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Phase19: 災厄燃ゆ -開幕直後-

すり鉢状の校庭の四隅に設置された各色の陣営。

同色の生徒を応援し、はたまた異色の生徒を牽制しなじり、若しくは勝利の為の作戦を練る為のその場所で、私は同色の生徒達から文字通り吊るし上げにされていた。こういう状態に陥るだろうとは予測していた為、驚愕も憤怒も無く、ただ諦観するのみ。

私に対する非難を受け止め、容赦無く加えられる暴力――女生徒達からのみ――を片手であしらいながら、事の発端である四条の発言を回想する。





宣言を終えた四条は何かを確認するかのように全生徒を見回していた。あの行為に特別な意味は無いと思うが、もしかすると生徒の興奮具合でも再確認していたのかもしれない。マイクを下げようと手を差し伸べる実行委員を手で制し、彼女はマイクを再び自分の口へと持っていった。一瞬垣間見えた微笑は何に対するものなのか。陽気に合わぬ重装備に多少気を取られ、その笑みの意味を捉え切れなかった事は失敗だった。とは言え、あの段階で気付いた所で私に出来る事等無かったに等しい。


「言い忘れておりましたが」


すっと透き通る声がスピーカを通して伝播される。気合を入れる雄叫びや関係の無いざわめきもその一言で校庭から一蹴される。日頃から生徒会長の冷徹さを教え込まれている生徒達はまだしも、教師陣や直接の接点の無いだろう観覧者達までもが押し黙ってしまう。彼女の声には、動物本能に訴えかける強制力でもあるのだろうか。

沈黙が支配するこの場に満足したのだろう、四条は言葉を続ける。


「今回の体育祭では、新たなルールを加えたいと思います」


ざわめきが舞い戻る。

各色の参謀役が慌てふためくか、頭を抱える様子が私の方からも確認出来た。青の参謀役である北条寺と玉城も同様なリアクションを取っていた。前者は優雅に、後者は大きなジャスチャでという差異はあったが。


「皆様。ご承知だとは思いますが、聖上高校には他の高校には無い独自の委員会が存在します。風紀実行委員、防衛委員等がそれに当たります。中でも、最も特殊と自負しているのが人材派遣委員です。彼らの、我が高への貢献は言うまでも無い事だと思います」


ちらと、私の方に目を向ける四条。

ご丁寧にも、青の団長がその委員長です、という要らぬ説明まで付け加えて話は進む。


「彼らは二代前の生徒会長であります、四条初音が設立した当初から数々の運動部に助力をしてきました。その類稀な運動能力と汎用性は紛れも無く、超高校級だと私は信じております。

ですが、その貢献した彼らの実力を目の当たりにした生徒はどれだけ居るのでしょうか。又、今日ここにいらっしゃったご父兄の皆様、観客の皆様の中には、彼らの実力に疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、私は考えました。皆様に彼らの実力を知って貰える良い方法は無いかと」


大きなお世話だ。そもそも私の場合は強制的に組み込まれただけなのだ。

積極的に助力をするつもりは無かった上に、特に自分の能力をひけらかしたい等という、顕示欲も持っていない。個人的な意見ではあるが、今からでも新たに付け加えるルールを破棄して欲しい。同時に、この背中が痒くなるような四条の演説も止めて欲しい。


「そこで、今体育祭では新たに一つルールを付け加えたいと思います。それは」


勿体を付けて四条は言葉を切る。否が応にも、その新ルールに対する期待が高まる。

ざわめきも一切聞こえず、唾を飲む音すらも聞えそうな程の静寂。


「特定の得点と引換に、人材派遣委員を代わりに出場させる事を認めます」


反応は三種類。ルールを把握出来ていない者と、歓喜の奇声を上げる者、そしてピシリという擬音が適当な硬直する者。嗚呼、一つ忘れていた。私の様に諦めの表情を浮かべる者が数人。どれも人材派遣委員の者だ。


「つまり」


あからさまな笑みを私に向ける。


「どうしても勝ちたい場合や接戦の時に彼らを切り札として使える訳です。指名が被った場合には犠牲にする点数に、さらに上乗せとして点数を支払って貰い、その上乗せ量を多くした方に指名の委員を出場させます。又、勿論指名された委員が連戦している場合や救護の方からストップが掛かった場合には出場は認めさせませんので、ご注意下さい」


人材派遣委員を擁している青と白の組員は頭を抱えたり不満を漏らす一方、他の二色は歓喜の声をあげていた。若しも四条率いる白が我ら委員会の人員を擁していなかったのならば、横暴だとの声が聞えたかもしれないが、生憎と彼女は白の大将である。委員会のメンバを二人擁しているのだ。ちなみに我が人材派遣委員は私を含めて三人しか在籍していない。


「ちなみに」


貼り付けた笑みを未だにこちらに向けて


「彼らにも委員会の名誉プライドがある事と思います。ですから、態と自分の色が勝つ様に仕向けるといった姑息な手段は使いませんでしょうし、使用した段階で即委員会からの退会という処分が待ち受けていますので、あしからず」


不正の芽をしっかりと摘み取っていた。

とは言え、頼まれた仕事を自身の都合の為に、投げ出す等という事を私がする訳が無く、又後輩達もする筈が無いと私は確信している。そういう事にはシビアにならなければならない。


「では、第一種目に向けて各員用意をお願いします」


言いたい事は全て言い終えたとばかりに、マイクを他人に預け、颯爽と白の陣地へと去っていく四条。突然のルール変更に生徒達が混乱しているのを全く気にせず、堂々と歩いていく。あれが四条家のスタイルなのだろうか、と頭の片隅で現実逃避をしていた。





「りゅう君! どういう事かな、さっきの話は!」


「執事さん! さぁ、キリキリ白状して貰いましょうか」


「ひつじ……話す」


「会長が独自に決定された事だ。私にも分からない」


青の陣営に到着するなり、私は質問攻め、あるいは吊るし上げにあう羽目になる。声を荒げて質問攻めにはしないものの、玉城や後藤はドサクサに紛れて私を棒状の何かで小突き回してくれた。後で倍返しにしておく事を胸に刻んでおく。


「嘘言わないっ! ボクだってりゅう君と付き合い長いんだ! こうなる事が分かってたから、少しも驚いたりしないで諦めた表情してたんだっ!」


鋭い。そして、私の表情が読まれていた事に驚きを隠せない。

精進が足りないという事だろう。喝。


「確かに事前に会長からお達しはあった。だから、だ」


「なら、早く教えてくれても」


「会長命令だ」


「……」


黙る朝霧。四条の生徒会長面しか見ていない人達の評価は間違い無く冷酷冷徹冷血の『冷やし系』人間であり、当然朝霧もそういう風に四条を捉えているのであるから、彼女の命令が絶対的なものである事は承知しているだろう。

追及役を担っていた朝霧が黙った事で私に対する非難は収まり、継いで参謀役の北条寺が空気を切り替える様に口を開いた。


「そういう事ならば仕方ありませんわ。これで私達に『執事さん』というアドバンテージが無くなったのは変わり様の無い事実。また作戦を練らなければなりませんわね。玉城さん!」


「はいっす」


「新ルールを踏まえた上での作戦を考えるわよ」


「了解っす」


陣営の奥へと向う二人。

二人の軽快な遣り取りの後、盛り上げ役の後藤が馬鹿な演説を行い、それを朝霧に突っ込ませる夫婦漫才を切欠に、青の陣営は盛り上がりを見せた。





第一種目が用意出来る迄の僅かな時間。

私は重苦しい装備を外す為、一人教室へと戻ってきている。窓から校庭を眺めれば、一週間前の静寂が嘘のようなドンチャカ騒ぎ振りが見て取れる。このドンチャカ振りに太陽も自身を前面に押し出しているかのよう。

私が教室に来ているのを知って、計ったかの様に鳴る携帯電話からの呼び出し。画面に表示される名前を見て、文字通り計って連絡を寄越したのだろうと判断。二、三分かり切った遣り取りを行い、電話を切る。

重装備は思いの外、私の体に疲労を与えたらしい。筋肉に感じる疲労感をストレッチで除いておき、用意しておいたTシャツとハーフパンツに着替える。これで何時でも出場可能な状態へとなった訳だ。


「さてと」


誰も聞いていないが、聞いていないからこそ、自身への発破がけに声を出す。


「獅子奮迅に一網打尽と参りますか」





のべ読者数が15000人を突破した模様です。

今迄読まれてきた方々、そして感想を下さった方々、本当に有難う御座います。

きっかりラストまで持っていく予定ですので、今後とも宜しくお願い致します。

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