プロローグ
「「この世界はよどんでいる」」
声が同時に響く。
しかし、これは――二人の男が、などと形容して良いものか。
その男たちはひたすらに異質。
一目どころか、近づくだけでもわかる……違いすぎると。
物質化するほどの意思。
言ってしまえば、そう。
近づくだけで心臓すら握りつぶされるほどの威圧。
それでもあくまで近づいた時の話だ。
その”異質”を真正面から受けて立つには、同じだけの意思を持たなければならない。
白い軍服をまとった男が言う。
「ゆえに食いつぶして、新たに生まれ返す」
獣のような男が言った。
いや、獣のようななどというにはふさわしくない。
獣性のみが抽出され、昇華された神獣。
人型をした飢餓。
黒いマントをまとった男が言う。
「ゆえに一切を無にして、新しく作りなおす」
モノのような男が言った。
モノ? しかし、これは何者か、などに扱えるようなものではない。
誰にも扱いきれないがゆえに自立する。
人型をした虚無。
『|I hate you. I love you.《ああ、神よ》
|You are awhul, fearhul, andfoolish.《私はあなたがおそろしい》
|I praize, recept, and devour.《忌み、恐れ、それでも愛そう》
|I am strange.《この私は壊すことしか知らねども》
|I am you.《世界を愛すことが出来ると思うから》』
「創世――【獣王世界・|同化統合《Beast assimilation》】」
ぎちぎちと世界がきしみだす。
微塵も揺らがない黒衣がぽつりと独り言をもらす。
意思そのものが感じられない。
空気が漏れだしているだけ。
「己が魂を武器と『顕現』し、殺意を『発動』し、世界を『陥穽』し、理を『創世』し、新たな新世界を『開闢』する――第4階梯創世。そこまでならばたどり着いたものもいる」
白装の男は宣言する。
まるで戦いを控えた軍団を鼓舞するかのように。
裂帛の気迫。
「しかし、第4階梯に登ったところで神にはなれない。己が願望により世界を作ったところで、それは必死に自己主張しなければ消え去ってしまう儚い世界。第5階梯に昇ることで、我々は新たな世界を作ることが出来る」
ぽつりぽつりとつぶやく言葉は妙にはっきりと響く。
その言葉は事実を確認するためのもの。
七人の第5階梯到達者が作ったこの世界を捨てて、自分一人で新たな世界を作るという覚悟。
「ゆえに、我らは戦う」
「あなたとの戦いで上り詰めるために」
階梯を上がるには経験を積めばいい。
しかし、それで到達できるのは精々が第3――それ以上は自らを破壊するほどの渇望が必要になる。
現実を認めない願望。
世界を塗りつぶす願い。
ろうそくが一番明るく燃えるのは、燃え尽きる寸前と相場が決まっている。
「そして――」
「――神は2柱もいらない」
この世界に秩序はない。
7人の『開闢』が交じり合い、混沌と化した。
だから人々は争う。
7つの国に分かれて、戦争が起こっていない時代などない。
なにより他人の妄想に安住することが許せない。
だから全てを壊して新しく作りなおすのだ。
『|I love all.《ああ、神よ》
|Why are you don’t love us?《何故あなたは人に言葉を与えたもうた?》
|We are prisoner.《心こそ人の罪なり》
|I want all.《私は何も要らない》
|You dicide me on destiny.《ただ一つの舞台装置でありたいから》』
「創世――【終焉世界・機神幕引「】」
獣の世界と、モノの世界がぶつかり合う。
現世を侵食する2つの世界が絡みあい、喰らい合う。
「「さあ、階梯を上がるための戦いを」」
ぶつかる。
世界と世界が。
渇望と渇望が。
夢想と夢想が。
「む?」
「今――」
強大過ぎる世界がぶつかったことで、現実そのものが砕けかけている。
そして時空が崩れる。
流れるいくつかの輝くモノ。
「異世界の魂が落ちてきたか」
「しかし、問題もない、続けようか」
「上り詰めるために」
「そして、新生を迎えるために」
その想像を絶する意思比べはいつまでも続く……