自覚
「朝青龍って真面目に稽古しただけでも話題になるんだよな。かわいそう」
弟はニュースを見ながら、ごく自然に話しかけてくる。
「でも三、四時間連続筋トレとか俺だったら死ぬぞ」
だから俺もできるだけ自然に、いつも通りに答えることにした。
「そりゃ、しょうちゃんが運動不足だから。そのくせに痩せすぎだろう」
「お前もな」
「しょうちゃんより皮下脂肪ある自信あるよ」
毒舌だが、やっぱり弟は可愛い。そろそろいいかと思い、夕食に買ってきた牛丼を出してきて、二人で食べることにした。
最初は普通に会話してたんだ。皮下脂肪について、俺らジム行って筋肉つけてみようぜってなって、だったら皮下脂肪は減るだろうって話になって。まぁ他愛もない話だったんだ。
「そろそろあーちゃんかえってくるかなー、時間遅いよ」
俺は壁にかかった時計を見ながら言う。
「んな早くねぇよ、花の女子高生なんだぜ?」
「そうだよなー、でもあーちゃん可愛いから変な男にナンパされないか心配」
すると、由紀は笑いながら俺に聞いた。
「俺はどうよ?」
本当に自然に、笑いながらそう尋ねてくるもんだから、地雷って分かっていても、俺は答えた。
「お前もすっげぇ心配。可愛いんだもん。大好きだよ、ゆうちゃん」
由紀、泣きながら飯食ってた。俺の牛丼もしょっぱかった。塩かけすぎじゃねぇの、吉野家……。
あれ……俺、本当に何してんだろ。どうやら俺は、弟のことが本当に好きみたいなんだ。
涙ぼろぼろ零してるのに、一生懸命にそれをこらえて飯を食ってる弟の姿を見て、健気でいたたまれなくなって。どうしようかと思ってとりあえず手を握ったら、びっくりした顔をされた。
「いいのかよ。しょうちゃんは女が好きなんだろ?」
「ゆうちゃんの方が大切だから」
それでも由紀は興奮して、さらにまくし立てる
「ふざけるなよ!俺は男で、弟なんだ。俺はしょうちゃんの一番には……」
「うん」
まっすぐに見つめる俺を見て、ゆうちゃんは口をつぐむ。
「ごめん……。俺もしょうちゃんのこと好きだよ」
ボソッとそう言って、その後はただ静かに飯を食べていた。
俺は、弟とこのまま行くところまで行ってもいいかもしれないと思った。