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 おれは、安部と異世界の政治経済について語り合った。

 政治経済などというあまりなじみのない話題に、安部は戸惑っているようだった。

「つまり、村人の敵を倒す。それがぼくたちの仕事なわけだよ」

 安部はいう。それはわかっている。わかっているが、それだけで思考停止してしまうのは、なんか、釈然としない。

「きみたちは強い。信念もあり、体だけでなく心も強い。きっと、異世界の人たちを救う救世主となるだろう。だが、その後、どうなる。おれはそれを聞いているのだ」

 安部は真剣に考え込んだ。

「ぼくはあまり頭がよくない。難しい話は、安藤のが得意だろう。だけど、戦うと決めたら、敵は倒す。それがぼくらの使命なのだから」

「ただ、倒すだけでなく、何か、お互いに手を結ぶ策はないだろうか」

「ぼくらを迷わせないでくれ」

 安部はきつい声を出した。

「戦場では、一瞬の迷いが死を招く。敵に情けをかけていては、その隙を突かれて、おれたちはやられてしまう」

「人類が正義とは限らないではないか」

 おれがそれを口にすると、安部は鋭い視線でにらみながら、はっきりと答えた。

「正義とは、決断力だよ」

 むう。おれに決断力はないが。

 人類が勝つと決断して戦うことが、正義だというわけか。それが安部の考えか。

「魔族は、滅びたがっているらしい」

「魔族と共に、世界を道連れにして滅びろというのか。そんなのは無理だ。死こそ美だ、滅びこそ真実だ、とわめく破滅主義者に世界の命運を任せることはできない。あの世界を救う。そして、繁栄させる。人々も、獣たちも幸せになるだろう。魔族は、敵だ! 付き合っていては、足を引っ張られるばかりだ。魔族は、狂っているんだ」

 おれは悩む。

「きみたち四人の勇者が異世界を救ったら、この学級の六人の魔族は高校を中退してしまう。それを避ける手はないだろうか」

「滅びたがっているやつらをどうすれば、満足させたまま存続できるんだ? そんなの不可能だよ。魔族は、あいつらの望むように滅びればいいんだ」

 策はなしか。六人の魔族は、倒される運命なんだろうか。

 何か、考えなければ。

 世界は滅びたがっている。

 おれも死にたがっている。

 四人の勇者も死にたがっている。

 魔族も死にたがっている。

 これを満たして、世界とおれと四人の勇者と魔族を生かすにはどうしたらいい。

 悩むおれの心を読んだのか、つぐみが発言した。

「魔族を滅ぼしつづけることはできるよ。何百年の時間をかけて、ゆっくりと殺すことはできる。魔族がゆっくりと死にながら生きることが、わたしたちとの共存だというのなら、そうすることはできる」

 それで魔族は満足するだろうか。おれは悩みながらも、

「できれば、魔族を滅ぼすのではなく、ゆっくり何百年かけて殺す方法で倒してくれないか」

 と頼んだ。

 四人の勇者は、悩んでいた。

 おれは、何をしているんだろう。脇役のくせに。世界を救えなかった時に責任をとることもできない脇役のくせに、図々しくも意見を押し付けている。おれは最低なやつなんじゃないだろうか。

 と悩んで、また家で悶々としていた。


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