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Phase25: 災厄燃ゆ -総力戦・壱-

昼食時間を挟んだ事で、既に抑え切れていない観客の熱気が我々選手の元にも届いている。それに触発され私達の闘志も鰻登りで天井知らずに膨れ上がっている。

気力体力共に十全。

早く己の闘志を立ち塞がる敵に魅せ付けてやりたい。

目の前で円陣を組む仲間達の顔には克明にそう刻まれている。実に頼もしい。


「……北条寺。最終確認は戦場グランドでやるが、その前に此処でも大まかに説明するべきではないか」


「分かってますわ」


こちらをじろりと軽く睨み、北条寺は咳払いをする。

競技開始直前に数分の作戦会議時間が設けられているとは言え、そこでの指示は必要最低限のモノにしておきたい。直前に大量の指示を行い、行動が鈍る等本末転倒もいい所である。北条寺も理解していただろうが、一応確認と言う事で口を挟ませて貰った。


「先ず隊形ですが、特に変な事が無い限り十・一・一のスタイルを取りたいと思います。前線の並び方に拘りはありませんが、真ん中が執事さんで良いのではありませんか?」


「異存は無い。進攻は如何に?」


「そうねぇ。初戦は赤でしょう? ならば、特に策無しでもいけるわよ」


「……」


「何か脅威でもあって?」


彼女は参謀だ。それはそれは優秀な参謀である。だからこそ、私は何も進言する事無く、彼女の作戦サクなしに従う意を見せた。

但し、如何にもすんなりと事が運ぶとは思えない。

それでも、彼女から指揮を取り上げ、隊の士気を下げる訳にもいかず、


「諸君。立ち塞がる敵を蹴散らせ。それが我らの使命だ。往くぞ」


「応っ!」


隊に発破を掛け戦場へと繰り出していく。





「それでは、午後の競技を開始致します。午後最初の競技は『総力戦コンバット』です。第一回戦は青対赤。各陣営の選手はグランドへ集合して下さい」


戦場へと降り立つ両陣営の選手達。

観客のテンションはそのまま戦場の騒々しさへと直結している。飛び交う声は応援か罵倒か。鳴り物が轟轟ごうごうと鳴り響き、足踏みが囂囂ごうごうと大地を揺らす。

切り裂く様にアナウンスが入る。


「それでは、主要選手の紹介……の前にっ」


その放送委員アナウンサに横合いから急に手渡される紙。そこに書かれた内容に驚きを隠せず、声色にもその驚愕が聞いて取れる。


「選手の交代をお知らせ致します! 赤陣営『姫』役、佐貫萩に変わりまして『人材派遣委員会』委員赤坂智恵! 繰り返します。赤陣営『姫』役、佐貫萩に変わりまして『人材派遣委員会』委員赤坂智恵っ!」


驚愕、奇声、嬉声。

招集をかけられた本人は目を丸くしながら、グランドへと駆けて行く。

全てを置き去りにし、放送委員は原稿を読み進める。


「それでは、改めまして主要選手の紹介を致します。尚、其々の二つ名は放送委員会及び広報委員会認可による生徒アンケートの結果による物です。

 先ず、赤陣営から。『近衛』役、『武芸百般』『器用貧乏』拳法部部長、石堂知樹。『尖兵』役、『ミスタータックル』『変態と言う名の戦士』ラグビー部所属、鵜飼うかい翼。そして、『姫』役、『高速起動戦士小粒ちゃん』『ミニ切札』人材派遣委員会所属、赤坂智恵。以上、三名が注目選手です。

 次に、青陣営。『近衛』役、『全自動フラグゲッタ』『ハーレム野郎』若しくは『全男子の敵』サッカー部部長、稲川悟史。『姫』役、『カウンタックフルボディ』『ミス・パーフェクト』、えーこれでいいんですか? 失礼しました。稲川ハーレム所属、北条寺麗華。『尖兵』役、『突き一筋十七年』『ハーレム被害者の会会長』剣道部部長、後藤昭一郎。そして同じく『尖兵』役、『規格外ルールブレイカ』『切札』『一騎当千』人材派遣委員会委員長、やなぎ竜次たつつぐ。以上、青の注目選手です。

 それでは、三分後の銅鑼の合図で競技開始です。作戦タイム、どうぞっ!」


アナウンスに対し、観衆だけでなく、戦場へ向かう緊張を保っている選手も、その内容に一喜一憂、悲喜交々の様子を見せている。特に、二つ名を流されるに当たって、自分の扱いの酷さに嘆く選手もいた。

そして、一様に頭を傾げたのが『柳竜次』という名。誰しもが辺りを見回し、互いに確認し合い、そして暫く経った後に漸く、『柳竜次』という人物が自分達が常日頃呼び慣れている『りゅう』と同一人物だということに気が付く。

その周囲の反応に、何処か諦念を隠し切れないりゅうであった。





「そう言えば、りゅうの名前ってそんな感じだったなぁ」


早速円陣を組んだ途端に、そう呟く悟史。その呟きに首肯する反応を見せる選手。確かに己の名は呼び難い上、常の呼称が呼び易く憶え易いという点もあり、仕方が無い事であるとは思うが、誰一人として私の本名を覚えていなかったのは驚愕に値する。同時にあの『後輩』の氏名が『赤坂智恵』であった事を今更ながら思い出した。私も他人の事をとやかく言えない。


「……その話は後だ、『全男子の敵』。しかし、『姫』があの『後輩』である以上、無策で行くのはいただけないのではないか、北条寺?」


多少、悟史に毒を吐いておく。奴の苦い表情のお陰で、少しばかり気が晴れる。

北条寺は北条寺で適当な作戦が閃かず、こちらも異なる理由で苦難の表情を浮かべていた。致し方無い。私は彼女が嫌うであろう正攻法による作戦を提案する。


「北条寺、時間が無い。強引な上、正攻法なのだが私の意見を聞いて欲しい」


「ええ。このまま考え込んでも、全面衝突するだけですし、どうぞ」


そうして、地面で図を描きつつ大まかな説明を行う。全員の顔を見渡せば、一応誰もがこの作戦を理解し、其々の持つ役割を理解していると見受けられた。

途中で口を挟む事無く、最後まで私の話を聞き続けた北条寺は一言、それでお願いと言って、自分の配置場所へと去っていった。許可は出た。ならば後は執行するのみ。


「初戦から総力戦になってしまったが、各員全力を以って役割を果たして欲しい」


「応っ!」





グランドの中心で向かい合う両陣営。

一方はこの競技では一般的な十・一・一の隊形をき、他方は九・一・一・一の変則的な且つ随分と前線が密着した隊形を布いていた。前者は赤陣営、後者は青陣営であり、前線の直後で相手陣営を見据えているのはりゅうである。

赤陣営は青のタイトな陣形に応じる様に、自身の隊形も互いの距離を狭める様に移動していく。


そして、律儀に時間通り銅鑼の音が響き渡った。

即座に飛び出す両陣営の尖兵達。開始時には数十メートル在った互いの距離は瞬く間に縮まってゆく。赤陣営は警戒していたりゅうの姿が捉えられない事に幾許かの戸惑いを覚えるが、さりとて目の前の障壁を如何にかする方が先決であるとりゅうの存在を優先事項から外し、全力で疾駆する。そうして、互いの距離があと数メートルとなったその時


「MOOOOOVE!」


耳朶じだを震わす雄叫びが戦場を駆け巡り、青陣営はその雄叫びに即呼応し密集隊形の一枚板が二つに分裂する。即ち、分裂する事で垣間見えた隙間から前線へと牙を向ける獣が躍り出る。その分裂劇に対応出来ない赤之尖兵だが、己の疾駆を止められる訳が無いと駆けるスピードを落とす事無く青の壁へと突き進む。正に全面衝突。

観客席にまで響き渡る肉同士の衝突音に沸き上がる観客。選手の無事を祈る者あれば、その原始的な闘いに手に汗握り絶叫する者あり。


「うっしゃああああああ」


低空タックル一閃で青の壁を粉砕する『戦士ヘンタイ』。


「……」


面で攻める尖兵を己の爆発的な推進力で引き千切る『一騎当千』。粉砕された自陣の壁を一睨みし、目前の隊形の綻びから姫を狙いに再び疾走する。

戦況はどちらにも傾いてはいなかった。






七月は時間が取れると、そんな風に想っていた時もありました……

御免なさい御免なさい御免なさい*十(一秒間)

出来る限り、細々と更新していきたいと思います……


※夏ホラー関連

こんな調子ですが、一応着々と夏ホラーの方の準備は整っております。

予定では二作ありますが、シリーズモノ仕立てです。

好評でしたら、その後連載になるかもしれません……

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