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失くした闇

作者: qmmkruz
掲載日:2026/06/15

短い現代ホラーです。気軽にどうぞ。


<序章>夜と闇


様々な事情から、使用電力量に気を遣うようになった昨今。

それでも都市部の夜は明るい。

都市部の闇--暗部の意味ではない方の--は文字通り、見る影もない。


ヒトが恐れた闇、それはもうレッドデータブックに掲載してもおかしくない数なのかもしれない。



<1章>闇の覇権


とある公園、行政の死角にあったその公園には、闇が未だに残っていた。


26時。さかいは薄く、そして曖昧になる。

かつては「草木も眠る」などと言わしめられ、恐れられた時刻。

そんな闇の中に、二つの影。


「話がある」


「どーした。ようやく俺様に明け渡す気になったか、ええ?」


「そのことだが、私とお前で勝負をして、勝った方がこの闇に棲む。

 それでどうだ?」


どうやら二体の影は、この公園の覇権を、いや闇の覇権を争っている様だ。

くどい様だが、闇とは暗部の意味ではない方の、だ。


「で、勝利の条件は?」


「…バズりだ」


一瞬の沈黙。


「あ?」


「バズりだ。知らんのか?

 SNSや動画サイトのアレ。”いいよな”とか押すアレだ。

 …お前、本当に知らんのか?」


「いいから、早よ言え」


スマホを取り出して見せる。

SNSは『アンスタクラム』、『EEEX』。そして動画サイトの『MyTube』。


「我等、『怨可視鬼』(えんかしき)の能力ちからを以て、どちらがこの闇を統べるに相応しいかを争う。

 投稿、閲覧、ポスト、リポスト、”いいよな”等の集計値で」


「なるほどな(全然わからん)」


『怨可視鬼』

闇に潜み、そこを通るヒトの心の表層に浮かぶ『見たいもの』、『見たくないもの』を、察して見せるあやかしである。

見せたときの感動と言っていいのだろうか、動いた心の大きさを糧としている。


「集計と勝敗の判断は『さとり』の『さとちゃん』が行う。

 安心しろ、公平な第三者だ。

 『さとり』一派は、闇の覇権などにはもう興味は無い」


どこにいたのか、小柄な影が進み出る。鼻は長め、耳は大きめだ。

普通の『さとり』とは異なる姿。

その姿が個体差によるものなのか、隠蔽によるものなのかはわからない。

いまや『さとり』一派はヒトの中に紛れて暮らしている。ヒトへの擬態もお手の物だ。

彼らの持つ能力については、今更説明する必要は無いだろう。

それほどにヒトの世に馴染んでいるのだ。


「『さとちゃん』です。当然、プロフ名ですよ。コワいので。

 普段は総務関係の仕事をしていますので、集計はお手の物です。

 念のため言っておきますが、闇とか全然興味が無いので。

 あと、ちゃんと彼氏もいます」


はいはい。いいから。


「集計は彼女にまかせて大丈夫だ。ではルールだ」


ルールはこうだ。


1)ひとりずつ行う。

2)最初の1か月4週間のうち、1週目には『見たいもの』、3週目には『見たくないもの』を見せる。

3)『見せる』対象は、一夜で最大3組までとする。

4)次の1か月間は最大で5日、自分のペースで見せる。

5)その後、『見せる』ことはせずに、3か月経過後までを集計対象とする。

6)次の一人が2から5までを行う。


先攻が確実に不利なため、準備も兼ねて3か月ほどをウォーミングアップ期間とする。

『さとり』一派も、ネットでの情報のバラ撒きやら何やらに協力してくれる予定だ。


「ひとりめの後、3か月空けてふたりめってのは、何でだ?」


「ヒトには、『ヒトの噂も七十五日』という習性があってな。それを利用する。

 流行り廃りは七十五日間だけ、それを外して騒げば死、という意味の諺でもある。

 念のために半月ほど足しておいたが。

 …これでいいか? 何かあれば準備期間に調整しよう」


「まーいいや。じゃあ…」


「「最初はグーっ、じゃんけん…」」



<2章>闇の覇権、その行方


結論から言えば、その闇は、覇を唱えたいずれの者の手からも零れ落ちた。


当初は、目論見通りに動いていた。

ヒトらは、彼らの闇に対する本能的な連想としての『見たいもの』、『見たくないもの』におののいた。

SNSや動画サイトの投稿、閲覧、ポスト、リポスト、”いいよな”の数字も右肩上がり。


しかしその後、数値は急速な停滞を見せる。


ヒトの心の『見たいもの』、『見たくないもの』は、ただただエスカレートしていった。

『怨可視鬼』のふたりは見せることに腐心し続けたが、ヒトの心の動きはそれに見合わぬほどに小さくなっていく。

「あーあ、期待外れ」などと漏らす溜息からは糧など得られるわけもなく、勝負の最中で彼らは急速に消耗していく。

そして、ヒトの心の『見たいもの』、『見たくないもの』は遂に、『怨可視鬼』の能力を易々と超えていってしまう。


そうして、闇は暴かれ、汚され、醜く晒されていった。


「俺は、もう、ダメだ。

 この闇、惜しいが貴様に譲ろう。…大事にしてやってくれ」


「ふっ、らしくないな。いつもの『サマ』はどうした?」


「貴様に負けたんじゃねーよ。

 あれだ、本当のバケモンってのは…」


「まあ、そうだな。我々、二人ともが敗者だ。

 あの美しかった闇は、もう無い」


この場に勝者の姿は無い。二人の敗者だけが、茫と立ち尽くしでいた。


「で、どうします?」


その声は、『さとり』一派の通称『さとちゃん』。プロフ名だ。

どこにいたのか、小柄な影が進み出る。


「見ていただろう。勝負は引き分けだ。

 …いや、勝者はいなかった。これでお仕舞にしよう。

 ご協力に感謝する。『さとり』一派にも伝えてくれ。

 ありがとう」


「わかりました。お疲れ様でした。

 報酬の件、よろしくお願いしますね。

 では、失礼します」


一礼すると、そのまま『さとちゃん』の気配が消える。


「で、どーすんだ?」


「昔はよかった、か。

 あの頃の闇は、もっと静かで、もっと深かった。

 変わったのは私達なのか、それとも…。

 さて…帰るか」


「そっかー。それもいいかもな。

 あっちにはまだ、あるかもしれんし」


やけに澄んだ声で言う。

互いに見合うのは、百何十年振りかの険の抜けた顔だった。



<終章>闇は今…


『出る』と恐れられていた公園、そこにかつての闇はもう無い。


SNSや動画配信者によるオカルト騒ぎ。それに対し、治安を求める地元の声が高まり、行政は動いた。

LED照明の街灯や監視カメラを設置、明るく整備された公園は人通りも増えていった。


その灯りの下に時々、よく当たるという辻占い師が出る。

まるで心を読めているかの様な鑑定は、界隈をバズらせ始めている。


読んでくださり、ありがとうございました。


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