16
七月も後半になり、夏休みが近づいてきた。
四人の勇者は、異世界で連戦連勝で、魔族を倒しまくっているらしい。安部がいうには、
「とにかく、ご飯が美味しい。これが効く。丸焼きにした巨牛の肉を食べた時の味は、生涯、忘れないだろう。切り口から肉汁が滴り落ちて、旨味が口の中にじわっと広がるんだ。軽く焦げついた皮が香ばしい匂いを出して、まさに絶品といえた。あれを食さないで人生を終えるのは惜しい」
とのことだ。食べ物の話から始まるほど、異世界の牛の肉が美味しかったにちがいないが、おれはその巨牛を食べることはできない。話を聞くだけでも、よだれが出てきて、美味そうだ。
「魔族との戦いは、もうかなり慣れてきたよ。楽勝で勝てそうな気がする。ぼくたちは、鍛錬をしすぎたようだ。強くなりすぎてしまったんだ」
余裕の表情の四人の勇者だ。
そこまで勝ちつづけているのなら、逆に六人の魔族は、苦しんでいるだろうと、おれは思った。
脇役のおれにはめったに見ることのできない直接対決の場面があった。
放課の時間に、四人の勇者と六人の魔族がにらみあっていた。
魔族の魔宮はいった。
「金も女もくれてやる。それで世界を救ってみせろ」
おれははらはらとした気分でなりいきを見守っていたのだけど、四人の勇者は、堅く武器を握りしめて立っていただけだった。金も女ももらい受け、それで世界を救ってみせるつもりなのだろう。
六人の魔族は、以後、学校を欠席するようになった。
脇役のおれには、まったく状況がわからないのだけれど、どうやら、四人の勇者の最終決戦が近いらしい。四人の勇者は、もうすぐ魔王と戦おうとしているのだ。
おれは、ただ噂話を聞くだけしかできなかった。
安部とつぐみは、魔王を倒したら、付き合うらしい。死亡フラグでなければよいが、とおれは思った。