変化
妹がいる時は三人で過ごしているが、部活で遅いことが多いから基本的に弟と二人でいる時間が長い。朝は由紀の……ゆうちゃんの口付けで起こされ、妹や親の目を盗んで色々な場所で唇を重ねた。夜は一緒の布団で寝た。ただ、あくまでキスだけの清い付き合いだったが。
二週間ほどで俺にも弟とキスするとか抱きしめるという行為に違和感がなくなってきた。もしかしたら流されやすいのかもしれない。そして小柄で可愛い弟は、俺のことを「兄ちゃん」ではなく「しょうちゃん」と呼ぶようになった。
しばらくはそうやって付き合ってきた俺たちだったのだが……それは三月の初め、いつものようにベッドの上で抱き合いながらイチャイチャしていた時のこと。なんと突然、弟に押し倒されたのだ。
正直、弟と一緒にベッドで寝ている時も勃起なんてしなかったし、自分でする時ももっぱら女性をオカズにしていた。弟でそういうことを想像すると悪い気がして試したことはない。
だが、由紀は違っていた。たまに起ってるのはなんとなく分かってたし、俺に欲情してるのも感じていた。
「ちょ……」
「しょうちゃん、しよう」
目がマジだった。本気で俺は犯されると思った。
「無理無理、男同士だろう」
それを聞いた弟は、俺の股間の上で泣き出してしまった。
これまで何度もキスをしておいて、今更そんな理由で拒否するのはおかしいだろうと、自分でも後になって思う。その時の俺はオロオロして、とにかく慰めるようにキスしてた。
我慢強い弟で、これまで絶対に弱いところを見せようとはしなかったから、そんな由紀が泣き出してしまって本当に驚いてうろたえてしまったのだ。
「しょうちゃんはどうして俺にキスしたりするんだよ……」
「それはお前が好きだから……」
「違うだろ!しょうちゃんは俺のことなんか、どうせ可愛い弟にしか思ってないだろ!」
涙をぽろぽろこぼす弟を抱きしめることしかできない。どうすればいいんだよ……そう誰にともなく心の中でつぶやいた。
深夜二時くらいまで由紀はずっと泣き続けていた。俺は慰める言葉も使い果たして、背中をずっと撫でていた。ようやく泣き止んだ時に「ごめんな」と無理して笑ったから、つられて俺まで泣きそうになる。
それなのに、翌日にはいつもの弟に戻っていた。昨日のことなんて何もなかったかのように振舞うその姿に、思わず胸が痛んだ。
本当に、あの可愛い弟を苦しめてる俺はどうかしてる。ただでさえ悩み多き年頃なのに。
由紀が俺を「しょうちゃん」と呼ぶのだって、兄弟という意識から離れようとしてのことなんだろう。妹と話している時は俺のことを「兄ちゃん」って呼ぶのだが、恋人モードの時は目が違う。上手く言えないが、俺を見るとぱぁって表情が変わる。明るくなる。「あ、俺恋されてる。」って実感する。
俺も弟が……ゆうちゃんが好きだ。でもこれは愛情ではあるけれど、恋愛感情なのか肉親としての愛なのかは微妙だ。由紀に「だいすき」と言われる度に、嬉しい反面困ってしまう自分がいる。