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光輝と修二が教室に入るとすでに朝のSHR始まっていた。勢いく扉を開けたのだが誰もふりかえることはなくいつもなら誰かが遅刻すれば茶化したり笑ったりする連中さえも前に釘付けになっている。教卓には担任と…大翔がいた。相変わらずの不機嫌な表情に冷たい目をしている。
「遅いぞー、光輝と修二」
担任が2人に気づき声をかけると大翔が視線をよこしてきた。光輝をみつけ少し驚いたようだがすぐに表情はもとにもどる。先に視線を逸らしたのは大翔の方だった。
「同じクラスだったのか」
席についた光輝がポツリと呟く。
「へ?なにあのイケメンと知り合い?」
「…兄弟」
その呟きをきいた修二のといかけに少し躊躇してから答えを返す。
「嘘〜!だって彼、山中大翔って言ってたわよ?あんた一之瀬じゃない」
「山中?」
近くの席の女子が笑いながら言う。なぜそんな嘘をついたのかと大翔をみてみれば大翔は担任に指示されこっちにむかって歩いてきていた。隣の空席をみて嫌な予感がする。その予感通りに大翔は光輝の隣に座った。
「山中ってなんだよ」
こそっと話しかければ大翔がちらりと光輝に目を向ける。
「なんか文句あんのか?」
「おおありだ。一之瀬だろ?」
「俺は一之瀬になった覚えはねぇよ」
とんでもない我がままである。山中とは旧姓か。いや、母親の旧姓は下田だときいている。だとすれば前の父親の苗字だろうか。
「とりあえずさ、変に思われるからここでは一之瀬って名乗っといてくれよ。あとで色々質問攻めにされるぞ?」
ため息をつきつつの発言には鋭い睨みで返される。ああ怖い。
「そんなの、無視しとけばいい」
「お前、友達できないぞ」
確信だ。
「友達?そんなのいらない。邪魔なだけ」
どんだけ孤独を貫くつもりか。いや、孤独だとさえ思わないのだろう。光輝がどうしたものかと考えてるうちに大翔は視線を前に戻していた。
「かなり…怖いイケメンなんだな…不良?」
修二がこそこそと光輝に耳打ちする。不良という言葉は適していないと光輝は首を横に振った。
「不良…ではないと思う」
「じゃあなんだよ」
何と言われても答えようがない。言葉に詰まった光輝が口を閉ざすのに
「さぁ…でも不良じゃないよ」
今度は断言する。その強い断言には修二は驚いたようだったかなにも言ったりはしなかった。
「…聞こえてんだけど」
こそこそしてるつもりが全然内緒話になっていなかったようだ。
「あ、悪い」
「…別に」
慌てて謝るが意外とそこまで気を悪くしていないようだ。こころなしか戸惑ってるようにすらみえる。
「気を悪くしたんじゃねぇ?やべぇかな?あとで俺ら殴られる?なぁなぁ」
「だっ、もうお前黙れ」
うるさい親友を軽く殴る。そして大翔の機嫌を損ねていない確認するがやはりそこまで怒っていないように見える。光輝はひとり安堵した。SHRが終わると女子の群れが大翔に迫る。やはりイケメンは敵である。だが、大翔はさも迷惑そうに無視を貫いている。しかしそんなことでくじける女達ではない。ここの女子らはまるでピラニアなのだ。ここまでのイケメンを諦めるはずがない。大翔がまるでヘルプを求めるかのようにみてくる。困惑しているようだ。ここまで迫られたことがないのだろう。
「その…大翔君、嫌がってるからやめてあげて欲しいなー…なんて」
口を出せば女達に睨まれる。
「光輝、恋人が困ってんだから助けろよ」
「へ?」
「俺達、付き合ってるから」
「はいいいいいいい!?!?!?」
嘘つきだ。嘘つきがいる。女達も男たちもこの言葉を聞き呆然となる。平然とこんな嘘をつく大翔は俺のことが大キライはずだ。ありえない。
「行こうぜ、光輝」
大翔は光輝の腕を掴み教室を飛び出す。少し教室から離れたところでぱっと手が離され自由になる。
「じゃーな」
置いて行かれる。
利用の仕方がひどすぎる。教室に戻れないではないか。光輝が呆然としていると女達が追いかけてくる。そして光輝をかこむ。
「大翔くんとはどんな関係だ」だの
「付き合ってるとか嘘だろ」だの
「身の程をしれ」だの
「どこまで進んだ」だの
(最後のはおかしいだろう)女子たちに質問攻めにされるなかで光輝は心の中で悲鳴をあげていた。