決意
どうして俺ら兄弟なんだろうな。しかも男同士。どうしてどうしてって考えると、神様ってやつが本当に憎くなる。
今日は三年分くらい弟を泣かせた。ごめん。こんな駄目人間でごめん。俺は弟と付き合うことにする。弟が本当に必要だよ。誰よりも好きだよ。誰よりも幸せでいてくれよ、ゆうちゃん。
けじめはきちんとつけようと思う。新しくやり直すために、この思いをしっかりと言葉にするために、これから何を言うべきか考えないと……。
まず、きちんと気持ちを伝える。ゆうちゃんが大好きで、ずっと傍にいたいということ。
そしてそこに至るまでの経緯を説明する。始めは別れようと思ってたこと。でも色々考えて、感じて、自分でこの気持ちを確認して、やっぱり好きだと思ったこと。
それから最後に、やっぱり今はまだセックスはできない。俺が価値観を受け入れられるまで待っていてほしい、ということ。お前のことは好きだけどセックスは駄目って、すごい自分に都合のいい考えで、勝手すぎると思う。でも弟とすると俺は罪悪感で自殺しかねないから、それだけは待っていてもらいたい。以前ディープキスをした時だって、吐きそうになったくらいだから。
気持ちはあっても、体がまだ受け入れようとしない現状で、やはりそれは難しい……と思う。
夕食も終わり、自分の部屋へ戻って漫画を読んでいた弟は、部屋に入ってきた俺に少し驚いていた。そのびくっとした反応が可愛らしくて、思わず笑ってしまう。
「……」
無言で見つめられ、なんだか緊張するような恥ずかしいような、なんとも言いづらい雰囲気だ。
でも、言わなきゃ伝わらないわけで。先ほど考えた内容を思い返しながら口を開いた。
「好き……なんだが」
「ありがと」
なんともそっけない返事。弟はきょとんとした顔をしていた。
「うん……」
どうもこういうシチュエーションでこういうことを言うのに慣れていない俺は、どうしても上手く口から言葉が出てこない。とにかく、自分の思いをなんとか説明することにした。
「お前と一度やりかけただろ?俺さ、その時やるのは流石にないと思った」
「……」
弟は何も言わずに俺の話に耳を傾けている。
「でさ、色々考えた。お前が大好きだから、ゆうちゃんが大好きだからさ。お前が幸せになる方法を探した」
「……」
「俺みたいな駄目人間なんかと一緒にいるより、他の人が良いと……そう思ったんだ。だから別れようって言ったんだ」
「……うん」
俺の言葉を聞いて、弟はゆっくりと頷く。
「でも、言った後にすげぇ後悔したんだ。お前が泣いたのを見て、俺は何もしてやれないって。俺が求めてたのはこんなものだったのかって」
「……」
視線を逸らさずに、俺は続けた。
「お前が離れてくのを感じて、だから俺、すごく苦しくて。俺にはゆうちゃんが必要って分かって」
すると、俺の言葉をさえぎるように由紀が言った。
「しょうちゃんは俺が好き?」
「ああ、好きだよ」
それを聞いて、弟も笑顔で言う。
「俺も大好き」
少し照れるが、本当に嬉しかった。お互いにちゃんと思い合えたということで。
口下手な俺は上手く伝えることができないし、優柔不断で本当に駄目な兄貴で、ここまで来るのに随分と時間がかかってしまったけれども。
「でもさ、俺童貞だからセックスは駄目。下手糞だから」
「素直に言えばいいものを……」
当然俺のそんな言い訳など、弟は見抜いているようだ。
「はい、すみません。半分の本音です、半音です」
うなだれる俺に、弟は優しく微笑んだまま言った。
「兄弟だから、だろ」
やはり賢い、ちゃんと分かってる。……まぁ当然か。へたれな俺は、なかなかそれだけは言いづらくて。お前に言わせてごめんよ。
「時間はかかると思う。でもさ、お前が嫌いってわけじゃない。そこら辺は勘違いすんなよ」
「キスはいいの?」
「オーケー」
返事を聞くのが早いか、顔を寄せてきて素早くキスをしてきた。そんな由紀がたまらなく愛しい。
全て言い終わった後、思わず俺たちはその場にへたり込んでしまった。
「ふー、久々に心底疲れた」
「この駄目人間が~」
由紀がベッドに転がった俺の腹をぱんぱんしてくる。その目には涙が溜まっていたが、俺はあえて何も言わなかった。
「しょうちゃんは俺のこと好き?」
「大好きだよ、可愛いゆうちゃん」
それを聞いて本当に嬉しそうに笑いながら、俺の隣に寝そべってくる。
「大好きだよ、しょうちゃん。……奇跡みたい。今なら神様を信じられるかも」
「このキリシタンが~」
「ちげぇよ、俺はただ嬉しいだけ。しょうちゃん好きなだけ」
そう言って俺の首元に顔を埋めてきたんだが、由紀はちょっぴり泣いていた。その涙でまたシャツが湿った。
本当に今日はよく泣いてるな。思わずその頭を思い切り抱きしめた。