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おれは、次は五人の魔女っ娘に話しかけた。
「きみたちは、毎夜、毎夜、天才科学者と戦っているんだろう?」
「うわっ、それ、すっごい秘密なのよ。絶対に内緒にしておいてね」
リリナがいう。
「それで、きみたちはなぜ争っているんだ?」
「それは、魔法少女の秘密よ」
「実は、特に理由はないんだろう?」
「それは、魔法少女であるがゆえに」
えへん。おれはひとつ大きく咳をした。
「毎日、特に理由もなく戦いつづけ、傷ついているんだろう?」
「わたしたちは、世界を守っているのよ。世界のために。あ、ごめん、これ以上は秘密」
わかっているのだ。この五人娘に戦う理由がたいしてないことは。
なんだか、この五人は、青春しているなあ。
「で、どの天才科学者がいちばん好みなんだい?」
おれが質問を持ちかけると、五人の魔女っ娘は、教科書を丸めてぎりぎりした。
「わたしは、小林がいちばん許せないわね。徹底的に痛めつけて、土下座して謝らせるわ」
ふむ。
それから、同級生の湯川、朝永、江崎、小林、益川に対して、語るのも無残な罵倒がとびかったのである。
「天才科学者たちはどんなやつらなのかな?」
とおれが聞くと、
「ドエロ」
「セクハラ」
「変態」
「萌え豚」
「露出狂」
との回答があったのである。五人の男子同級生は、かなり、破廉恥にがんばっているようだ。
「天才科学者が地球の平和を乱す可能性はどのくらいある?」
「それはゼロに等しいわね。わたしたちがいる限り、悪が栄えることはないのよ」
かなり、見通しは明るそうである。
おれは、その日は熟睡できた。
そして、次の日は、五人の天才科学者を訪れた。
「きみたちは、毎夜、五人の魔女っ娘と戦っているんだろう?」
「わははははは、いかにも、その通りじゃあ」
天才科学者は異常に陽気だった。手に持った道具で、あちこち暴れている。これが天才というものだろうか。
「いったい、きみたちはなぜ魔女っ娘と戦っているんだ?」
おれが聞くと、五人が大笑いした。
「わははははは、天才に生まれたからには、魔女っ娘と戦わないわけにはいかないだろう」
「はたしてそうだろうか」
「天才は魔女っ娘と戦う宿命なのじゃよ」
わははははは、と天才科学者たちは笑う。
特に、おれが考察することはない。
「天才に生まれたからには、天才として、天才にふさわしい高校生活をするべきだろう」
それがはたして、魔女っ娘と戦うことであろうか。
「おっぱい、おっぱい、おっぱいいい」
ああ、やはり、破廉恥にがんばっているようである。
「とにかく、未来の計画はたっぷり詰まっているのだ。あんなことや、こんなことも、そんなことや、やっぱり、あんなことも、極めつけにあんなことをしてやるために」
これ以上、聞かない方がいいだろう。
これが天才科学者の現状と未来の展望である。
天才科学者が、地球の未来を脅かすことは、五人の魔女っ娘ががんばっているかぎり大丈夫だろう。わかっているのだ、この五人の天才科学者に特に戦う理由がないことは。
おれはその日も熟睡した。