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18 筋の通らない復讐者 -その6-

 村長の不信任署名において「身分が奴隷もしくは囚人の者は村民として含めない」とある。

 つまり、ウォルゴンには署名をする権利はない。

 だからこそ、きっとシルヴァーもジークスも、彼らの身分が「なし」であることは事前に調べていただろう。

「何をバカなことをいってやがる!」

 最初に沈黙を打ち破ったのは、奴隷と言われた本人、ウォルゴンだった。

「俺が奴隷だぁ?」

「ええ、所有者はシルヴァー村長になっていますよ」

 俺がそう言ってシルヴァーを見る。それを聞いたら、ウォルゴンの怒りはシルヴァーへと向けられた。

「おい、どうなってやがる!」

「待て、何かの間違いだ! ワシが見る」

 シルヴァーは慌ててそう言うと、サーチの魔法を唱えた。

 淡い光がシルヴァーを包みこみ、そして消えた。

 直後、シルヴァーの顔が真っ青になる。

「そんな……バカな……」

「シルヴァーさん、どうしたというのです」

「本当に、身分が奴隷になっておる……」

「なんだと……」

 それを聞いて、ジークスもまたサーチの魔法を使う。

 だが、淡い光が消えたあともジークスは黙ったまま何も言わない。

「とりあえず、全員分見せてもらってもいいですか?」

 俺は笑顔でそう尋ねた。

 当然、それを断る理由を二人とも見つけることはできなかった。


 そして――最後の一人をサーチで調べ終え、

「29人中17人が奴隷ですね」

 俺は結果を報告した。12人の身分は「なし」になっている。

「ジークス執政官。こうなった以上、この署名は無効でよろしいですね?」

「待ってください、そんなわけがない。私はここに来る前に彼らを調べましたが、彼らは奴隷ではありませんでした」

「そうじゃ! お主が何かしたんじゃろ!」

 さっきまで顔を真っ青にしていたシルヴァーが、今度は顔を真っ赤にして怒鳴りつける。

「これは村長らしくもない言いがかりですね。隷属魔法を使うには条件がいると、そこにいるジークスさんが教えてくれたじゃありませんか」

 俺がどや顔でそう言った。村長の身分を剥奪された時点で俺は隷属魔法を使えない。

 使えるのはサーチ魔法だけだ。

「もしも、ジークスさんの言うことが事実なら、隷属魔法を無断使用した誰かがいるということですね。そんなことをできるのは、村長であるシルヴァーさんか執政官であるジークスさんしかいないことになりますよ」

 俺が尋ねると、流石は執政官にまでなったジークス、とても落ち着いた口調で対応する。

「私は当然そんなことをした覚えがありません」

「わ、わしもじゃ」

 対してシルヴァーの慌てようは、見ていて少し憐れになる。

 二人がそう言うのならと俺はシルヴァーの息子たちのほうを向き、

「では、彼らはもともと奴隷だったということでいいんですか?」

 そう尋ねた。

 それには当然、彼らは黙っているはずがない。

「おい、待て、村長さんよ、それは納得いかないな。俺らは確かに冒険者の夢をあきらめたが、奴隷にまで成り下がった覚えはないぞ」

「そうだ! 撤回しろ!」

 こうなったらシルヴァーは、彼らがもともと奴隷だったと言いとおすことができない。

 言いとおしてくれたら署名は無効となって楽だったんだけど、ジークスが認めないだろうしな。

 すると、シルヴァーはずる賢い頭で何か思いついたらしく、「そうじゃ」と自分の手を叩いた。

「シスターが新たに誰かに就任魔法を使って、村長にしたんじゃ! それなら辻褄が合う」

「私はそんなことはしていません。神に誓って」

 突然白羽の矢を立てられたシスターは、両手を合わせてそう言った。

 当たり前だ、シスターにそんなことをさせるわけがない。

「それも言いがかりです。なんなら村人全員の身分を調べてみますか? 村長にしたのなら、身分を剥奪する魔法を使って身分を剥奪しないと身分は村長のままですよね? それをできるのはジークスさんだけですから」

「ふん、そう言ってごまかしておるんじゃろ。この中に偽りの村長の身分を持つものがおるはずじゃ。ジークス殿、調べましょう」

 シルヴァーは自分の意見が正しいと思い、サーチで村人全員を調べようとしたが。

「待てよ」

 そう止めたのは、シルヴァーの息子の一人のゲンガーだ。

「村長、あんたがやったんだろうが」

 ゲンガーはそう言ってシルヴァーにつめよる。

「何を言っておる、わしがそんなことをするわけないじゃろ」

 シルヴァーが後ずさりながらそう叫んだ。

「俺も夢だと思ったよ。でもな、うっすらとだが覚えてるんだ。あんた、昨日の酒の席で隷属魔法を使ってただろ」

「そんな、わしはそんなことしておらん」

 そうか、ゲンガーもあの場面をきっちりと見ていたのか。

「いや、実は俺もね、その場面を見てたんですよ。俺だけ酒を飲んでませんでしたからね。今日はこのことを言うために皆さんに集まってもらったんです」

「バカな、いくら酒を飲んだからってそんなことをするわけがない!」

「酒で酔っぱらって、税金を二倍払うといって村を潰しそうになったのは誰でしたっけ?」

 俺がそう言うと、シルヴァーはぐうの音も出ない。

 酒癖の悪さには前例がある。もっとも、税金を二倍にしたのは酒癖の悪さが原因ではなく、最初からそうするつもりだったのだろうが、そんなことシルヴァーには言えるわけがない。

「村長、いや、シルヴァー、もう言い逃れはできないな」

「あぁ、隷属魔法の不適当な使用は重罪なんだぜ」

「いくら酒に酔っていたとはいえな」

 今度はゴメスやバランをはじめ、本来の村人達につめよられるシルヴァー。

 これでチェックメイトだとばかり、俺はジークスに言った。

「ジークスさん、あなたは執政官でしたね。では、罪を犯したシルヴァーさんの村長身分の剥奪をお願いします」

 俺がそう言うと、ジークスは無言でシルヴァーを睨み付けた。

「……ジークス殿、お待ちくだされ、わしは、わしは断じて何もしておらん」

「それでは、誰が彼らを奴隷にしたと? まさか私を疑っているのですか?」

 ジークスが言った。そう、俺が言った通り、隷属魔法が使えるのはシルヴァーとジークスの二人だけだ。

 ここでジークスがシルヴァーを擁護すれば、今度はジークスが矢面に立たされる。

「都市連合執政官の名において、シルヴァー殿、貴君の身分を剥奪します」

 そう言い、ジークスは剥奪の魔法を使おうとしたときだ。

 シルヴァーが壊れた。

「ならん……ならんぞ、そんなこと! わしは、わしは国王になるんじゃ!」

「国王? あなたにはそんな器はありません」

「言ったじゃないか、ジークス殿! 言う通りにすれば、この村を献上したらワシを国王にしてくれると」

 追い詰められ、自らの罪を暴露しだしたシルヴァー。

「それは聞き捨てなりませんね、ジークスさん」

 パスカルが狐耳をぴこぴこ動かして尋ねた。

「どういうことか説明してくれませんか?」

「だから、私は知りません。酒に酔って変な夢でも見たんではありませんか?」

「そうだといいんですけどね。これからの取り調べで何かがあれば、正式にガルハラン商会を通じて抗議させていただきます」

「ええ、お好きにどうぞ」

 そう言うと、ジークスはゆっくりと馬小屋へと歩いていき、宿に預けてあった馬を連れてきた。

 ポニーくらいの大きさの馬にまたがり、

「では、そこにいるシルヴァーさんは後日にでも都市同盟に連れてきてくだされば、こちらで正式に処罰をさせてもらいます。検挙と護送は私の仕事ではありませんので」

 そう言って去ろうとするジークスを止めたのは、村長の息子たちだった。

「待てよ。約束の報酬を払ってもらおうか?」

「約束の報酬? なんのことです?」

「あんたたち、言っただろうが。一か月間、その爺さんの息子になったら7万ドルグの報酬をくれるって」

「私は知りませんね。シルヴァーさん、そんな契約まで結んでいたんですか?」

「…………くっ」

 完全にジークスに捨てられたシルヴァーがうめき声をもらす。

「私には関係のない話です。ではこれで」

 そう言って、ジークスは関係のない話だと言わんばかりに馬を走らせた。

 去っていくジークスに対し、いつか必ずあんたの化けの皮を剥いでやるぞと誓った。

 とにかく、これでシルヴァーは村長の身分を剥奪される。この後、新しい村長を決めないといけないな。

 それは別に俺でなくても構わない。パスカルあたりに任せたい気がするが、彼女は商会があるから無理だろうな。

 ゴメスはどうだろうか? などと考えていたら、

「散々俺達を利用したんだ。それで金を払えないはないだろ」

 シルヴァーが自分の息子たちに囲まれていた。

「あぁ、金が払えないのなら覚悟はいいな」

 彼らは手をポキポキと鳴らし、シルヴァーに詰め寄った。

 他の村人もそれを止める気配はない。

 誰がどう見ても彼の自業自得だ。

 だが、本当にこれでいいのか?

「あの……」

 俺が声をかけた、その時だった。

「な……なんだあれは」

 それに気付いたのは、ウォルゴンだった。

 ウォルゴンは、北の空を指さしている。

 皆がその空の方角を見ると――小さな影が見えた。

 まさか――あれは――、

「飛竜か……飛竜の群れだ!」

 ウォルゴンが叫んだ。

 慌てふためくシルヴァーの息子たち。

 元冒険者である彼らにとって飛竜は死神のような存在だ。出会えば逃げなければいけない、逃げられなければ死に至る。

 そんな怪物だ。慌てるのも当然だろう。

 だが――俺はというと……

「あぁ、村の外にミコトがいるから……ってもう気付いてるよな。じゃあハンゾウを連れてきてくれ」

 とても落ち着いた様子で指示をだす。

 村の人たちも慌てる様子もなくそれぞれ行動に移った。

「はぁ……こいつはやっかいだな」

 指示をし終えたあと、俺はため息をついた。

 このままだと、下手したら大惨事だ。


 飛竜が絶滅してしまう。


 そんなことを思いながら、俺は北の空を見つめていた。

次回で長かった「筋の通らない復讐者」も終わりです。

裏でスグルがした作戦の詳細も次回に。

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