――⑯――
それからの僕は、青山さんを追うのは早々に諦めて、たった一人でトイレに向かった。
ゾンビのようなおぼつかない足取りで歩き、手洗い場の鏡の前に立つ。映った自分は、酷い顔をしていた。とりわけ目が虚ろで、腐ったドブのように濁った色をしている。それなのに意識は冷静で、酷くなった童顔を客観的な気持ちで見つめていた。
ショックだったんだな、お前。
そう、目の前の人間に声を掛けてやりたくなる。
僕は手元の蛇口をひねり、流れ出た水を両手の平で受け止めた。そして顔を洗い、ハンカチで拭って再び鏡を見る。表情は少しだけ回復していた。しかし、蹴られた額から血が流れ出した。どうやら治りかけていた時に濡らしたものだから、かさぶたが弱まってしまったらしい。痛みは殆ど無いが、額からだらりと流れる血は深刻そうに見える。
血は重力に従い、僕の額を横断するように落ちて行く。額の真中から始まり、鼻筋を避けるようにして流れると、唇まで辿り着く。それを舌でペロリと舐めた。しょっぱい鉄の味がして、キスの味は綺麗にウワガキされてしまった。
「……」
だから、なんだって話なんだけど。
簡単な止血を終えて出てきた僕を、月元先輩が待っていた。男子トイレから出てすぐの場所から、覗きこむようにこっちを見ていた。
僕は露骨に視線を逸らし、見ないフリをして歩こうとする。
しかし月元先輩は、僕の傍らまでやってきては、強引に肩を掴んだ。振りほどこうにも気力が沸かず、仕方なく立ち止まる。見上げると、僕を見る月元先輩の顔が見える。その表情は、今の僕よりも泣きだしそうだった。大人っぽい顔つきが勿体無い。
「なんで……あんな顔したんだ」
月元先輩が、声を震わせながら言う。
僕以上に傷ついたのは、他ならないこの人なのだろう。
「僕はきっと、青山さんのことが好きじゃなかったんですよ」
「……」
月元先輩は無言のまま睨みつけてくる。だが、僕は毅然とした態度を崩さない。
嘘だと思いたいならそう思っていればいい。だけど事実、僕は遊園地に遊びに行こうと誘われただけだ。アラクネさんに愚痴を吐き出した時点で、僕は既に割り切っていた。仕方の無い現実だと受け止めていた。なのに、余計な茶々を入れて、そんな想いに泥を塗ったのはお前だ。
さっきは土下座までして謝ろうとしていたが、完全に気が変わった。
「好きだろうが、そうじゃなかろうが……僕から奪ったのは先輩でしょ」
言い放つと同時に、身をよじって手を振りほどこうとした。だが、力が強くてどうしても外れない。それどころか、逃げようとすればするほど掴む力が増して痛い。
……どうやら、月元先輩の気が済むまで付き合う他なさそうだ。
「なぁ、少しだけでいいから話さないか」
「嫌です。腹が減ったんで帰ります」
「飯奢るからさ」
そう言って月元先輩は、引きつった笑みを顔面に張り付かせた。爆発しそうな感情を必死に抑えているのだろう。本心では、並木陽太が気に入らなくて仕方がないのに、事の真相を知るには僕との会話が必要だと考えたに違いない。
それは僕にしても同じ気持だった。そもそも、二人が普通のカップルならこんな事態には陥らない。僕の知らない所で、こうなった原因が絶対にあるのだ。
「……仕方ないですね」
長い溜め息を吐き、了承した。
月元先輩と並んで歩くのは、背筋がそわそわしてなんだか落ち着かない。お互いの印象が最悪なのでそれも仕方ないだろう。
楽しげな表情の客の群れを避けるようにして、仏頂面の男が二人、園内を闊歩する。食事のできる場所を探している間、僕等はずっと無言だった。まるで隣に居る人間なんか存在しないみたいに、前だけを向いて歩いている。だが、そんな物静かな態度とは裏腹に、頭の中は色々と悩んでいた。何をどう聞くべきなのか考えている――のは勿論だが、それ以上に、僕は月元先輩から何を聞かれるんだろう。という不安があった。
何故キスしたのか? なんて聞かれても、逆にこっちが知りたいくらいなのに、それでまた喧嘩になったら最悪だ。返答を今の内に考えておく必要がある。が、まともな内容が思いつく前に、目的の場所へと到着してしまう。
そこは、大規模なフードコートだった。広い空間を埋め尽くさなんばかりに テーブルと椅子が置かれ、それらを取り囲むように様々な屋台が立ち並んでいる。そして、それらの膨大な椅子とテーブルを埋め尽くさんばかりの、大勢の客が居た。
「では並木君、役割分担といこう。僕が席を探してくるから、飲み物を買ってきてくれ」
月元先輩はそう言うなり五百円玉を投げ渡した。
咄嗟に受け取った僕が何かを言う前に「僕はオレンジジュースだから」と続けて、その場から離れて行く。
仕方なくそれに従い、僕は飲み物を売る屋台を探した。
こうも人が多いと前に進むだけでも一苦労だ。僕はトレイに料理を乗せた人達を避けながら慎重に歩く。それで何とか飲み物の屋台を見つけても、行列の最後尾に並ばなければならないから大変だった。
「遅いよ、遅すぎるよ。パシリも満足にできないのかね」
そうして数分後、僕が両手にカップを持って戻ってくるなり、月元先輩は怒った。まるで我儘な子供みたいに手でテーブルをバンバン叩く。
この客の数が見えないのかよ、と言い返しそうになって、僕は口をなんとか噤む。相手はあくまで年上だ。
僕は月元先輩の前にカップを置き、対面の席に座った。
「さて、何から話そうかな」
そう言ってオレンジジュースに口をつけると、月元先輩は頬をにんまりと緩めた。習う様にして僕もブラックコーヒーを一口飲む。味は薄いが、暖かい飲み物は気持を落ち着かせてくれる。
僕がホッと息を吐くと、月元先輩は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「やっぱり緊張するかい?」
「え……」
「まぁ落ち着きたまえよ。君が想像している程キレちゃいないんだ。……収まるべきところに収まったのだと思うよ。不釣り合いなのはこっちだったのさ」
何も言えない僕が両目を瞬かせていると、月元先輩は自嘲気味に笑って、
「青山霞は、並木君のことが好きだったんだよ」
そう続けてきた。
ありえないです――と、喉元まで込み上げた言葉を、ぐっと飲み込む。月元先輩の表情には笑顔が張り付いているものの、目は真剣そのものだ。冗談で言っているようには思えない。
「なんで、そう思うんですか」
だから余計な口は挟まず、話の続きを促した。
並木陽太のことが好きだと断言するのは、つまり、あのキスの理由を既に理解しているからなのかもしれない。
この人が何を伝えようとしているのか、考えるのはその後の方が良いだろう。
「青山霞の宝物を、君は知っているかい?」
「知らないです」
僕が即答すると、ふっ、と馬鹿にしたように鼻で笑う。何も知らないんだね、と遠回しに馬鹿にされたような気がして、頬がピクリと痙攣する。
確かにその通り。僕は青山さんについて何も知らない。好きだったのに、ずっと見ていた筈なのに、その宝物とやらについて、まるで思い浮かばない。その事実が、たまらなく悔しい。
話そうと言ってきたのはそっちなんだから、早く本題に入ってくれ頼むから。
そんな願いが通じたのか、月元先輩の表情が切り替わった。にやついた口角が引き締められ、鋭い双眸で僕を見据えてくる。空気が変わったのが分かる。僕は背筋を伸ばし、話を聞き洩らさないように気を引き締めた。
だが、月元先輩は笑った。
さっきまでのにやけ面とは違う、大爆笑だった。
それ以上に周囲の喧騒の方がやかましいので、特別迷惑になりはしなかったが、それでも、僕の苛立ちを増幅させるには十分な声量だった。
奥歯を強く噛みしめ、「いい加減にしろ!」と叫んでしまいそうになるのを、グッと堪える。顔を俯けた僕は、膝の上に置いた手を握り締め、怒りを抑え込もうとする。
そうしていると、ふいに、月元先輩は泣いた。
笑いながら、雫になった涙をぽろぽろと流している。
面喰った僕が目を白黒させていると、月元先輩は手で目元を覆い「いや、失敬失敬」と前置きをしてから「これで少しスッキリしたよ」と、言った。そして顔を天井に向けて、胸を上下させながら深呼吸を数回。
それを終えた月元先輩の表情からは、今度こそ笑みが消えていた。
「君の写真だよ」
「え?」
いきなりそう言われて、僕は間の抜けた返事をした。
それが気に入らなかったのか、月元先輩は不機嫌そう鼻を鳴らす。そして、詳しい詳細を加えてもう一度言った。
「去年の文化祭の女装コンテスト。あの時の優勝者の写真を持っているんだよ」
「いやいや……優勝したのは僕ですよ」
「じゃ、そういうことなんだろう」
えっと、つまり? どういうことだ?
青山さんが僕の女装写真を持っていた。
まぁ……確かに、持っていても可笑しくはないだろう。
僕は青山さんと初めて出会った頃を思い出す。あの時青山さんは、手に持った写真と僕を交互に見ながら、確認するようにして「あなたが並木君?」と聞いてきたのだ。その時の写真を未だに持っているのだろうと考えられる。
だが、次の月元先輩の言葉は、そんな予想を遥か彼方へ吹っ飛ばした。
「勘違いするなよ。一枚や二枚じゃない、確実に十枚以上は持っているんだ」
あまりの衝撃に、声が出なかった。
数十枚というのは、焼き増しされた写真を何枚も持っている。という意味では無いだろう。きっと、アングルやポージングの違う写真が存在して、それらを所有しているのだと言いたいのだ。
僕が黙っていると、「それを知ったのは、部活中のことでね」と、物憂げな顔をした月元先輩は続きを話す。
「僕はバスケ部に所属しているんだが、その隣では青山の所属するバレー部が活動をしていたんだ。彼女のプレーは凄いよ。僕はバレーには詳しくないけど、床に叩きつけるスパイクや、相手の攻撃を遮断するブロック。そのどれもが強烈で、とても印象的だった……」
「あ、そういうのは別に教えて貰わなくても結構です」
「……まぁ、そういう格好良い姿を見ている内に、僕は青山のことを好きになっていたんだ。彼女の一挙一動を、隣のコートからずっと見ていた。悲しいかな、僕は結構女子から人気があってね、自分から声を掛けるのに慣れていなかったんだな。いやーマジでこういう立場は辛いね」
「だからどうでもいいですって、脱線しないでください」
「……それで、とにかく人前で話しかけに行くのも怖いから、一人で居る所を狙おうとしたんだ。先程言ったように、彼女のことは結構見ていたから、いつ一人になるのかも知っていた。部活の練習を終えて、体育館から皆が出て行った後に鍵を閉めて、職員室に返しに行く。その役割を担っていたのが青山だったんだ」
「で、そのタイミングで行ったんですか」
「行ったよ。鍵を返しに行く途中で、僕は声を掛けた。その時青山は、携帯電話を見ながら廊下を歩いていた。その画面に表示されていたのが、君の女装写真の画像だった。というワケだ」
「……」
話を聞いて、僕は額に手を当てて考える。脳裏に過ったのは、またしても出会った頃のこと。
青山さんが大量の写真を手に入れる方法はある。
僕の写真を売って金儲けをしていた奴を捕まえた際に、恐らく青山さんはデータを拝借したのだ。デジカメなら画像の増減は自由なので、やろうと思えばいくらでもやれる。
「僕が話しかけると、青山は顔を真っ赤にして携帯を隠したよ。とにかく慌てていた。何を言ってもしどろもどろで、それに負けないくらい僕も緊張していたから、どうしていいか分からなかったんだ。……それで、何を思ったのか、僕は告白した」
「……マジですか」
「マジだ。それでまぁ、現在に至るって感じだな」
そう言って、一旦話を切った月元先輩は、オレンジジュースに口を付けた。
「それで、何が言いたいんです」
「だから……だからさ、その、あれだよ」
忌々しそうに奥歯を噛むと、僕から視線を外した。
「最初に言っただろ、青山は並木君のことが好きなんだって。君の画像をこっそり見てたんだ。間違いないだろ?」
いきなりそんなことを聞かされて、はいそうですかと納得する方がおかしい。
眉を潜めた僕はすぐに反論した。
「それじゃ何で、青山さんは月元先輩と付き合ったんですか。普通、好きじゃなきゃ付き合わないでしょ」
「では、彼女が普通な状態ではなかったとしたら、どうだい?」
「どういう意味です」
「例えば……傷心していたり、寂しさを紛らわせようとして、好きでもない人と付き合おうとしたとは、考えられないか?」
「青山さんがですかぁ」
ウソだろ。と言わんばかりに変な声を上げてしまう。もしこれが同級生の発言だったなら大爆笑していただろう。それくらい馬鹿馬鹿しく聞こえた。
だが、そんな気持ちが透けて見えたのか、射抜くような視線を僕へと投げかける。
「お前だろ、傷つけたのは」
月元先輩は、怒りや敵意の籠もった声でそう言い切った。その言葉からは一切の迷いが無く、僕を断罪するような気迫が伝わってくる。
だから、とっさに言い返そうと口を開いても、何も言えなかった。
僕は過去に、染谷との一件で、人は目に見えない部分で苦しんでいるのを知っていたからだ。
僕が分かった気になっているのはその人間のほんの一部でしかないのだと理解した。それが分かっているから、否定できない。月元先輩は僕の知らない青山さんを知っているから、僕が傷つけたと言うのだ。なら、言い逃れをする前に話を聞くべきだ。
そう思った僕は口を閉じて、月元先輩を見上げた。
「まあ、気に入らないことに、悪いのは君じゃないんだけどね」
月元先輩は、ふう、と小さな息を吐いて、皺の寄せた額を指先でつまんだ。どうやらそれが、この人の考える仕草らしい。程なくして指先が外されると、口を開いた。
「それは、三回目のデートの時だったかな、確か……そう、君からメールが着たんだ。里田さんのアドレスを教えてくれとかなんとか、そんな内容だったね」
その日は僕も忘れない。
アラクネさんからは説教を受け、青山さんからは思いがけない事実を叩きつけられ、精神的にボロボロになった日だ。あの衝撃を思いだそうとすると、それだけで心が引きちぎれそうになるくらい、痛い。
「そのメールを見た青山が、とても寂しそうな目をしたんだ。歩いていた足をピタリと止めて、手に持つ携帯をじっと見つめながら、ね」
「どういうことですか」
「僕も聞いたよ。でも、青山は僕の声が聞こえた途端、ハッと顔を上げて、無理矢理な笑顔を見せて、「なんでもない」と言ったんだ。それが気に入らなくて、携帯をぶんどった」
「最悪ですね」
「仕方ないだろ。僕は青山に告白してオーケーを貰ったけど、なんで付き合ってくれたのか意味が分からなかったんだ。それを聞くのは格好悪いし、聞いた所で「顔が良かったから」とかだったら、悲しすぎて死んでしまうよ。でも、全く話さなかった相手をフラない理由なんてそれくらいしか思いつかないしさあ。不安で不安でしかたな――」
「話がまた逸れてますってば」
「――あぁ、すまない。えぇと、それで、メールの相手が並木君だと知って、またしてもっ、と思ったね。で、それだけならまだしも、女の子を紹介してくれって内容だったから。……僕はもう確信したよ」
「…………」
「青山霞は、並木陽太が好きなのだと。なのに付き合おうとしないのは、並木陽太は他の女子が好きだからなのだと」
それを聞いて、ぶっ倒れそうになった。全身から力が抜けて、テーブルに思い切り頭突きをぶちかましそうになる。確かに僕は、女の子の電話番号を聞いたよ。でもそれは染谷に頼まれたからであって、自分の為じゃない。青山さんが悲しい目をしたのは――分からないけど、でも、とんでもない誤解だった。
つじつまだけが違和感無く組み合わされた、限りなく正しいようでいて間違った結論。
「……と、そう思っていた。こうして現物を見るまではね」
ピクリと、その声に僕の耳が反応した。倒れそうになっていた体に、徐々に力が戻ってくる。どうやら続きがあるようだ。
「君の分かりやすい態度は、どう見ても青山霞が好きだと表していた。変だと思ったよ。それじゃ何故、二人は付き合わないのか。何故、メールを見た青山はあんな目をしたのか……それはきっと、並木君は里田さんが好きなのだと勘違いしているのではないか? そう、僕と全く同じ考えを抱いたのではないのか」
……うん?
まあその、えっと、なんだろう。
とりあえず、口を挟まずに全部聞いてみようか。
「ていうかね、携帯を奪ったとき、僕はつい聞いてしまったんだよ「本当は並木君が好きなんだろ?」と。それで青山はなんと答えたと思う?「まあ、並木には彼女みたいな女の子が既に要るし……」だよ。おいおいじゃあなんだ、僕は間男って奴なのか? 寂しさを紛らわせるだけの遊び相手でしかないのか? ふざけんなよ。僕は学校では女子から人気があって、ファンクラブが設立されるくらいの男なんだぞ。そんな僕が、遊ばれるだって?」
「あ、あの、月元先輩」
「………………でも、これが現実なんだよな」
言いたいことを吐き出して、少しだけすっきりしたのだろう。荒れた気持ちを落ち着けるようにして、オレンジジュースに口をつけた。数秒かけて中身を飲み干し、氷をガリガリと噛む。それで満足したのか、空っぽになったカップをテーブルに置いた。
「これで、僕の話は終わりだ」
言うと同時に、掴んでいたカップをぐしゃりと握りつぶした。
そして立ち上がり、高い位置から僕を見下ろした月元先輩は、負の感情をたっぷりと詰め込んだ言葉を、僕へとぶつけた。
「言いたい事は全て言った。後は、並木君が青山に告白するだけだ。それで、君の願いは叶う。楽しいラブコメの始まりだ。よかったな」
「そう上手く行きますかね」
「僕の考えが間違っていると言いたいのか?」
僕が返事に困っていると、月元先輩はあざけるように鼻で笑い
「じゃあ、キスの理由は?」
と聞いた。
「……」
「それが答えだよ」
その言葉を最後に、月元先輩は僕に背を向ける。
確かに、月元先輩は正しい。
所々変な思いこみはあったが、大筋は大体間違っていないのだと思う。告白をしてオーケーを貰って、デート中に僕からのメールが原因で悲しい目をして、それは、本当に好きだったのは僕だったからなのだと。確かに、その話だけを聞いていれば、そんな気がしてくる。だけど、僕には僕の視点がある。青山さんが僕に見せる表情は、決して恋愛のそれじゃない。
だから、どうしても納得がいかない。心がもやもやして気持ち悪い。違和感の正体というものは間違いなく存在しているのに。
まるで、青山さんが二人存在するみたいだった。僕のことが好きな青山さんと、ただの友達として認識していない青山さん。行動が、思考が、別人すぎる。僕が好きだったあの子は何処にいるんだ。そういえば、今日の青山さんはいつもよりも凄く女の子っぽかったな。妖精みたいな格好をしていたり、お化け屋敷で目を回したり、ああいう一面があること自体、僕は知らなかった。
僕は青山さんのことを知らない。クラスではそれなりに仲良くしていたから、知っているつもりだったけど、でも実際は月元先輩の方がもっともっと詳しかった。まるで、月元先輩はアラクネさんみたいだな、と思う。相手を調べて情報を集めて……まぁ、流石に携帯を奪ったのはやりすぎだと思うけど、でもまさか、僕の写真を画像にして保存していたなんて思いもしなかったな、なんて……。
そう、考えた所で、思考が止まる。
気付けば、僕は立ち上がっていた。
椅子を蹴飛ばしそうな勢いで走り、いつのまにか離れていた月元先輩の背中に叫ぶ。
「月元先輩!! 教えてほしいことが! 二つ、あります!!」




