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小さな火種

作者: 東雲千幸
掲載日:2026/02/26

 僕は、それなりの歳で小説家になって、それなりの歳で作品が映画化されて、しあわせだと感じた頃にこの世を去りたい。人生100年時代やらなんやら言われているけど、そこまで生きていたいとは思わない。別にはやく死にたいんじゃなくて、この世にできるだけ、思い残すことがないようにしたいだけなんだ。

 思えば小説を書くようになったことも、何のために書いてるのかも、曖昧で、不透明だ。誰かに届けばいい、誰かの心の支えになんてことは、ただの表面上の綺麗事なのかもしれない。自分の書きたいことを書いた作品を、読んでくれる人なんかいるのだろうか。本当は格好つけて、誰かに認められたいのかもしれない。こんな、作者が迷子な小説なんて、大したものになる訳ないよね。だって、僕が一番読みたくないと思ってしまうから。

 今まで、たくさん嘘をついてきた。友達の前でいい格好をしようとしてついた嘘。嫌いな先輩に怒られないためについた嘘。迷惑をかけない、いい子でいなきゃと親についてきた嘘。その場をしのぐためについてきたいくつもの嘘は、後々になって、自分自身についた嘘となって、僕の首を絞めた。そうやって蓄積した傷みたいなものは、時間が経てば治っていくのだろうと思っていたけれど、そうもいかないみたいだ。噓つきは嫌われて当たり前。だけど僕は、嘘をついてきた人たちに嫌われることより、僕が僕自身を嫌いになっていくことのほうが、ショックで、苦しかった。とんだ薄情者で、最低な人間だ。

 そんな僕に良くしてくれる人たちは、本当に素敵な人たちばかりで、本当に同じ人間なのか、疑いたくなることもある。僕だったらこんな奴と仲良くしたいなんて思わないのに。だけど、その人たちにも「本当の僕」は多分、半分くらいしか見せれていない。きっと受け入れてくれるだろうけれど、それでも、怖い。

 両親には、たくさん迷惑をかけてきた。いい子を演じようとした結果、期待を裏切るようなこともしてきて、たくさん失望させたと思う。それでも見捨てられることはなかったし、一緒になって泣いてくれた。二人は「親子だから」と言うが、そばにいてくれることが何よりもありがたかった。

 家族で食事中、親孝行の話になったとき、母は「生き方で返してくれればいいから」と言ってくれた。父もそれに賛同していた。こんな僕を育ててきて、何の見返りも求めないなんて、正直、頭がおかしいんじゃないかと思ったけれど、そんなことを言ってくれる親の元に生まれてきて、これほどの幸せ者でいていいのかとも思った。僕は何度生まれ変わっても二人のもとにいたい。

 自分が死ぬことはたいして怖くないのに、大切な人が先に旅立っていくことは、ものすごく怖い。僕より先に死なれたら、きっと僕は耐えられないだろうし、立ち直れない。みんなもれなく僕より後に、僕を追いかけるように来てくれればいいのにと思う。だけどそうもいかないから、余計、時間の有限さを思い知る。大切な人に伝えたいことは、今のうちに言っておかなきゃなと思った。

 今も相変わらず、僕は僕が嫌いだ。僕の好きなバンドマンは、人生を映画と例えて、「美談だけじゃ、きっと映画を愛せないから」と歌う。美談だけじゃないこれまでの僕の映画は、あまり愛せる気はしないけれど、あるだけの時間をかけて、少しずつ言葉にして、愛していけるようにしたいと思った。自分を好きになるために書く。それはただの自己満足にすぎないかもしれない。だけどそうやって生まれた言葉が、結果的に誰かの背中を押してくれるといいなと思う。たくさんの経験と、大切な人たちと、それから今までの僕が守ってくれた、小さな火種を消してしまわないように、どうなるか分からないけど、これからも生きていこう。たくさんもがいて、笑って、ありがとうって伝えよう。

 

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