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アラクネさんは大好きな彼を見守りたい  作者: 石橋いも
三章 並木陽太と青山霞
13/34

――①――

 今日は朝からずっと大雨が降っていた。

 目の前がほとんど見えないくらいに激しく、外を走っている僕に雨粒が容赦なく叩きつけられる。最初はビニール傘を持っていたが、激しい風に煽られ、へし折られてからは、もう捨ててしまった。

 僕は全速力で走った。さっさと家に帰りたい。

 水たまりを踏むことを気にせず、僕は走り続けた。


 そうして家に辿り着く。

 玄関に飛び込むと靴を脱ぎ捨て、すぐさま脱衣所へ向かう。そこでドライヤーを手に取り、続いてバスタオルを掴む。そして自室へと移動し、雨でぐしょぐしょになった制服を脱いだ。半裸になった僕はバスタオルを頭からかぶり、全身を拭う。

「そうだ、携帯!」

 すぐさまポケットに入りっぱなしだった携帯を掴み、タオルで拭いた。

 どうやら壊れてはいないようだ。いつも通りに動くのを確認して安心した僕は、携帯を充電器に繋ぐ。

『今……並木君は、半裸なんですよね』

「さらっと何言ってんだ、アラクネさん」

 どうやら盗聴器は水くらいでは壊れないらしい。

 脱衣所でなく自室で体を乾かす理由は、この会話が家族に聞かれる可能性があるからだ。携帯に向かって独り言を話す姿はどう見ても異常だろう。

「今日はもう外に出ないから、ゆっくり話せるね」

 僕はドライヤーのプラグをコンセントに差し込み、熱風で髪を乾かす。

『並木君からそう言ってくれるのは、本当に珍しいです』

「そう? 普段の僕って、そんなに素っ気無いかなぁ」

『デレましたか?』

「うるせ」

 濡れた制服をハンガーに引っ掛け、ドライヤーの熱風を吹き付けた。家に乾燥機なんてものは無く、こうしないと乾かない。

 なんだかんだで、こんな日常にも慣れてきた。

 アラクネさんは当然のように盗聴器で声を聞き、メールを送信してくる。それに対して不快感も無く、僕はこうして返事をする。やれ宿題しろとお節介な指示を出したり、私と話す時間を作れとワガママを言ってくることもあるが、それらを負担として捉えていない自分がいる。

 それどころかむしろ、アラクネさんに感謝する機会が増えた。

 勉強はいつも手伝ってくれるので、テストの点数が大幅に伸びた。他にも、僕が行動する度サポートをしてくれる。いつも通る道が通行止めになっていれば、前もってそのことをメールで伝えてくれるし、一度、お気に入りのバンドのライブチケットが欲しいなぁ、と言ったら、ハッキングまでして取ってくれようとした。流石に止めたが、アラクネさんは僕が頼めばなんだってするつもりなのだと分かって、その一件以降は不用意なことは言わないよう心に決めた。

 頼りすぎると、いつかアラクネさんに愛想を尽かされてしまった時に一人じゃ立てなくなってしまう。

 だからこうして暇な時は、アラクネさんの為に時間を割いてあげたいと思うようになった。一方的に好意を受け取り甘えていては、駄目男になってしまう気がした。

「そういや僕、ずっと気になってたことがあったんだ」

『気になること……ですか?』

 制服をひっくり返し、背中側に熱風を当てながら、僕は口を開く。

「うん、こういう事を聞くのはデリカシーに欠けるかもしれないけど、聞くね? どうしてアラクネさんは僕のことが好きなの?」

 僕を一方的助けてくれるのは、本当に有難く思っているし、感謝もしている。だけど、そこまでされる理由が一切分からないのだ。それを知りたいと思うのは当然だろう。

『……並木君って、言動がストレートですよね。性格に裏表は無くて、嘘を吐くのも本当に下手で……』

「馬鹿にしてる?」

『いえ、そんな並木君に救われている人だっていますからね。一緒にいると、なんだか安心します。私は、並木君のそういう所に惹かれました』

「素直な性格だからってこと? ……何か誤魔化してる気がするなぁ。そんな人は他にも大勢いるよ」

『いいえ、並木君じゃなきゃ駄目なんです』

「ふぅん……」

 話している間に、制服はそれなりに乾いていた。僕はドライヤーの電源を切り、脱衣場に戻しに行く。部屋に持ち込んだままだと他の家族が使えない。

 そうして再び部屋へ戻ると、携帯にはとんでもない内容のメールが届いていた。

『逆に聞きたいんですけど、並木君は何で青山霞を好きになったのですか?』

「うわー、なんて質問するんだ。容赦無さ過ぎるよ」

『さっきのおかえしです。並木君は答えられますか? ていうか、気になるんで答えて下さい』

「強制なのか……」

『さぁさぁ』

「うーん……まぁいいか。あんまり良い思い出じゃないんだけど、強制じゃ仕方ない」

 僕はベッドの上に腰を下ろすと、天井を見上げた。脳の奥底にて眠っていた、一年生だった頃の記憶を手繰り寄せる。

 そう、思い出してきた。始めて知り合ったのは確か、文化祭の数日後の事で――


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