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第8話 決意

「――く」


目を覚ました。

覚ましてしまった。


「あの子は、俺の中に残っています――かわいそうに。あの子は、たった一人であそこにいる」


そう、あの夢の世界に――いや、あれはおそらく心象世界でしょうね。

俺が体を奪ったこの子の魂は、精神の奥底に閉じ込められている。

あるいは本望だったのかもしれませんが。

世界から無視された彼女は、自分から世界を無視してしまいたいと思っているのかもしれない。

けれど、本当の願いは違う。

あの子を抱きしめてあげたかった。

それを諦めてしまっただけ。

けれど、それはできなかった。




「ああ――やる気が起きませんね。あの男はどこかに行ってしまったでしょうし、あの女の死体はなくなってますし」


寝ていたのはどのくらいでしょう?

体中に痛みが走る状態では、感覚なんて信用できません。

けれど、流れた時を知りたければ衣服を見れば十分。

ほとんど砂は入り込んでいない。

つまり半刻と経っていない。


「さて、どうしましょうかね。何か目的があるわけでもないのですけど」


というか、本当にどうしようもない。

隣村に向かうのですら何日かかかる距離にある。

まあ、第3階位の自分が本気で走れば数時間で着きますが。

それをして何か意味があるとも思えませんし。

買い物なんてしている場合ではないことは明白です。

だって、魔女さんはもういない。


「やっぱり、意味があるとも思えませんが――そうですね、帰ってみましょうか」




「――ん?」


紙がナイフで止められている。

――こんなのありましたっけ?

まあ、気付かないこともあるでしょう。

魔女さんの伝言ですかね。

わざわざあの二人が家に罠を残しておく必要もない。


さてさて、どんなことが書いてあるんでしょうかね。

意外と世話焼きな魔女さんなら、食事や掃除とかあれこれと口出ししてあるのかも。

それとも、この森に何か思い入れが?

見た限り、ただの隠居でこの場所に因縁があるようにも感じなかったのですけど――知らなかっただけかも。

そもそも、俺は魔女さんに狙われる理由があることも知らなかったんですから。

まじまじと見つめていますが、書かれていたのは1文だけ。


『レリック・ルイーナ』


あれ?

これだけですか。

いつもは小うるさいのに。


「レリック・ルイーナ――ああ、学園長さんでしたか? 会ったことはありませんけど、魔女さんとはそこそこ親しかったようで。しかし、学園とはあれですか。ここからは歩いて1週間もかからないですから、近いと言えば近いのでしょう。しかし、彼女を頼れとでも言いたいのでしょうかね」


けれど、なぜ?

たしかに魔女さんは学園の創立にかかわったメンバーの一人と聞いています。

しかし、隠居した今では関わりがないはずです。

親交も今は昔…….以前のツテを頼るというのはない話でもありませんが。

しかし、そんな不確かなものにすがるのは気に入りませんね。


そもそも魔女さんの縁者でなくとも、俺の年で第2階位を使えるならば特別クラスに入れるはずですし。

第3階位であれば、特別クラスに所属するよりもずっと地位が高い――軍の|超特級将官≪アドバンスドジェネラル≫になれるはずです。

まあ、身の潔白を証明する必要があるでしょうがこの身は紛れもなく天ノ国の出身。

疑いを晴らすのは容易です。

まあ、他の国の有名どころを2,3潰す必要があるでしょうけど。


この体の――妹の事情はこの際あまり関係がない。

たとえどこの貴族から逃げてきたとしても、第3階位として軍属になり、超特級将官になったからにはいくらでも関係が切れる。

親と名乗るものが出てきても、露払いは簡単です。


けれど、超特級将官になるというのもアレですね。

まずは何をしていいものやら。

とりあえずは兵士さんでも見つけて第3位階を発動して見せればばいいのでしょうけど。

それはあまり得策とも言えない。


特級将官についてはおぼろげに話を聞いただけ。

どんな権利を持っているのか、何ができるのかという知識は組織に身を投じるのに十分でない。

そもそも、見つけてもらって手先になるのではあまりに芸がない。

就職活動とか言うものだってそうでしょう?

就職させてもらう側が頭を下げて、働かせてくださいとお願いするものだからいろいろと勝手を言われる。

それは対等な取引ではない。


自分が何かをしたいのなら、自らの意志で何かをしたいのなら頭を下げてはいけない。

こっちから条件を突き付けて、交渉しなければ飲み込まれるだけです。

相手の要求をただ受け入れていては、何もできない。

妹を助けてあげることも。


そして、取引というなら手は一つ。

強引な、それこそ人の命を踏み台にするならば他にも手段はありますが――それはやめておきましょう。


「さて、レリック・ルイーナさん。賭けをしてもらいますよ。ですが、ご安心ください。負けの目は、おそらく限りなく低い。そして、リターンはというと――これはとっても大きいのです。つきあってもらうといたします」


時速60kmほどで駆け出す。

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