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この世の理不尽さを知るのは幾つでだろうか

作者: 屋上

久しぶりです。

 中学三年生。それは、受験が近くなるのと同時に友情や恋愛にも精を出し始めるか十分満喫しているか、......そのどちらでもないか。けれど、趣味はあったり部活であったり。それでも、どの学校にもいじめはある。別に俺がいじめを受けている訳じゃない。ただ、いじめになりかけてるだけだ。しかしそう考えているのは俺だけで、実際にはそんな事実は無いのだろう――。


 そんな中二っぽいことを考えていたら授業が終わっていた。

 今日はなにしようかな......。


 帰り支度をして椅子に座っている。先生がきて話す。終わったら日直が号令をする。俺はその様子をぼんやりと見ていた。今週は掃除当番ではないので帰る。後ろからの声はとても楽しそうで......放課後の予定を立てているのだろう。階段を降りていくとそれも次第に聞こえなくなる。


 正門に向かう途中である女子生徒たちとすれ違った。制服から見て中学一年生だろう。校内で数回見かけたことはあるが、話したことはない。すれ違った瞬間に目があった。反射的に逸らしたが相手は怪訝な顔をしたあと、隣にいた子と話しながら歩いていった。そして、数秒後――、耳を、塞げば、良かった。


 「今の人さ、みーちゃんからみてどう思うー?」

 「あれは、無いわ。キョドり過ぎ。顔も......良くって下の中くらいね」


 ............。......心に絶大なダメージをもらったけれど帰り道を歩く。

 

 帰りの電車で、あの一言を繰り返していた。もちろん心の中で。


 『下の中くらいね』


 俺はあの子の基準を知らない。だから上がどれくらいなのかも知らないが下なら酷いんだろうと思う。

 ――俺は、カッコいい訳じゃない。当たり前だが可愛い......美少年な訳でもない。頭がいい、運動が出来る、オシャレが好き、最近の流行を追いかける、人を笑わせられる――全部違う。こうなら当然クラスでの立ち位置は男子生徒Aくらいだ。役を貰えるだけでもありがたい。漫画やアニメの主人公にはなれそうもない。ライトノベルの主人公にはなれるかもしれないが――、置いておこう。そのまま拾うことは無いだろう。

 

 電車がとまった。目の前の人が立ち上がり外に出た。座るとしよう。扉がしまり発車する。


 そういえば、どこかの誰かがこんなことを言ったそうだ。


 『あなたはあなたの物語の主人公だ!』


 そうだろう。題名を付けるなら、My LIFE――のようなものだろう。人生、でもいい。一冊の本にこれまであった出来事を全て記録出来る技術があればこれは実現するかもしれないな。けれどこの(じんせい)はつまらない。だって、俺が毎日をだらだらと生きていく内容だ。そんなものを見て面白いと思える人は少数だろう。


 話がずれていた。もっとも、俺の妄想なんだから話し相手はいないが。

 俺には個性がない――人に自慢できるような特筆出来る個性がない。趣味は二次元関連。適当にまとめたが漫画を読んだり、アニメを観たりゲームしたり、ということだ。......もうひとつ趣味が合った。

 妄想。

 俺の妄想世界は小学生の時から展開されていた。指人形を使って遊んだ。そのとき使うのは既存のキャラクターで小指程度の大きさだ。で、既存の、といっても話はその人形と同じじゃない。つまり、ポケモンの人形を使っているが、話はポケモンの世界じゃあない、ということだ。そりゃそうだろう。家にあるのはいろんな漫画やアニメの人形がごちゃ混ぜになっているのだから。

 話がずれているな。......何が言いたいのかというと、その指人形をつかって遊ぶ時、まず世界を作った。簡単にだが。そしてキャラクターの性格も作った。それで遊んだ。

 でも、次の日にはその設定を忘れちゃう。だから――新しい設定を作った。多分被ったこともあるんだろうけど、忘れてるから問題ない。これをほぼ毎日繰り返した。


 そんなことをずっとしていたから――外にも行かないし、友達も出来ない。でも妄想力はついていく。


 電車の扉が開いた。外を確認したら俺の家の最寄り駅だった。慌てて降りたら、女子高生の集団が有った。......。駄目だ。実際にはないはずの声が聞こえる。幻聴だ......。目線が俺に向かうだけでも嫌になる。

 どうしてこんな性格になったんだろうか......。


 改札を出た俺は自転車に乗ってペダルを踏んだ。数分後には家につく。

 家についたら着替えて、......ゲームだ。ご飯が出来る前に風呂に入って――。また、学校か。

 十分だ。俺には平和な世界が似合っている。不思議な力に目覚めて強大な敵と戦うことも、帰り道美少女を救うことも、旅に出て危険な目に遭うこともない。素晴らしいな。


 「ただいま......」


 家には誰もいなかった。弁当箱を取りだし、水に浸す。着替えて、部屋に行った。

 ゲームの電源を付け、コントローラーを握った。今日やるのは、自由度が高く、インターネット通信が出来るゲームだ。この前一緒にやった人と約束した場所に移動する。かなりの人数が集まっていた。そして、俺のアバターを見た人が言った。


 『あなた、まさか......ひとりさん!?』

 『はい、そうですが』

 『おおー! すごい、本当に会えるなんて!』


 ふふふ......。俺はゲームの才能があるらしく、ゲームでは人気がある。......。まあ、家のなかにずっと居ればやることなんて限定される。それで、ゲームをやってただけだ。


 『ひとりさん、これからクエストに行くつもりですが......』

 『参加しますよ。あなた方さえよければ』

 『ありがとうございます!』


 こうして、俺は新しい仲間と冒険(クエスト)に行き、大活躍をした。ネットでの友だちは増えるがリアルでは出来そうもないな。

 俺はゲーム世界の仲間たちにお疲れ、とだけ言ってログアウトした。ベッドに横になった。


 下から鍵の開く音が聞こえる。誰か帰ってきたのだろう。その日は、晩御飯を食べてから寝た。


  ◇  ◇  ◇


 学校までの道のりが長い。まず、自転車に乗り、最寄り駅に到着。電車に乗ったら三十分、学校の最寄り駅に着いてから学校まで十五分程度。無論歩きで。その途中で、同級生に出会った。彼は俺をちら、と見たあと歩くペースを早めた。

 彼は確か、来川(らいかわ) 樹修(きなが)......だったか。彼はクラスの人気者で、俺なんかを相手にすることはないだろう。でも、確か俺のような人間――本堂(ほんどう)とは仲が良かったような......。いや、そうみえるだけで実際は興味を示してすらないかもしれない。

 そうこうしてる内に学校についてしまった。下駄箱から靴を取りだし、履き替えた。自分の席に座り、本を読む。そうしていれば先生が来てなんか言って一時間目が始まる。


 昼休みに事件が起きた。ちょうど、俺が図書館に行ってた時間だ。だから、事件を知ったのは帰ってきてからだが、なぜ、情報が俺に渡ってきたのか。教えてくれる友だちもいないはずなのに。その理由は俺がクラスに戻ってきた時に戻る。

 教室の扉を開けた瞬間、先生の声が聞こえた。先生の名前は内藤(ないとう)......だったか。


 「こっちにこい」


 訳もわからず、先生の元に行くと隣の部屋に行け、と言われた。そうして隣の部屋に行った。しかし、中には誰もいなく、椅子が二つ、置いてあるだけだった。仕方ないから座った。

 少し経った後、先生が来た。そして、事情聴取――尋問された。


 昼休み、何をしていたか、聞かれた。俺は答えた。

 ――図書館に行ってました。

 証明できるか? 警察もこんな感じなのかなと、思いながら首を振った。

 ――出来ません。でも、さっき本を借りました。

 

 今度は、俺が聞いた。

 ――何が、あったんですか?

 先生は言った。


 「沢森(さわもり)の体操服が無くなった」

 「......え」


 沢森は、クラスのうるさい――苦手なグループの一人だ。もっとも、どのグループも好きでは無いのだが。逆に、人気でもある。誰にでも話しかける(イケメンに限る)その性格はみんな(イケメン)に人気だ。けれど、俺からしたら、近よりたくない人種の一つだ。体操服なんてどうでもいい。俺は二次元一筋だ。


 先生は痺れをきらしたのか、怒鳴った。


 「お前がやったのか!?」

 「......違います」

 「なら、さっき図書館に居たことを証明しろ! 昼休みは、人が誰もいなくて、鍵が開いていた。他の奴らはみんな一緒にいて、証明済みだ!」


 その後、図書館に行き、借りた時間を見てもらったが、その時間なら十分教室に戻ってこられると言われて証明をすることは出来なかった。けれど、沢森の体操服は、どこを探しても出てこなかったため、この事件は消化不良のまま終わった。


 かに見えたが。次の日、教室に行くといきなり罵声を浴びせられた。


 「お前だろ!」

 「変態!!」

 「死ねっ! 学校来んな!」


 ......。俺じゃない、と言ったところで信じてくれないだろう。そのいじめ(・・・)は一週間以上も続いた。それをみかねた先生が、ある提案をしてくれた。


 転校。


 親を呼び、状況を説明すると、親は分かりました、と言って支度を始めた。

 結局、二日後に、隣の県に引っ越した。その、四日後にある、ニュースが流れた。


 『田梅学園で、教師の内藤 秀康(ひでやす)さんが、女子生徒の私物を私物化しているところを他の教師に発見され――』


 ..................は? ニュースは続いた。


 『田梅学園の生徒に聞いてみました

  どう思いますか?』

 『こんなことをするなんて、許せません』

 『以前、犯人だと疑われて、転校した人がいました。彼は何のために転校したんだ......』


 俺だ。しかも、それを言ったのは来川だった。でも、今さら分かっても仕方ない。もう、転校してしまった。それに、無実だと分かってもあのクラスに戻ったところで、歓迎されることはないだろう。


 

 もう、遅い。俺の人生は、全て駄目だ。きっと、これから先も駄目な人生しか送れない。


 この世の理不尽さを知ったのは、中学三年生、十五才の秋だった。

誤字、脱字等あれば、教えてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 主人公のジメジメとした気持ちが伝わってきましたし。話の展開にどきりとしました。 現実感のある話の内容で、文学作品にぴったりと思います。
[良い点] 体験談だったら申し訳ありません、面白かったです。私が理不尽さを知ったのは1999年7月です理由は秘密です。あんな事信じなければ良かった。
2014/10/17 19:17 退会済み
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