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Phase11: 災厄北へ -Interlude 2-

網走監獄には現役の囚人がいた。

『俺達は悪魔の囁くままに行動したまでだ! 決して本心から見たかった訳では……いや、見たかったと言う事は否定しない! だって、女子高生とか好きだからー!』やら『据えZEN食わなきゃ漢の恥じゃないかYO!』やら『覗きの素晴らしさがお前らには分からんのか! 何時だってそうだ! 偉い人には分からんのですよっ!』等々、作戦に対する反省等微塵も感じさせない、一種清々しいまでの怨嗟が個人用監房の中から聞こえている。

その監房の前を行ったり来たりする『前鬼』『後鬼』の姿が勇ましい。警棒を片手に構え、それを片手で叩きながら歩く姿はアポカリプスの敏腕看守のようだ。彼らは時折、騒がしくなる囚人のドアを警棒で叩きながら


「小便はすませたか?」


「神様にお祈りは?」


「「部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」」


と死神の如く脅しまわっている。既に高校生レベルの脅し方では無い気がする。


「お、りゅう委員長。お疲れ様です」


「なんや、兄さんも来とったんかいな。せや、兄さんも一緒にこいつらの罰則に参加するかい? 中々、看守って仕事おもろいでぇ。病み付きになりそうやわ」


「素敵ですね」


「素敵やわ」


丁寧な口調の源と似非関西弁な平。何処と無く、彼らの態度から私に対して一目置いている様に見受けられる。最近殊更に思うが、周囲が私の事を酷く勘違いしているのではないかと思うのだけれども、どうなのだろう。


「源、平も程々にな」


「そんなん、百も承知ですがな」


「そうですよ」


同意はしているものの、その傍らで棒を思い切りドアに叩き付けている姿には説得力の欠片も無い。


「りゅう委員長。少しお話したい事があるのですが、宜しいですか」


「……構わない」


「では、あちらに。平、後は頼んだ」


「頼まれたわ」


警棒を平に渡した源は、私を監房棟の外へと連れ出した。棟の外は清々しい青空に包まれ、内とのギャップが大きすぎる。正に天国と地獄の光景と言える。

周りに人が居ない事を確認し、源が語り始めた。


「まず。昨日の大捕物にご協力頂き、我が防衛委員としても、平ら風紀委員としても貴方には非常に感謝しております。風紀の玉城たまきに貴方が計画書を見せてくれなかったら、女湯の平和は齎されなかったでしょう」


「玉城にも言ったが、私は何も感謝されるような事はしていない。寧ろ、計画に加担していた側に肩を入れていたといっていいだろう。批判こそされ、感謝される覚えは無いが」


あの御菓子女たまきと言い、源と言い、私の事をバイアスを掛けて過大評価していると思う。偶々、我がクラスメートな覗き連中が私に相談を持ちかけ、偶々私の隣に玉城が居たという偶然の重なりにしか過ぎないと言うのに。


「まぁ、貴方がそういうのならそういう事にしておきましょう。ですが後日、玉城の方から何か御礼が贈られるかもしれませんが、それは黙って受け取って下さい」


これも昨日玉城から謂われた通り。

幾ら私が冷徹といわれようが、感謝の意を真正面から反故に出来る人間ではない。仕方無しに


「無下には出来ない。了解した」


と応えておく。

私の答えに満足したのだろう、源は二三度大きく頭を縦に揺らした。だが、すぐさま真剣な面持ちを私に向け、次の話ですが、と話題を転換した。果たして、何の話題であろうか、と記憶の中をさらっと確認したが該当する記憶は見当たらない。


「貴方には関係の薄い話で申し訳ないのですが、多少お付き合い下さい。私は主に『防衛』を担当しております故、『攻撃』の方法も良く知らなければならないのですが、恥ずかしながらそちらの方は素人同様でして、頭が上手く廻らないのです」


「己を知り、敵を知らば、百戦危うからず……か」


「正にその通りなんです。ですから、攻めのエキスパートであろう貴方に少し教えて頂きたい事があるんですけど」


「否。攻撃専門家なら平がいるだろう?」


「専門家の机上の攻め方が甘かったからこそ、貴方の協力が切り札になったんですよ。平の読みでは決してあのルートを使う事無く、外部経由のルートを第一に考えておりました。ですが、貴方の作戦はその上を行っている。つまり、こちらの専門家よりも貴方の方が一枚以上上だという事になります」


随分と買い被られている。あまり持ち上げられると、背中が無性に痒くなるので止めてほしい。


「偶然、視点が異なっただけだろう。それに私は守備が得意な人間なんだが」


「それなら猶の事、守備側の人間として話を聞いて貰いたいのですが」


「……続きを」


ここで謙遜合戦をしても一向に話が進まないので、話の舵をこちらで取る事にする。

あまり込み入った話が聞きたくないというのもあるが、まだ網走監獄を総べて見ていないので、早々に退散したいというのが本音でもある。


「昨夜、会長が何者かに襲われました」


流石に心拍数が上がる。今の心境を漫画にして見れば、心臓が飛出てしまっているリアクションが相応しい。若しくは、眼球も共に飛び出さんばかりの反応でも可だ。

生徒会長を神の子と神託者と崇め奉り、我が命は生徒会長共にあると公言してはばからない生徒会長シンパの源の事だ。若し私が犯人だと明らかになった場合には、全力を以って私を排除しにかかることだろう。勿論、同シンパである平も同時に相手しなければならないだろうし、数十人単位で存在されると噂される信者全員とも対峙する羽目になる。それは絶対に回避しなければならない事態だ。

しかし、と私は考える。何の為に源は私を人気の無い日陰に連れ込み、私に何の話を聞こうというのだろうか。それとも、話を聞くのではなく、私が犯人と疑ってかかり、自白なり自供なりを引き出そうとしているのだろうか。正直な所、疑心暗鬼がラインダンス状態である。


「……襲撃されたとは聞いていない。ただ非常に奇特な格好で発見されたと耳にしたが」


牽制して様子を探る。

まるで将棋の対局の様な雰囲気だ。


「奇特……ですか。私は聖女と見間違う気高き姿、ギリシャ彫刻に匹敵せんばかりの美しき格好をなされていたと報告を受けました。確かに平凡凡庸たる私達から見たら、その美しさは『奇』であり、また特別視されるものでしょう。そういう意味で奇特というのは的を射ていますね」


抱腹絶倒だ。

私独りだけであったら、顔は歪み、腹筋は攣り、芋虫の様に地面を転がっていただろう。

シーツの連結がギリシャ調の服装だと?

グルグルに巻かれた姿が聖女でギリシャ彫刻だと?

木乃伊状になった四条を、あまりにも伝聞とかけ離れた姿を脳裡に浮かべる。

ギャグも大概にして欲しい。私を笑い死させるつもりなのか。


「……くっくっく」


「む? どうかされましたか」


「否、気にせずに。では、何故源は生徒会長が襲われたと訝しがっているのだ?」


漏れた笑いを慌ててフォロゥする。未だ感づかれてはいない。


「知っての通り、生徒会長は謙虚な方です」


褒めちぎる源。

私の腹筋を壊す事が目的なのだろうか。震えを堪えている為、腹部に痛みが走ってきている。

あの御嬢様の何処を以って、謙虚と評するのか。上の姉二人と比較すれば、確かに謙虚かもしれないが。しかし、四条の本質を知らない人間からしてみれば、謙虚という見方も不可能ではないか。


「恐らく、我々の警備に不備があり、その隙をつかれて生徒会長は襲われたんでしょう。そう、我々の責任です。しかし、しかしです。生徒会長は少しもその事に触れはせず、襲われたとも仰らなかった。我々の失態を無かった事にして下さったんです。並みの生徒会長ならば、たかが学校の役職とは言え、地位が高い会長が襲われたんだ、我々を頭ごなしに怒鳴りつけても不思議は無いでしょう。ですが、あの方は違う。怒鳴ることなく、我々の身の安全を一番に考えてくれたのです!」


悪いが全くの見当違いだろう。

見当違いを指摘するのは一先ず置いておいて、四条が『襲われた』と言っていない事が気にかかる。教師に発見された当初は、私に『やられた』と言っていた様だが。


「……私に襲われたと言っていた気がするのだが」


「ええ、あれこそ我々を庇っての言だと思います。身内の貴方に襲われたのであれば、我々警備のものに非はありません。それに、貴方が生徒会長に対して牙をむくとは誰も思いませんよ。だからこそ、今回の襲撃は何も無かった、只の生徒会長の妄言で終わる事になるでしょう。そう、生徒会長は一身に犠牲を引き受けてくれたのです!」


源が生徒会長崇拝モードにクラスチェンジしてしまった。

このまま放置していると、『現世のイエス』だとも騒ぎかねない。そういう括りだと、私はジューダスになるのだろうか。誰にも銀貨は貰っていないが。


「話が逸脱してる。本題に入れ」


「正に現世の……って、すみません。以上の様に考えて、誰かに生徒会長が襲われたのは疑いようも無く、そしてそれは修学旅行期間内、ずーっと危険が付き纏うということにもなります。ですので、貴方には是非とも警備の強化の為に、警備ルートの強化策を練って頂きたいのです。お願いできませんか」


なるほど、そういう風に話が繋がる訳か。

何より、私が微塵も疑われていないのは僥倖だ。ここは一も二も無く、協力を惜しまない事を強調しておいた。私が極秘裏に頼まれている仕事にも、警備強化は明らかにプラスになる。ここで拒否する理由は無い。


「ところで、源。警備強化に最良の策があるのだが」


「何でしょう? 是非とも聞きたいのですが」


「お前が生徒会長と同室にいれば良い」


「ななななななー! 生徒会長と同室ーーー! む、むはーーーー!」


源が壊れた。放置しておこう。





網走監獄の観光を終え、私達は阿寒湖を経由し、釧路へと南下して行った。二日目は釧路のホテルで夜を迎える事になっていた。源と平と共に警備ルートの強化を検討し、彼らの部屋で仮眠を取る。敢えて、四条の元に行く必要は無いと判断。お陰で、警備のシフトに入れられてしまったが、無事に夜を過ごせたのは幸いである。

その後、一日釧路で観光した翌日には、札幌へと空路で渡る。余談だが、稲川ハーレムのベタベタ振りが地方TV局のアンテナに引っ掛かり、『ハーレムの実態』として地方のお茶の間を楽しませた。札幌で悟史一味を見掛けたが、心なしか悟史の頬がこけている様に見えた。


そして、何事も無く、最終日・函館へと我々は移動する。

晴天続きの空に、厚い鉛色の雲が覆い被ろうとしていた。





Interludeの章終了。

舞台は函館へと移ります。


ところで、皆様ネタは幾つ分かったでしょうか。

少々マイナですから、分からないかもしれませんが……

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