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第5話 襲撃

さてさて、1年でイロイロと教わりました。

何を教えてもらったかですか?

そこはネタばれになるので控えさせてもらいましょう。

――自分でも何を言ってるのかよくわかりませんね。


まあ、とにかく結構楽しく過ごしていたのですよ。

魔女さんはあれでいて、とても甘い人ですし。

まあ、自分は素直な子供でもないですけどね。

こんな子に根気よくつきあってくれるなんて、我ながら変な言い分になりますが感心してしまいます。


もっとも、訓練は辛かったのですが。

第2階位に至ったからといって、そんなすぐに第3階位を使えるわけないじゃないですか。

そもそも、何をどうやったらそんな高みに至れるのか。

わからないならわからないで、戦場の心得を叩きこまれましたしね。

まったく、魔女じゃなくて軍人ですか、あの人は。


もう――昔の生活など忘れてしまいましたね。

いえ、そもそも個人情報とかはほとんど何も思い出せないままでした。

そして、それが気にならない。

これは、何を意味しているのでしょうかね?

とにかく、元の世界に戻りたいとも思わない。

さて、早く魔女さんの家に帰りましょう。

まったく、こんな毒々しいキノコを何に使うのやら。




てくてくと山道を歩く。

これはいつも変わらない。

山は一瞬一瞬で移り変わる。

代表は天気でしょうか。

いきなり雨が降りだしたと思ったら、唐突にやんでしまう。

そんなことはいくらでもありました。

けれど、慣れてしまえばそういうものでしかなく、ただの日常でしかなくなる。


風邪をひく?

雨に降られたところでどうにかなりなどしませんよ。

第2階位に至った者は体温の低下ごときで活動レベルが低下することはありません。

まあ、服がべたつくのはとっても嫌でしたけどね。

山の……というか、この世界の生活には早々に慣れましたが、あれにだけは慣れません。

全裸になってしまいたいくらいです。

――俺にも人並みの羞恥心はありますよ?


今日も日常が続く。

そう思っていました。

たった1年でしたが、それは面白みがなくても楽しくて。

変化がなくても劇的で。

とても暖かかった。

そう、ずっとこのままでいたかった。

魔女さんと二人で。

親子みたいな師弟関係を。

ずっとずっと、ここにとどまりたいと――思っていました。




そう、帰るまでは。

ああ――俺は魔女さんの場所を帰るところだと思っているのですね。

ひねくれ者がずいぶんと簡単になついてしまったものです。


ええ、油断していたのでしょうね。

世界がそう甘いものではないことなんて、もう悟っていたはずなのに。

憎まれ口をききながらも、嫌いはしない。

いえ、好き――だったのでしょうね。やはり。

それは認めざるを得ないのです。


「なん…….ですか――これは」


大切なモノは失ってから気づく。

ああ、世界はなんと残酷なことか。


俺の帰る家が燃えている。

煌々と輝く赤が天に向かっている。

木は少し離れているから延焼はしない。


それでも、その赤は強烈に俺の心を揺さぶったのです。


まさか、魔女さんが倒されるなんて――

あんなに強くて、なんでも知ってるのに。


「――許さない」


何を?

……全てを。

俺からあの人を奪った全てを許さない。


さて、階位を上げるには――殺すためには願いが必要。

散々練習して、指を引っ掛けることすらできなかった。

強くなるのに修行はいらない。

心からの渇望があればいい。

今はもう手が届く。

――引き寄せよう。




ここで灰かぶりの物語を考えてみよう。

きらびやかな物語。

裏に潜む悪意。

シンデレラは何を考えていたのだろう?

シンデレラは何を願ったのだろう?


――王子様との恋愛?


そんなことはない。

彼女が願ったのは変革。

村娘から魔女の愛児。

魔女の縁者からお姫様。

そして、お姫様から亡国の主。

一時として定まらない無限に仮面を変え続ける仮面舞踏(マスカレード)こそ本質。

……無貌の悪意(ナイアルラトホテップ)


ならば願おう。

変革を。

人の身でありながら定まらぬ流転を。


『|灰かぶりは請い願う《I really really wish》』


走りだす。

口から勝手に言葉があふれる。

体が熱い――焼けそうなほど。


『|変わりたい、1秒として止まってなどいられない《Revolution, I am not me one secod before》』


身体が崩れる。

そして、新しく生まれる。

ああ――これが俺の第3階位。

そこに至った者は世の条理を一つだけ壊す。


私が壊すのは、人は生きながらにして生まれ変わらないという法則。


『|私は力を持たない村人。私は魔女に愛されるもの。私は国を滅ぼすお姫様《I am slave. I am witch. I am princes. I am no one.》』


さあ、行こう。

仇を討ちに。

魔女さんを俺から奪った人間を殺してやる。


『|闇よ、私を抱いて欲しい。お願い、私に触れないで――闇よ《I want feel someone’s warmth. I reject everyone.》』


感じる。

世界の悲鳴。

そして、唄。

心の奥底から聞こえてくる。


『陥穽――【|灰かぶりの願い事《Cantarella’s wish story》】』




疾走する。

奴らの居場所がわかる。

この薄汚い血に塗れた香り――彼らがやらなくて誰がやったと言うのだろう?


数キロ先の人影を睨みつける。


『|ああ、魔女よ。いつか、私はあなたになる《I will kill you. I will be you.》』


疾走する。

今や私は人間じゃない。

一時としてとどまることのない、1秒毎に生まれ変わる。

風となって山を下る。


気持ちいい。

世界に自分の色をつけるのは――なんて心地よい。

なんでもできる気分。

怖いものなんて何もない。


『|私は無色。ありとあらゆる無限であり何者でもない《I am no one. I am every. I am the faceless ash》』


さあ――見つけた。

殺戮を始めよう。


「――む?」

「こいつは――」


敵は二人組。

魔女さんを倒すにはいささか数が少ない気もしますが――数でどうなるものでもありませんね。

ただならぬ気配を感じます。

よほど危険なのでしょうね――俺ほどではなくても。


『|罪を。転生には罪を置き去りにしよう《I judge you for killing them. You will be made to steal my sin.》』


とにかく、この二人が魔女さんを殺したようですね。

根拠なんてない――だけど、確信はある。

それで十分。


「魔女の隠し子か」


ふたりとも騎士服のような堅苦しい服を着ていますね。

まあ、私には関係のないことです。

男と女――どんな関係なのか知りませんし、聞く気もない。


つぶやいたのは後ろのほう。

とりあえず前に居る方を襲うことにしましょうか。

金髪のきりっとした眼の女。

その眼差しは強固なる意思というよりも――凝り固まっている。


後ろの男はよくわからない。

こちらは女とは比べ物にならないほど強固。

まるで折れも欠けもしない鋼鉄。

この男は考えを改めるどころか、人の話を聞くことすらしないだろう。

眼は淀んでいない――ひたすらに漆黒で、それゆえに透き通ってはいても見通せはしない。

闇が凝縮し、臨界すら超えた闇。


お互いに白い服。

男用か女用かの違いはあれど、おそらく同じ制服。

剣の意匠が縫い付けられている。


「こいつ――第3階位に到達しているとでも!? このような……幼子が――魔女め! この子に何をした――?」


女の方がなにやらほざいています。

この俺を前にそこまで吠えることが出来るとは重畳。

さっさと死ね。


『|生まれ変われぬものには断罪を《I will kill. I will break. I will crash, shift, dust, honor, and bress》』


殴る。

ただのパンチじゃない――ビルくらいは倒壊させることが出来る。

それほどの一撃。

でも。


「舐めるな――発動【清廉なる刀・爆速変化】」


かわされたら意味が無い。

どころか、俺の身体が崩壊します。

あまりに強すぎる力を空振りさせられたから――負担が腕にかかる。

……千切れそうです――ね!


ブチブチと繊維が切れる音がします。

それこそ意味が無い。

常に生まれ変わるとはつまり、損傷は全て捨ててしまえる。

壊れたとことも、壊れていないところも、すぐに新しくなる。


「魔女の影響を受けてしまったのなら、仕方ない……! ここで始末する」


超高速で刀がひらめく。

彼女の魂は刀――薄く鋭い白刃が目にも留まらぬ速度で動く。

そして炎を纏う。

どういう原理かなんてどうでもいい。

それが彼女の速度を高めている、それが事実。


そして、ただそれだけ。

まあ――俺のも鎖に衝撃をまとわせるだけです。

つまるところ、第2階位はただそれだけ。

少しばかり武器を強化したところで――

――世界に侵食する歪みに壊されるだけ。


『|殺せ。世界はあなたに罪を犯させる《You must kill me. If you miss, you can’t reach nowhere.》』


相手のほうが速い。

ならば、速度を上回ればいい。

力は自分が勝っている。

ならば、次は速さ。

どこまでも、俺は生まれ変わる。

より強く。

より速く。

そして――段階を上げる。


「ひたすらに激情を吐き出しているだけ――それで私に勝とうなどと思い上がるな!」


裂帛の叫びとともにカウンター。

相手は俺の攻撃を避けるだけじゃない。

ま、ただのパンチなんてよけるのは簡単でしょうけどね。

そのまま攻撃につなげてきましたか。

身体を傾けて旋回するように一閃を放つ――このままじゃかわせない。

私の【灰かぶりの願い事】は攻撃をかわされた瞬間には、あいつの速度を上回る。

けれど、それでも――相手の刀の方が早い。

強化が追い付かない?


『|悲しむな、あなたは一人で逝くのではないのだから《I’m sad, you were sad. I can’t do when you will be killed.》』


俺の攻撃はかわされた。

それは、次の行動が遅れるということ。

まともな回避なんてできっこない。

なら、まともでなければいいのでしょう?

殴りかかった勢いで、前に飛ぶ。

無様ですが、仕方がない――これは別に決闘ではありませんしね。


技量は相手がはるかに上。

俺の攻撃をかわすために崩した態勢を、自分の攻撃の勢いで立て直す。

まあ、それで距離をとった俺に攻撃してこないあたり、飛び道具は持っていないようですね。

ただ、慣れている。

人間相手じゃない――獣のような身のこなしができる人間離れした相手と。


1段階上回ってもなお、超えられぬのならさらにその先へ。

2段階上へと新生する。

技術で力をいなす?

そんなのが通用するのはすこしばかり腕力が上の相手だけです。

圧倒的な格下が相手なら――技術は関係ない。

そんなものがあろうとなかろうと、押しつぶすだけ。


さて、突進してきましたか――ま、それしかないですよね……逃げることなんて考えていないようですから。

頭を割られるのはさすがにご遠慮します。

ということで、強引に頭を下げる。

俺のほうが早いとはいえ、斬撃に対して頭突きするような――もちろん頭は一瞬早く通り過ぎて、後ろ髪がざっくりと切り落とされただけですけどね。

まるで獣みたいな格好になってしまいましたね。

なら、獣らしく引っ掻いてみましょうか。

四肢に力を込めて猛獣のように飛びかかる。


「――ちィ!」


俺の腕は彼女の脇腹をごっそりと奪いました。

さて、これで死ぬのは時間の問題。

さすがに青い顔――血がすごい勢いで抜けてますからね。

次はもう一人の方。


ああ、髪ですがもう生えていますね。

ざっくりとやられたのに、今はもうまるでなかったように。

なかなかに化け物ですね、俺も。

【陥穽】

第3階位に至った者が使える世界法則の陥穽。

その願望により、邪魔な現実の法則を一つだけ破壊する。

ただし効果が作用するのは己のみである。

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