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アラクネさんは大好きな彼を見守りたい  作者: 石橋いも
二章 並木陽太と染谷亮介
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――②――

 染谷の調子はやはり可笑しかった。

 登校中に感じた僕の予感は、間違いではなかったらしい。

 僕が教室に入ると、染谷は自分の席でぼーっと宙を見ていた。まるで魂の抜けた人形のようで、その目に精気が無い。声をかけるのも躊躇われ、僕はこっそりと自分の席へ向かった。

 鞄を置いて席に座る。携帯を開き、朝のホームルームまで時間があるのを 確認した僕は、さっきのメールの意味を確かめるべく、アラクネさんにメールを打ってみようと考えた。

 親指で文章を打ち込み、文面を作成する。慣れていない携帯は扱い辛く、てっとり早く声で会話する方が楽だと実感させられる。

『さっきは何で、辞めた方が良いって言ったの?』

 僕は端的な文章を作ると、送信ボタンを押し込む。時間を掛けて作ったメールだが、それに対する返信は一瞬だった。

『今の染谷君は、精神的に不安定です。あまりいい顔しすぎると依存されますよ』

 僕は辺りを見回す。教室ではそれぞれがグループに別れて和気藹々とおしゃべりを楽しんでおり、こちらを見る者は居ない。これなら声で会話していても不審がられる心配はないだろう。

 面倒になった僕は、小声で言う。

「染谷が変になった理由を知ってるの?」

『はい、一応把握しています。でも、その事については言いたくないのが本音です』

「それでも教えてって言ったら?」

『断れないですよ。だって、並木君に嫌われたくないですもん……でも、今から話すと長くなってしまうので、時間がある時の方がいいですね。――あ、でも中途半端に教えてモヤモヤさせてしまえば、早くちゃんとした内容が聴きたくなって私とお話する時間を確実に作ってくれるかもしれないよね、うー、どうしよう』

「後半から独り言が混じってるよ」

『ごめんなさい!』

「……そうだ、今から要点だけまとめたメールを送って貰おうかな。そうすれば僕は空いた時間にそれを読めばいいから、最もてっとり早い」

『うぅ、そんなぁ』

「冗談だよ。また昼休みになったら連絡する。それじゃ、またね」

『はい……』

 僕は携帯を再びポケットに戻した。

 何故、アラクネさんは染谷について詳しいのか? 

 疑問の答えは想像が付く。恐らく、染谷が僕の友人だからだ。アラクネさんは僕を調べるにあたり、僕の周囲についても調査しているのだろう。

 青山さんが僕の告白を断ると言ったのも、つまりはそういうことだ。

 流石に盗聴器やカメラを仕掛けてはいないとは思うが……もしも仕掛けていたとしたら――今後について考える必要がある。

 僕は信じるしかない、僕に嫌われたくないと言うアラクネさんを。

 程なくして、ホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任教師が教室へと入って来た。生徒達はお喋りを辞め、それぞれの席へと戻っていく。僕はちらりと染谷の方を見たが、その目はまだ虚ろなままだった。



 ――それから数分後。

 授業が始まり、僕はアラクネさんに何度も何度も驚かされることになった。彼女は勉強が得意だと言っていたが……まさか、これほどとは――配られた英語の小テストを解き終えた僕は、予習の的中率に舌を巻いていた。

 昨日の夜、宿題を進めていた僕に、アラクネさんはこう言った。


『この問題、間違いなくテストに出ます。今のうちに覚えておいた方が良いですよ』


 携帯のカメラで宿題のプリントを撮影し、それをメールに添付して送る。それを見たアラクネさんは、問題のいくつかに赤い丸印を付けて返してきた。

 なんでテスト期間でも無いのに真面目に勉強しなくちゃいけないんだよ、と僕はやる気が無かったのだが、『今のうちに覚えておけばテスト前が楽ですよ』と、このまま煩く騒がれ続けるのも嫌なので、僕は渋々勉強した。

 その結果がこれだ、突然の抜き打ちテスト。

 クラスの皆が苦い表情を浮かべるのに反して、僕の手はすらすらと問題を解いていく。

 一度だけでなく、こんなことが何度も起こったのだ。

 英語だけでなく数学でも、歴史でも、生物の授業でも。たまたま多く勉強した翌日、様々な授業で教師に指名された。黒板に答えを書きに行く場面や、突然のムチャブリ的な答えの要求に対して、つくづく正しい回答を示した。そのどれもが、アラクネさんの教えた通りだったのだ。

 今は携帯に触れられないので会話は出来ないが、盗聴器によってこちらの音声は聞こえているだろう。「今日のお前は凄いな」と、壇上に立つ先生の感心する言葉を受け、僕は答える。

「いや、本当に凄いのは僕なんかじゃなくて――」

 ポケットが震えて、僕は口をつぐみ、言い直す。

「た、たまには真面目に勉強してみよっかなーって、思ったっていうか、ははは……」

「なんだ、そのしどろもどろな態度は? 突然格好悪いな」

「ははは……」

 カンニングをした訳でもないのに、何故か堂々とすることが出来ず、僕は苦笑を浮かべてしまう。こんな風に褒められて味を占めてしまっては、これから先もアラクネさんに頼りきりになってしまいそうで、それが少しだけ怖かった。


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