表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

sweet edge

sweet edge  ~ それでも恋は

作者: 真織

 好きな人には、彼女がいて。

 本人から「あきらめて」とまで言われてしまったというのに。

 それでも。


 まだ、好き。


 ハルくんだけを、見つめて。

 季節が、巡り、また秋が来た。


 

「美緒、今度の土曜日、開いてる?」

最近、彼と別れた明日菜。しょっちゅう私を誘ってくる。

「予定は、ないけど」

「じゃあ、都香駅に10時ね」

強引に時間と場所を決められ、土曜日を埋められてしまった。

 なにもないから、いいんだけどね。


 そして、土曜日、都香駅に行ってみたら。

 明日菜と知らない男の子が二人。

 ……やられた。

「明日菜、どういうこと?」

「まあ、いいじゃない。私だって新しい出会いが欲しいし。助けると思って、つきあってよ」

 明日菜によると、一人は中国語クラスで知り合った杉本くん。潔い短髪で、たれ気味の細目がすごくいい人そうな印象。

 もう一人は、明るい茶髪の岡野くん。

「長谷川さん、去年、法制史一緒だったんだけど」

あー、記憶にないです。

「その様子じゃ覚えてないよね?」

……ごめんなさい。

「今年は、刑法概論とか一緒だから、よろしく」

岡野くんは、これから覚えてね、と明るく言ってくれた。

 それから、四人でボーリング行ってカラオケして、ご飯食べて。その間に、岡野くんにメルアドを聞かれ。断るのも変かなとアドレス交換し、その日は解散した。


 その夜。

 岡野くんから、メールが来て。

『今日は楽しかった。来週の週末、時間ある?』

……どう返せばいいか、わからず。月曜まで、なんだかもやもやして過ごした。


「明日菜、どういうこと?」

この質問をするのは二回目だ。

 月曜日に集まったいつものメンバーでのランチタイム。明日菜は、知らん顔で親子丼を食べている。

「まあまあ、美緒。明日菜は明日菜で、いろいろ考えたんだとは思うよ?」

さっちーが横目で明日菜を見ながら言った。

「だぁって。振り向きもしないのを、いつまでも思ってたって不毛じゃない。岡野っち、前から美緒のこと気にしてたみたいだしさ、この際、前向きに考えてみたら?」

前向きって。うさんくさい政治家みたいなことを。

 土曜日のセッテイングは、私と岡野くんを引き合わせるための、明日菜と杉本くんの計画で。

 明日菜の暇つぶしに付き合うだけのつもりだった私は、ただ戸惑うばかりだった。

 そのうえ、すぐに、メールまで来るなんて。

「別に無理してまで付き合うこともないよ」

千裕は、淡々と言った。

「でも、どうやって返事するの?」

「思ったまんまでいいんじゃない? 嫌だったら、断ればいいんだし」

……そうは言うけど。経験値の低い私には、断ることも難しい。

 誘われたこととかもないし。

「美緒は、基本的にガード固いからねー。こうでもしないと、男子も声もかけらんないでしょ」

明日菜は、もぐもぐしながら言う。

「可愛いのに、みんな指加えて見てるんだから。もったいない」

はあ? 

「明日菜、行儀悪い。飲み込んでからしゃべりな」

「美緒は、今までずっと、ハルくんしか見てないからね。他は全然目に入ってない」

「ほかの人に目を向けるいい時期かもね」

……という友人たちの勧めに負け、私は、岡野くんに日曜日なら空いてますと、返事したのだった。



 時折、学内でハルくんを見かける。

 その横には、彼女の芹さんがいて。

 去年のクリスマス、上手くいったのかな。四回生になった芹さん、就活がうまくいったら時間もとれるんだろうな。なんて。

 ハルくんが、好きになりたいと願った人。

 ずっとそばにいるってことは、願いがかなったの、かな。

 だったら、それは、ハルくんにとって、よかった、んだろう。

 とても、おめでとうは言えないけど。

 この気持ちに、線を引くためには。

 ……違う人を、見るようにしていかないといけないのかな。



 日曜日は、嵐山まで出かけた。

 また都香駅で待ち合わせして、私より先に来ていた岡野くんは、

「来てくれると思わなかった」

とまぶしそうに私を見た。

 ……なんだか申し訳ないような気持ちになった。

 岡野くんも、ちゃんと切符まで用意してくれていた。こういうの、男の子は当たり前にするんだろうか。 

 目的地に向かう電車の中では、どう会話していいかわからず、岡野くんの質問に答えるばかり。

「長谷川さん、たいてい女子のカタマリでいるから、話しかけづらかったんだよね」

「そう、かな?」

「あ、でも、去年の学祭の時は、楽しそうにたこ焼き焼いてたよね」

「頼まれて、手伝うことになったから」

「うん、あれで、長谷川さんも男としゃべったりするんだなーなんて」

岡野くんは、ちょっと顔を赤くして、

「やべ。去年から長谷川さんチェックしてたの、バレバレ……」

とつぶやいた。

 ……なんか、こっちの方が恥ずかしいんですけど。


 嵐山で、きれいな紅葉を見ながら歩いて。

 岡野くんは、猿の出現に驚いた私をかばうように立ってくれて。

 その後は、手を引かれた。

 びっくり、したけど。

「嫌?」

「ううん」

いやじゃない。だけど。

 安心したように岡野くんは、そのまま私と手をつないでいた。

 でも。つないだ手が、違う。

 そんなの、当たり前のことなのに。

 もう、ずいぶん前のことなのに。覚えているのは、その手そのものじゃなく、私の気持ち、なのかもしれない。


「このまま、付き合わない?」

そう言われたのは、帰り道。もうすぐ、都香駅に着くかなという頃だった。

「……ごめんなさい」

「即答? なんで?」

「好きな人がいるから」

「……付き合ってないんだろ?」

そのあたりは、もしかしたら明日菜から聞き取り済みなのかもしれない。私は黙ってうなずいた。

「だったら。えーと、付き合うってことじゃなくて、また会って、もうちょっと俺のこと知ってから返事くれない?」

無理、だと思う。

 岡野くんは―――こんな言い方は失礼かもしれないけど、じゅうぶん、付き合ってもいい人。私には、もったいないくらいかも。

 黙っていたら、

「どうしても、無理?」

「うん」

「……そっか」

岡野くんは、ふうと揺れる列車の天井を見上げた。

「なんとなく、わかってたけどね。けど、今日来てくれたから、ちょっとは望みあるかな、って先走った」

岡野くんは、笑って、できれば今後は気にせず友達でいてください、と言ってくれた。

 その気持ちが、切なくて、うつむくしかできなかった。

 


 思いがけず、自分に寄せられた好意。

 答えられない痛みだってあると知った。


 ハルくんは、どうだったんだろう?


 ……少しは、痛かった?


 

 ハルくん。

 私は、いつまで、あなたのことだけを、こうして思っているんだろう?

 この痛みに終わりはあるのかな。

 いつか、時が自然に消していくのかな。


 そうだとしても、今は。

 まだ、

 胸の奥に、ずっと燻りつづける ――― sweet pein.


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ