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Phase27: 災厄燃ゆ -幕僚対談-

「俺には良く分からん」


顰め面をこちらに向けて、大仰に語り始める男が一人。その顔は納得がいかないという彼の感情を如実に表していて、何とも滑稽だ。


「男なんだか女なんだか良く分からねぇ顔した野郎がちやほやされるんだ? ああ言う顔を何ていうんだっけか。あーと、ホモセクシャルじゃなくて、なよっぽいというか」


「中性的か?」


「そうそれだそれ、ぴったんこかんかん」


ずびしっと音が聞えてきそうな程、鋭くこちらに人差し指を突きつける。


「そういう中性的な顔した奴がイケメンとか言われてよう、おまけに背もすらっと高い。しかも周囲には優しいと評判で、いざと言う時には颯爽と王子様然と駆けつける。で、部活は当然の様にむさ苦しい部ではなく、サッカー部に所属。勿論、部活じゃエースで大黒柱。はいはい、それ何処のエロゲの主人公って言いたくもなるぜ?」


「……お前はエロゲとやらを嗜むのか?」


「突っ込む所はそこかい! えーと、一応な、もう年齢制限の枠を脱出した訳だし、何作か楽しませてもらっているよ。意外にストーリがしっかりしたものがあって吃驚したがな」


踏破したゲームを思い出したのか、少々薄気味悪い笑みを浮べる男。そういう表情が女子生徒に敬遠される原因なのではないだろうか。指摘するのは簡単だが、こういう事は自己で解決策を探すのが吉と考える。指摘するのは止めておこう。


「エロゲ談義は置いておいて。俺が話してぇのはそこじゃない。どこぞの主人公みたいに、周りには美人女子生徒で囲まれているあの状況。お前はどう思ってるんだ? ハーレム騒動の被害を一番傍で受けている身としては」


「……どうもこうも無い。少々喧しいとは思うが」


「そいつぁ嘘ってもんだろよ。あんな可愛いかったり美人だったりな女達がよ、挙って自分の友人の傍に集まるんだ。しかも誰もが色目を使ってよ、普段見せない姿をそいつに見せてるんだぜ? 傍に居て嫌になんないのかよ? ありゃ、目に毒を通り越して、空気とか雰囲気に毒だぜ。毒よりも災厄って言った方があってっか」


「……災厄。なるほど、言い得て妙だ。毒ならばまだ避け様がある。だがしかし、災厄となれば避け様が無く、只其処にいるというだけで害を被る、という訳か」


彼らを『災厄』と自身の胸の内で揶揄した事もあったが、まさか他者からそう指摘されるとは思いもしなかった。自身と似た言葉のセンスを持っている人が居た事に嬉しさを感じる反面、目の前の『戦士ヘンタイ』と同じという事に若干戸惑いがある。

私が思考の海に揺蕩っていると、申し訳無さそうな声音で鵜飼ヘンタイが話し掛けてきた。恐らく、私が彼の言葉に気を悪くしたとでも思っているのだろう。気を使う必要の無い相手に気を使うのが何とも鵜飼らしいが、そういう良い所は彼の通常の言動で台無しになっている。


「済まない、言い過ぎた。親友の悪口なんて聞いて、気分が良い筈なんて無いもんな。申し訳無い」


「……否、気にしなくて良い。陰口を叩かれる原因は奴にもある。多少は目を瞑ろう。序でだが、私は鵜飼のそういう素直に謝罪出来る姿勢を好ましいと思う」


「そうかいそうかい。男に好かれても嬉かねぇがよ」


しかり。では鵜飼の質問に答えるとしようか。聖教諭が戻るまでの暇潰しに」


なるべく左腕を動かさない様注意し、腰の座りが良い所に座り直す。野外に敷かれているシートは座り心地が悪く、何とも落ち着かない気分に我々を誘う。鵜飼も度々腰の位置を変えていた。

今現在、私と鵜飼は救護班用テントに出向いている。無論、怪我の治療の為である。

しかし、肝心の治療を行う保健医は私達の怪我を見るや否や、テント内での装備では対処し切れないと自分の職場へと駆けて行ってしまった。応急処置を忘れて。仕方なく片手で処置をし、手持ち無沙汰の現状である。

先程まで私達を貫いていた陽光は、居座っている救護班用テントの中までは差して来ない。生徒達と観客達が醸し出す熱気と歓声だけは十分に届いていた。




唯耐えるだけが許される状況だった。

体育祭準備期間中、充てられた練習時間を目一杯費やして完成させた尖兵の動きだが、既に綻びが修復不可能の域に達していた。初戦での堅実な仕事振りは影を潜めてしまっている。

原因は明らかだ。

本来であれば、近衛役であったりゅうを前線に押し上げ、代わりに尖兵役の稲川を姫役の護衛に充てるという基本戦術。競技前に二人の役名を交替させたが、本質的な役割の変換はなかった。だがしかし、その前線の要たるりゅうが負傷退場をしてしまった。壁役の力の象徴であると共に、精神的支柱でもあった彼の抜けた穴は途方もなく大きい。

そして、それだけでも傾いてしまった勝負の行方に、拍車を掛ける人物が居る。


「持ち応えろ! チェックから味方が戻るまで穴は塞げ!」


稲川は味方を鼓舞する様、檄を飛ばす。焼け石に水だと理解してはいるが、それでも声を出し続ける。りゅうの抜けた穴を精神的な面だけでも補おうと尽力する。

だが、相手の猛攻に綻びた壁はあまりにも脆過ぎた。次々と倒され、そして我が軍の姫の下へと、稲川の下へと迫り来る。


「うぜぇうぜぇうぜぇぇぇぇ! 這い蹲れってんだっ!」


壁から漏れ出す尖兵に組み付き、跳ね飛ばし、北条寺ヒメから遠ざける。少々腕に覚えのある一般生徒程度では稲川の運動能力に対抗する事など出来ない。雑魚だけならば、姫役に護衛を付けない総攻撃フルアタックと言えど、簡単に陥落等しない。

それ故に舞台を盛り上げ、拮抗を破るのは


「先輩如きじゃ役不足なんだよっ!」


りゅうに執念を燃やす人材派遣委員会委員の古森勇気である。その恵まれたがかいを存分に生かし、稲川と正面切ってぶつかり合う。余談ではあるが、この美男同士の正面衝突に黄色い声援が倍増したり、イケナイ趣味を持つ女子生徒達の創作意欲を大いに湧かせていたりもする。

どちらも長身、且つ優れた運動能力をもちながら、されど力においては古森に分がある。だが一方で、稲川には優れた体裁きと負けられないという熱い思いがある。りゅう無き今、青を支えるのは、そして後に控える北条寺を護るのは自分しか居ないと。


「っしゃああ!」


「どけぇぇぇ!」


二度三度と衝突するも、力と技、思いが拮抗する。肉が軋む、汗が飛び散る、腐女子が恍惚とする。

決着がつくには今しばらく時間が掛かりそうだ。




「私が軽々しく言えるのはそんな所か」


「へぇ。面白そうな事になってんのな。稲川の奴、一線を引いて付き合ってるって事は、欲に駆られた猿野郎じゃなかったんか。それはそれは。現代の、理性に驚くほどブレーキ能力の無い『若者』と比べると、しっかりした貞操観念ってか、倫理観を持ってるだな。感心感心」


「お前に言われる筋合いは無い、と吼えそうだがな」


「失敬失敬。だがよ、俺は猿野郎じゃないぜ? 一応、言わせて貰うがよ」


「そうだな。お前が常日頃破廉恥な発言をしている事が、逆説的にそういう事を致していないと語っている。一々ああいう発言をする度に、微かに動揺を見せるのはどうかと思うのだが。それにだ。お前が変態と呼ばれる評価の割りに、女子生徒から本格的に嫌われていない事で信憑性は更に」


「ああっ! もうそれ以上言うなっ!」


好き勝手言いやがって、と目線を逸らせて愚痴をこぼしている。微笑ましい程、如実に照れが表情、言動に表れている。悟史以上にからかい甲斐がある男である。

自分の表情を読まれている事に気が付いたらしく、顰め面をして先程までの話の続きをしようとする。何とも微笑ましい。


「んでよっ! まぁこっから先は俺の想像なんだが。稲川ってハーレム内の娘とは所謂『付き合ってます』って関係を持っていないんだろ? という事はだ、ハーレム住人では無い子に恋愛感情持ってるって事にはならないか? だけども、あの容姿を以って、告白もしていない。とすれば、その相手と付き合うには障害があると予測が立つ。例えば、相手の子には既に相手が居るとか、片思いの相手のことを知っているとか、実は既に稲川が振られているとか。いやいや、若しかするとロミジュリ状態? すわ、同性だったり」


「男色は断じて無いと、奴の尊厳の為に証言しておく」


しかし中々に鋭い思考をしている。ここに本人が居れば、さぞや楽しい状況になっていたものだろう。日頃無意識に溜め込んでしまっているストレスも一気に解消、溜飲も下がるというモノだ。


「あー、例えば朝霧ちゃん辺りだったりしてな」


「さぁな。奴の恋事情に興味がある訳ではないからな」


「そうだわな、そうだわな。男の恋事情など、聞いてても何の足しにもならん。……そういや、聖ちゃん遅いのな。俺らの応急処置すら忘れて医務室に飛んでいったのによ。若しかして俺らって嫌われてるのか?」


未だ聖教諭は来ず。傷口がぱっくりと開いているのは、見ていても気持ちの良い物ではない。早々に来て処置してもらいたいものだ。





……今だ以って修羅場です。

息抜きの為に書き上げましたPhase27です。短いです。

もしかすると、一週間後にまたUP出来るやも知れません。その時はどうぞ宜しくお願い致します。


0083辺りの熱さを出せる物書きになりたいものです。

勝負の部分を書いている時に常々そう思います。

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