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Phase14: 災厄北へ -last day 後-

男達が己の成功を確信した時、

そして麗華達が己の窮地を益々感じた時、

それは起こった。


「「「「「はぁっ!?」」」」」


ヴァンに近付いた男は、勢い良く開かれたドアに吹き飛ばされる。

この場に居合わせた者全員に浮かんだであろう疑問は、ヴァンから降り、吹き飛んだ男を踏み潰した人物の登場によって、綺麗に忘れ去られる事になる。

そう、ヴァンから降りて来たのは他ならぬ人材派遣委員会委員長だった。





「執事!」


「執事さん!」


「ひつじ……」


ヴァンに近付いた男を吹き飛ばし、倒れた所を踏み潰し、行動を封じておく。一連の動きを終えた私に待っていたのは、ハーレム住人からの熱烈な歓迎ではなく、歓迎したくない呼称による歓迎であった。内一人はその呼称すら言えずにいる。

己の推定よりも事態の進行は、大分良好だと思って良い様だ。誰一人欠ける事無く、悟史以外の怪我人も居ない。後はこの三人を安全な所まで送り届ければ、当面の危機は回避されたと言っても良い。しかし、救出役が私一人である以上、『安全に送り届ける』のは男連中の排除と同時並行には行くまい。ならば


「さっさと後の道を走って行け。突き当りを左に行けば、外人墓地だ。悟史が居る。く行け」


「貴方はどうするのよ?」


「そこのお客様を持て成さなければならないだろう?」


「麗華」


話をしている最中に近寄ってきた男達を避ける様に、北条寺と多村由宇を引っ張る榊由紀。現状を理解し、迅速に行動出来る彼女の様な人物は非常に有難い。そのまま、榊が二人を路地へと引っ張って行くのを確認し、私は一つ胸を撫で下ろしたい気分になった。

だが、まだ全てが済んだ訳ではない。私がここで彼らを抑えなければ、安心して学園に帰れそうも無い。


「さて……少し話でもしませんか、沢田組の皆さん」


「貴様っ! 何故それをっ!」


「熱くなるな、馬鹿野郎。小僧ガキ、貴様如何して我らが沢田組だと知っている?」


騒ぐ男と冷静に応える男。その態度、風体からも後者の男の方が役職が上である事をうかがわせる。話に乗ってくれるとは思いもしなかったが。


「そう素直に答えるとも?」


「兄貴! コイツさっさと潰して、あのアマを連れてきましょうよっ!」


「黙れっ、馬鹿野郎! この小僧がわしらの車から出てきた時点で、こっちの損害の方がでかい事は分かってるんだ。それぐらい自分の頭で考えろっ!」


「え、いや、良く分からないんですが……」


「引き際は肝心だ、小悪党」


「て、手前ぇ」


『兄貴』と呼ばれた男は自分達の状況が良く見えているようだ。私が運搬用ヴァンから登場した時点で、運搬役が舞台から脱落している事、又最悪ケースを考慮するならば、ヴァンの車種やナンバ、下手をすれば運搬役までもが官憲の手の内に入っている事になる。被害をなるべく最小に留めて置く為には、この場合一も二も無く証拠を隠蔽して逃亡しなければならない。

ただ逃亡する際に、後顧の憂いを断つ、否今後の展開に備える為にも出来る事はある。それは如何にして相手が自分達の手を読んできたのか、そして相手が一体何処の筋の者なのかという事の確認である。『兄貴』の問はそういう考えが発露したものだと考える。


「悪いが教える事は出来ない。企業秘密故」


「ガキの癖にっ」


「……そうだな。多少強引にでも聞かなければ、我々の気も晴れない」


「兄貴っ!」


「ああ。さっきの小僧と同じく潰れてもらおう」


その言葉に、私の何処かで歓喜の叫びが上がった。

今度の相手は少しは愉しめそうだ、と。


「私も嬉しいよ。何せ」


コキリ、と指が鳴る。筋肉が、骨が稼動する事を心待ちにしている。


「友人が潰されて、オレの気も晴れていないのだから」





目の前の光景は非常に目の毒だ。何せ美男美女が抱き付き合っているのだから。

その光景を遠巻きに眺めながら、写真にしたら一枚何円で売れるかな、と割合真剣に思案する玉城。同時にそろそろ自分の目の前でイチャイチャするのは止めて欲しいのも事実ではあった。


「確かに我が身をていして身の安全を守ったのは事実っすけど、それは稲川君だけじゃなくてりゅう君だってそうっすよねぇ。かと言って、りゅう君に抱き付かれても、それはそれで面白くないっす……」


「玉城さん、何か言った?」


「否何でもないっすよ、稲川君。っとあれ、電話?」


慌しくポケットの中で震える携帯電話。

その慌しさに急かされる様に玉城は電話に応対する。


「はいさ、玉ちゃんっす」


『その呼称は本気で広めたいのか? ならば一役買うが』


「いやいやいや、冗談っすよ! って、りゅう君! 終わったんすか、こんな短時間で?」


『ああ。無事完了した。そちらはどうだ?』


「まぁ、何というっすかねぇ。こちらとしては目に毒というか、居心地が悪い空気が流れてるっす。皆無事な事は間違いないっす」


ふっ、と息の漏れる音がする。珍しくりゅうが微笑を漏らしたのだろう。


『それは安心した。そちらは任せた、風紀実行委員』


「は、はい」


切られる会話。

既に通信の途絶えた携帯電話を見て、りゅうの身の安全を尋ねていなかった事を思い出す。無機質な携帯を眺めても、それは応えてくれる事は無かった。




三人目との通信を終え、ほっと気を緩める。

全ての後処理も目処が立ち、無事に学校へと帰還出来る事は保障された。目の前に倒れ伏す沢田組組員達が官憲に引き渡されれば、私の任務も一段落となる。

保険として服に仕込んでおいた紐を取り出し、上腕部を縛る。『兄貴』と呼ばれていた男が使用したナイフが上腕に比較的深く刺さってしまい、先程からかなりの出血が確認出来た。とは言え、他の部位には特に目立った損傷も無く、この程度の裂傷で済んだのは幸運だろう。

遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた。これにて一件落着としよう。





後日談。

治療の為に当日はホテルに帰還することが儘ならず、結局ホテルに着いたのは生徒がホテルを出発する時間ギリギリになってしまった。しかも間の悪い事に誰かが私の行動を『悪漢からハーレムを救出した』等という英雄譚に仕立て上げてしまったせいで、ホテルに到着するや否や、熱烈な――特に男達からの――歓迎を受けてしまった。


「おめぇーーーーすげぇよーーー! 格好良過ぎるよっ!」


「……否、偶々だ」


「準竜師! 一生付いていきますっ!」


「それは止めてくれ」


「いえっ! 拒否されようと何としてもっ!」


「……好きにしろ」


「しーーーーしょーーーー! 水臭いですよっ! 何であの時言ってくれなかったんですか!」


「あの時は時間が無かった。説明しなかった点については謝る」


「抱いて! 抱いてくれ!」


「人生考え直せ」


と、玄関前はカオス状態になっていた。

その熱気は学校に帰る空の旅でも冷め切らず、遂には解散の時まで騒がしかったのには閉口した。最後の最後まで、一部の男達からの『抱いて』コールが冷め切らなかったので、一応粛清もしておいたが。



やっと解放され、修学旅行の終わりを痛感した頃には既に日は暮れていた。このまま帰宅してしまう前に、私は報告の為に生徒会長室を訪ねた。本質は真面目な生徒会長である四条。解散の時にも姿が見えなかった辺り、既に生徒会長室に引き篭もっていたのだろう。軽くノックし返事があったのを確かめ、私は中に入った。

そして、いきなり抱き付かれた。


「四条。私も旅行で疲れているんだ。早々に帰宅したい。早く報告を終わらせたいのだが」


「……」


「四条。悪いが」


「……聞いてなかった」


「何をだ」


「……電話で怪我の事」


「特に報告する事もなかろう? 北条寺が怪我したならともか」


「心配したんだからっ!」


上げた顔は酷い泣き顔だった。心無し、抱き付いている腕の力も上がっている。

私は非常に驚いていた。今迄任務を伝える時も、任務の成果を伝えられる時も、四条はその時だけは生徒会長の仮面をしっかりと身に着け、そして内容にのみ集中を注いでいた。そう、私がどれだけ苦労しようと、そんな事にはお構い無しだった四条が、任務の内容とは関係の無い私の身を案ずるとは。


「生徒会長。私は無事ですので、報告を先に済ませたいのですが」


「そういう事を聞きたいんじゃない! どうして私にあの時言ってくれなかったのっ!」


「……OK。どうやら今日は報告出来る様な状態じゃないな。後日、報告する」


「りゅうちゃん!」


四条を引き剥がし、生徒会長室を後にする。後から色々と声が突き刺さってきたが、振り返る気力も無く私は一目散に家を目指した。



騒がしい修学旅行だった。

ただ、私は思う。

皆が無事であって良かった、と。






……orz

予告通りに投稿する事が出来ませんでした。すみません。

途中の演出をどうしようか、困った結果の遅延でした……お察し下さい……

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