を男として意識しすぎるようになった、って言ってたんだよ」

「なら、結婚すれば解決しますよ」

 パスカルが淡々と解決方法を提示してくれた。

 そうか、結婚したらいいのか。

「でも、幽霊と結婚するにはどうしたらいいんだ?」

「本気ですか?」

「……どうなんだろうな」

 ハヅキちゃんのことは大事だと思ってる。それが恋かと言われたら微妙だが。

 まぁ、以前の俺が聞いたら、それは恋ではなく変だと言ってただろうな。

「そのあたりはきっちり答えを出さないといけないな」

「……まぁハヅキさんはいい奥さんになると思いますよ」

 と言って、パスカルは顔を上げた。

「のろけ話はいいですから、手を動かしてください」

「わ、悪い」

 どうやら手が止まっていたのがばれたらしい。

 といっても、世間話でもしないとやってられない。

「ジークスの狙い、どこまで本気だと思う?」

 俺はパスカルに尋ねた。



 そう、あれは貯蔵庫に閉じ込めていたシルヴァーの事情聴取をしたときだ。

 ジークスの狙いを聞いたとき、俺はその耳を疑ったよ。

「ジークスの狙いは西大陸の征服じゃよ。わしはその理想を聞いてついていこうと思った」

「西大陸の征服が理想?」

 シルヴァーは語った。

 東大陸は統一国家が存在し、軍備の拡張をしており、北の大陸までもその勢力を伸ばそうとしている。

 そして、その力が西大陸に来たとき、西の大陸が都市同盟という状態だと対抗できるはずがない。

 西の大陸は一つにまとまる必要がある。

 それこそがジークスの理想なのだと。

【私は、国を守る兵隊になりたかったんですよ】

【国の外から攻めてきた敵から守る兵隊にね】

 ジークスが俺に語った子供のころの夢。

 結局夢はかなわずに執政官となったと言っていたが、あの人は自分なりに国を守ろうとしていたのかもしれないな。

 でもさ、俺の世界でいろんな人が言ってたんだよ。

 国は人だと。

 人の幸せを蔑ろにして国を守れるはずがないだろ。




「統一国家に関しては都市同盟の歴史において何度も議論された命題ですね」

 パスカルが書類を書きながら答えた。

「もっとも、領主たちの利権が絡む問題なので、夢物語と思いますよ」

「夢物語……か」

 俺から言わせたら、ゲームをしていたら異世界にやってきた、なんてこと自体が夢物語だが。

 と、書き間違えた。訂正印を押しながらも、国王になるという夢を追ったシルヴァーの末路を思い出した。

 四日前、シルヴァーは西の町に搬送され、都市同盟預かりの扱いで、留置所へと入れられた。

 そして昨日。


 シルヴァーが服毒自殺をしたと報告を受けた。


 あの爺さんが自殺なんてするとは思えない。おそらく、ジークスの手の者によって暗殺されたのだろう。

 パスカルからも、ガルハラン商会を通じて調査をするように依頼を出しているが、無駄だろうとパスカルは語った。

 もしもこれがゲームの中だというのなら、こんな後味の悪いエンディングを用意したクリエイターを恨むだろう。

 いや、そうじゃない。これがゲームの中じゃないとわかっているから後味が悪いんだろうな。

 嫌な爺さんだったが、それでも死んでいいなんて思っていない。

 ただ、これもパスカルからの助言だが、しばらくはジークスもこの村には手を出さないだろうと言っていた。

 もともと、シルヴァーの人間性を見抜いたうえで村の自治権を奪うつもりだったので、その手段がなくなった今、あえてこんな小さい村を狙うメリットがないという。


 確かに小さな村だよな。村長は借金だらけだし。ミコトに対して3万ドルグの借金している。

 3回払いで返済する予定なので、毎月1万ドルグを返済しなくてはいけない。

 村長の給料が3万ドルグなので、33%オフの計算だ。

 あの歓迎会を、慰労会の時みたいに経費で落ちないかと頼んだが、その時は俺は村長ではなかったからと却下された。

 法律的な問題らしい。

 その代わり、パスカルが時々食事を差し入れてくれると約束してくれたので、食費は少し助かりそうだ。

 俺に恋でもしてるのか? と冗談でいったら、耳を噛まれたら困るだけだと本気で怒られた。



 さらに書類を書き進めていく……と今度はペンからインクが出なくなった。

「あれ? インク切れか?」

「そうじゃなくて、ただ時間が止まってるだけだよ」

「あぁ、時間が止まってるからインクが出ないのか……」

 そういうものなのか。それなら仕方ないな。

 本当だ。横にいたパスカルがペンを持ったまま止まっている。

 時間が止まっているんだ。

「で、お前は誰だ?」

 俺は突如現れた第三者に尋ねた。

 先ほどまで誰もいなかったはずの本棚の前に、小さな子供が立っていた。五歳くらいの黒髪黒目の男の子だ。

 しかも、どこかの私立小学校みたいな学生服を着ている。

 男の子は俺の問いに無邪気な笑みを浮かべ、

「神様だよ」

 と自己紹介をした。あぁ、神様か。それなら時間を止められるのも納得だ。

 って、あれ? 俺、さっきから納得ばかりしてるな。

「これは夢だからね。夢の中なら多少不思議なことが起きても納得できるものでしょ?」

「あぁ、そう言われたらそうだよな」

 それも納得できる。夢の中なら神様がいてもおかしくないし、時間が止まっても不思議ではない。

「で、神様が夢の中にまで出てきて何の用事だ?」

 俺は神様を睨みつけた。何しろ、今は書類が溜まっていて、神様と話すどころじゃないんだよ。

「まずはおめでとうを言いに来たんだよ。第一ステージクリアおめでとうってね」

「第一ステージクリア?」

「そう。ゲームだからステージはいくつもあるよ」

 そうか第一ってことは次は第二ステージか。

「とりあえず、ありがとう、でいいのか?」

「うん、それでいいよ。頑張ってクリアしたらボーナスを上げるからね」

「ボーナス?」

「ゲームを開始する前にポイントを割り振りしたの覚えてる?」

 あぁ、覚えてる。割り振りしたな。俺は記憶継承、たぶん日本での記憶を継承するボーナスだ。

「あんな感じで、難易度に応じてポイントをプレゼントするよ」

「そのポイントはどんなものと交換できるんだ?」

「そうだね」

 自称神様は笑いながら次々と交換できるものを伝えていく。

「レアなアイテムをプレゼントしたり、経験値をいっぱいあげたり、好きな人の元の世界の記憶を戻してあげたり――」

 そして、自称神様は最後に一番大きく口をゆがめ、

「元の世界に戻してあげたり」

「……まじか」

「うん、神様はウソをつかないよ。じゃあ、頑張ってね」

 自称神様は大きく手を振って、姿を消していく。

「あ、これは夢だからさ、夢って目が覚めたら全部忘れちゃうんだよ。でも、頑張らないといけないことは覚えておいてね」

 え? 忘れるの? まぁ、夢なら仕方ないよな。



「うん、仕方ないな」

 俺が呟いた。

「何が仕方ないんですか?」

「え? 俺、何か言ったか?」

「仕方がないと……寝ぼけていらっしゃいますの?」

 パスカルが半眼でこちらを睨み付けた。

 やばい、少し意識が飛んでいたらしい。

「あぁ、悪い、頑張るから許してくれ。頑張らないといけない気がするしな」

「もちろん、頑張ってもらわないと、私も仕事がありますから」

「はい、いつもありがとうございます」

 俺は頭をさげ、書類にとりかかった。

 何か重要なことを忘れている気がするが、まぁ、忘れてしまったものは仕方ないよな。

このあたりは俺TUEとは微妙に設定が異なることになるかもしれません。

ということで、神様登場回でした。


シルヴァーはさらっといきました。

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