表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラクネさんは大好きな彼を見守りたい  作者: 石橋いも
終章 並木陽太と荒久根糸子
33/34

エピローグ

 こうして、私の恋は終わりました。

 我ながら、後腐れしか残らない最悪の結末だったと思います。並木君は、最後の最後まで私を気遣ってくれました。私が体当たりをして無傷だったのも、彼が身を挺して庇ってくれたからです。結局あの人は、最後の最後まで優しい人でした。

 本人は自分のことを「優しい人間じゃない」と言っていましたけど、今思えば、あれは私の不安を見透かした上での言葉だったのではないかと思います。

 私達は、ずっと一緒にいたけれど、お互いのことを何も分かっていない。 僕が君の顔を知らないように、君は僕の本心を理解していない。

 だから、怖くても勇気を出してくれ。

 僕は絶対に受け入れるから。

 と、そう言いたかったのが分かってしまうくらいには、私は並木君について、理解が深まっていました。直接会って話が出来たのは、大きな進歩だったのでしょう。きっと並木君も今頃は「荒久根糸子」の人間性について、より深く理解してくれている筈です。

 なので、今ものすごく寂しい気持ちになっていて、後悔していることも、見透かされていることでしょう。

 もっとも、意識を取り戻していればの話ですが。



 帰宅して、シャワーを浴びて、たっぷり時間を掛けて髪を乾かした後、自室に戻る。いつもの行動パターンをなぞるようにして体を動かし、平常心を取り戻そうとしたけど、やっぱり駄目でした。

 部屋の扉を閉じて、一人になった瞬間、私の目から涙がこぼれて止まらない。もう二度と並木君と話せないと思うと、心が引き裂かれたような気持ちになる。

 電源が入ったままのパソコンに、大量のケーブルが床を蛇のように這う部屋。その一角に座り込んだ私は、体をアルマジロのように丸めて、泣きました。

 どうしようもない自分の情けなさに、死にたくなりました。

 やがて、体の疲れに耐えかねるようにして、私は眠りに落ちていました。並木君と話すのは、当然ながら緊張しましたから、それも仕方ないでしょう。

 そして夢を見ました。

 過去の映像が、まるで録画されたブルーレイさながらの鮮明さで映し出されます。

 一年前、私はネットでは手に入らないパーツを求めて外出していました。今思えば、欲しいと言ってもこれといって必要の無い物です。単に持て余した時間を潰そうとして、何か目的を探していたのでしょう。

 電気街の路地裏に入り、点々と並ぶ闇市を物色しながらお目当ての物を探すのは、それなりに楽しかったです。退屈を紛らわせればそれで良かったので、時間を掛けて一帯をうろついていました。

 それが、間違いでした。想定外の豪雨に襲われたのです。天気予報では一日快晴だと言っていたのに。

 雨宿りしようにも、既に路地裏の奥へと入りこんでしまっていて、気楽に入れそうな店は無く、傘を持っていない私は全身ずぶぬれでした。

 その上、最悪なことに、私の近くの建物に雷が落ちました。

 耳が壊れてしまうくらいの凄まじい轟音が響き、私はどうしようもないくらい、心細かったです。

 学校に行かなくなって、煩わしい人間関係から解放されて清々しい。他人なんか不要だとすら思っていたのに、一人ぼっちなのが辛くて辛くてたまりませんでした。

 そんな時に現れたのが、並木君だったのです。


「大丈夫? これ使って」


 折りたたみ傘を持った並木君は、自分がずぶ濡れになるのを厭わずに、私にその傘を渡しました。そしてポケットからハンカチを取り出して、私の髪を拭いてくれました。

「駄目だよ、小さな子がこんな所まで来ちゃったら。お母さんは?」

とっさに私が首を横に振ると、並木君は中腰の姿勢になり、私と目を合わせて言います。

「そっか。何にせよ、こんな場所に居ても会えないと思うし、向こうの表通りに行こっか?」

 声が出せない私が、それでもなんとか頑張って首を縦に振る。すると並木君は空いた方の手を握って、一緒に歩いてくれた。

 それが、始まりでした。

 たったそれだけのことで、始まってしまいました。



 カーテンから差し込まれた光で、私は目を覚ます。

 無理な姿勢で一晩過ごしたせいか体の節々が痛い。気分は最悪なままだけど、お腹がぐぅと小さく鳴って自己主張するものだから、部屋を出てリビングに向かう。

 すると、ママが既に朝食を用意してくれていた。

 テーブルに並んでいるのは、炊き立てのご飯と、ほんのりと湯気を立てるお味噌汁に、焼き鮭とタクアンという、いかにも絵に描いたような日本食だった。

 いつもならトーストとスクランブルエッグとサラダなのに、今日は一体どうしたんだろう? 

「イトコ、オハヨー! 今日は、イトコの大好きな、日本食やってみました!」

「あ、そうなんだ……」

 別に特別日本食に思い入れがあるのではなく、お弁当にパイやパスタを入れられては変な目で見られるから止めて欲しかっただけなのだが……それを直接言うと、いじめを疑われそうだから、そう言うしかなかっただけで。

 この国では出る杭は打たれる文化が根強く、特に女の子の世界では気をつける必要がある。まぁそんなこと言っても分かってくれないだろうから、いちいち言わないけど。

 私は席に着くと、両手を合わせて「頂きます」と、呟く。そしてお味噌汁のお椀を取り、口元へと近づける。

 ごくりと、一口飲んだ瞬間、思いっきりむせた。

「ど、どうしたのイトコ!?」

「ママ……お出汁、入ってない」

 うー、やっぱりかぁ。慣れない物を作ろうとするからこうなる。こんなの飲めたものじゃない。ひとまず椀を置いて、鮭を食べようと箸を伸ばす。

そして、ある物がない事に気付く。

「ママ、お醤油は?」

「おしょーゆ?」

「ソヤソースだよ」

「………………え?」

「はぁ……パパが起きる前に、何とかした方がいいね」

 キッチンに戻って慌てているママを尻目に、ため息を吐いた私は、唯一まともに見えるご飯だけを持ってその場から離れた。

 自室に戻り、部屋の鍵を閉める。カチン、と小気味の良い音がすると心が落ち着くから不思議だ。気がゆるむと、失礼なことを無意識に言ってしまわないよう、常に敬語で話していた頃の癖も薄れていく。

 PC用チェアーに座り、パソコンの画面に目を向けながら、ご飯を一口食べる。予想通り、ベチャベチャの食感だったが、気にしない。空腹は最高のスパイスだってタクアン和尚も言ってた。だから大丈夫。

「さて、並木君は。っと」

 キーボートを叩いていつもの画面を呼び出し、続いてマイクに「おはようございます」と呟いて、様子を見る。

 返事は無い。

 そして思い出した、昨日の事を。ていうか携帯を壊していたから、こっちからはもう連絡の取りようが無い事を。

「あー……そうでしたね」

 ふいに込み上がってくる孤独感に耐えかねるようにして、私は不味いご飯をかきこんだ。口の中がすんごくネチャネチャして最悪だけど、それが逆に有り難い。

「涙で塩味、付けちゃおうかな……」

 自分で言っておきながら、すんごいバカだと思った。


 それでも一応、制服に忍ばせていた盗聴機は生きていたので、並木君の様子をモニタリングすることは出来た。

 いつも通りの時間に起きた並木君は、学校へ向かおうと歩いているみたいだ。タン・タン・タンと、普段通りのテンポで足音が鳴らされている。

 それを追いかけるようにして、タタタタタと、素早いテンポが近寄ってきた。この足音は――

『おーい並木ィ、なんだよ不機嫌そうな顔しちゃってよぉ』

 予想通り、染谷君。登校中の並木君を見つけて追ってきたのだろう。あっけらかんとした明るい声に、私はボリュームのつまみを捻って音量を下げる。

『見てわかるだろ、不機嫌なんだよ。八つ当たりされたくないなら向こう行ってろ』

「……ごめんなさい」

 ここで謝っても、並木君には届かない。

 それでも、言わずには言られなかった。

『うぉぉ……なんかマジで怖えぇ。よくワカンねぇけど怖えぇぇ……』

 染谷君の恐れる声と、後ずさる足音。ごめんなさい私が悪いんです。並木君は、裏切られた気分なのだろうか? もう私を許してくれる気は無いのだろうか?

 そこまで考えて、凄まじい自己嫌悪に陥りました。自分から傷つけておきながら、この馬鹿女は、まだ救われたい気持ちでいるらしいです。滑稽すぎて吐き気がしてきそう。

『ところでよ並木。そのマフラー、なんだ?』

 ふと、染谷君の質問する声。距離が離れたからだろう、声がとても小さい。私はすぐにボリュームを調節する。

 急いで捻ったので、思わず最大音量まで上げてしまったが、並木君のとても小さな呟きを拾うには、それが丁度良い調節だった。

『貰ったんだ、大事な人から』

「……」

 並木君を気絶させた私は、このまま放置する以外にどうしようも出来ませんでした。

 ですが、夜風は冷たく、風邪を引くくらいならまだ軽度ですが、このまま放っておけば最悪の場合、肺炎になってしまってもおかしくはありません。

 私は、自分の首に巻いていたマフラーを外して、そっと慎重に、並木君の首に巻き直しました。気休め程度ですが、無いよりはマシだろう、と。そして体を起こしてベンチに座らせると、公園を離れました。

 どうやら、そのマフラーを今、巻いているらしいです。

 ちなみにこれは、私の手編みです。私の特技は何も機械関係に留まらず、ニット系アイテムを自作するのも得意なのです。

「暖かいですか? 並木君」

『クシュンっ』

 まるで返事をするかのようなタイミングで、並木君はクシャミをした。それが何だかおかしくって、私は笑ってしまう。

『おいおい並木、お前風邪かよぉ。俺に移さないでくれよなぁ』

『だから、さっきから僕は離れろって言ってるだろ』

『つれねぇーこと言うなよなぁ、俺ら親友じゃねぇか』

『駄目だ。ただでさえ疲れてんのに、本当に面倒くさい』 

 そういう並木君の声は、ほんの少し、嬉しそうでした。

 染谷君もそれが分かっているから、一緒にいるんだと思います。とても羨ましい。なのに、不思議と嫉妬の感情はありませんでした。

 私が消えたことで、並木君の平穏な日常は、無事に帰ってきたみたいです。クラスメイトと楽しく話したり、染谷君と放課後に遊んだりする、四コマ漫画にでもなりそうな穏やかな青春。そんな世界で、いかに私が異物だったのかが、改めて分かりました。

 並木君の幸せな日常に、ストーカーは要らない。

 その優しさは身近にいる仲間の為に使われるべきで、私一人が独占して良いものじゃない。

 並木陽太はノーマルで、荒久根糸子はアブノーマル。元から住む世界が違う者。寂しくないと言えば嘘になりますが、それでも、私は離れて正解だったのです。

 そう、納得して、パソコンの電源を落とそうとした。

 ――直後のことでした。

『並木ぃぃぃいいいーーー!!!!!!!!』

 スピーカーが壊れたかと思うくらいの大声が、突如聞こえてきたのです。

 それに驚いた次の瞬間。

 

 ドガガガゴガドゴゴガコォォォーン!!!!


『うぉぉぉ並木! 大丈夫かよおい! ってか青山!! お前何やってんだ!!』

『はぁ、はぁ、見つけた、並木』

『テメェこら並木から離れろ! バレー部のくせにラグビー部顔負けのタックルしてんじゃねぇよ!! 机ごと吹っ飛ばしやがって!』

『染谷、悪いけど並木借りてくね』

『お、おい、ホームルームどーすんだ』

『サボる。そんなことより大事な用なの! ……よいしょっと、じゃあね!』

 言うやいなや、青山霞の激しい足音以外に何も聞こえなくなりました。あの耳をつんざくような轟音が鳴ってから、並木君は一言も発していません。目を回しているのか、気絶しているのか……状況から察するに、どうやら青山霞に背負われて移動しているようです。タタン、タタン、タタン、と軽快なステップで階段を降りる音。どうやらとても上機嫌らしく、まるでダンスを踊っているかのような足音が聞こえてきます。

 程なくして、ガララ、と扉の開く音。

 そして、ぺちぺち、と何かを叩く音。

『ん……なに、ここ?』

『保健室。今は私達以外誰も居ないよ』

 並木君が目を覚ました。きっと頬を叩いていたのでしょう。

『あ、そうなんだ……で、なんでまたそんな場所に――って、痛ててっ』

『ごめんね。ついタックルしちゃった。後でキスしたげるから許して』

『は、はぁ!? ちょっと待って、どうしちゃったの? なんでそんなテンション高いの?』

『あたしね……見ちゃったの!』

『何を?』

『並木の彼女!!!!』

 私の体が跳ねた。

 椅子から転げ落ちそうなくらい、驚いてしまう。今、なんて言った? 

 まさかとは思うがそんな、信じられない。

『彼女って……まさか、アラクネさんをみたの!?』

『へぇ~、アラクネちゃんって言うんだ、あの娘。もうね、ホントにね、もんのすごく可愛いかったよ』

「お、お願いだから余計な事を言わないで」

『プラチナブロンドのロングヘアーでね、目の色は淡いブルーだった』

 わああああああああ不味い不味い不味いやだやだやだこんなバレ方するの絶対やだどうしようどうしようどうしよう!!!! 私は何も聞いてない観測してないだからそんな事実は無い私はアラクネさんだもん並木君の携帯に住む精霊さんだもん荒久根糸子なんて知らないもんっ!!!!

 私は現実逃避をしたくて、手で両耳を塞いだ。そして両目をぎゅっと閉じて、地球に隕石が落ちてきて世界が滅ぶのを待った。

 だけど、一向に隕石は落ちてこない。

 待ちきれなくなった私はついに、両手を離して耳を解放した。

『ちょっと並木、どうしたの?』

 青山霞――憎むべき私の敵が、何か言ってる。

『なんで耳を塞ぐの?』

 それが聞こえた瞬間、思考が停止した。

 あんなに私の姿を気にしていた並木君が、私と同じように耳を塞いでいるらしい。

「どうして……?」

『僕は、また会いに来てくれるって、信じてるんだ』

 並木君の、絞り出すような声が、私の心に届く。

 私は泣いていた。もうどうしようもないくらい、泣いていた。


「私は、ヒドい女ですよ? ストーカーだし、臆病だし、スタンガンで痛い目に遭わせるような、最低な人間なんですよ?」


『僕は、あの子に酷い事をした。これまでずっと一緒にいて、信用させるようなことを言って、でも最後の最後で裏切った。自分の好奇心の為に、裏切ってしまったんだ』


「そんなことないです! 並木君はずっと、私のワガママに付き合ってくれました! 並木君は、私の無茶な願いを叶えてくれました。ずっとずっと、私の為に我慢してくれました!」


『あの子は、ずっと側に居てくれた。僕が何かをやろうとしたとき、いつもサポートしてくれた。辛いとき、僕を励ましてくれた。とても、大事な存在なんだ』


「そんな……そんなこと……」


『だからもう、二度と間違えない。僕は絶対に、アラクネさんを大切にする』 


 私はもう、何も言えませんでした。

 並木君は、まだ私のことを好きでいてくれて、それが嬉しくて嬉しくて、どうしようもなく、幸せな気持ちです。 この幸せに、苦痛は一切ありません。

 心の通じあった、本物の幸福です。


『ふ~ん、なんだか分からないけど、じゃあライバルってワケね、あたし達』

『「え?」』

 並木君と私の声が、ピッタリとハモリます。

 そして青山霞は、とんでもない事実を突きつけました。

『だって、あたしも好きになっちゃったもん、アラクネちゃんのこと。一目惚れって奴ね』

『「えぇぇぇ!?」』

 並木君と私が盛大に驚きます。どうやら、そういうことらしいです。

 まさかの事態に開いた口が塞がりません。

『アラクネってもしかして、荒久根糸子のことか? あのサッカー部エース、ロリコン事件の』

 しかも、まだまだ最悪の事態は続くみたいです。

 ふと、何処からか別の声――染谷君の発言が聞こえました。

『心配だから追ってきてみれば。……並木の彼女って荒久根糸子なのか?』

『知ってるの染谷!? ならあたしに紹介しなさい!』

『まあ中学が同じだったからな。っつか、さっきから並木が絶望顔で耳塞いでるぞ』

『並木!!! あたし達ライバルだからね!!! だから勝負はフェアに行きましょうあたしに糸子ちゃんを紹介しなさい!!!』

『……もう勘弁してくれ』

 心底疲れ果てた並木君の声。

 風邪を引いて体力を失っているだけでなく、タックルを受けてダメージを負い、こうも叫ばれては、精神的にもかなり弱っているようです。

『ぼく、今日はもう、帰ろうかな……実は熱も三十八度あるし』

『おう、そうしろそうしろ。先生には俺が伝えといてやるよ』

『待って並木!! せめてアドレスだけでも!!!』

『青山お前いい加減にしとけ』

 ガラリと扉を開ける音がして、染谷君と青山霞の言い争いが、徐々に遠退いていく。

 どうやら本当に帰るらしいです。昇降口で靴をはきかえた並木君は、外に出ていってしまいました。

 タン、タ……タン、と、弱々しい足取りは、体調の悪さを物語っています。人通りの少ない道を歩いているようで、聞こえてくるのはその足音と、時折漏らされる吐息だけでした。

 まるで、二人だけの世界に居るみたいです。

 と言っても、私が勝手にそう感じているだけで、並木君からすれば一人で歩いているのと何ら変わらないのでしょうけど。

 唐突に、私の体がむずむずしてきました。

 並木君が弱っていると分かっていながら、私は部屋で何をしているのだろう?

 さっきの会話を聞いた感じでは、もうバレてしまうのは時間の問題なのかもしれない。だったらいっそ、自分から会いに行った方が……不本意ではあるけれど、バラされるよりは納得できるかもしれない。

でも、そんな勇気、私には――。

 この期に及んで、まだ迷いが消えない。

 並木君は受け入れてくれると分かっているのに……私はどうしようもない臆病者です。

「並木君……私は、どうすれば……」

 そう小声で呟いてみたものの、並木君は無言のまま返事をしてくれない。携帯電話が無いから当然です。

 そして、ふと、並木君の声だけでなく、足音や外の音すらも聞こえなくなっていることに気付きました。

 盗聴機が壊れたのかと思いパソコンでチェックしたものの、電波はまだ通じているらしく壊れた様子は無い。大声でスピーカーに異常をきたしたのかと調べても、特に問題は見つからない。

「あれ? 何でだろ?」

 私が首をかしげた直後でした。

 ドサリ、と何かが倒れる音。

 どうやら並木君、本当に弱っていたみたいです。

「――――ッ!」

 私は部屋を飛び出した。

 誰か通行人に気付かれれば御の字ですが、盗聴機は依然として無音のままです。

 私が行って、助けないと。

「イトコ、慌ててどうしたの?」

「ちょっと行ってくる!」

「……そう、帰りにオショウユ買ってきてくれる?」

「わかった!」

 言いながら玄関へと向かい、靴を履いてドアを空ける。

 すぐ行きますからね、並木君。

 家から出た私は、倒れているであろうおおよその位置を想定し、全力で走る。



 大好きな彼は、きっと、私の来るのを待ってる。



《完》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ