二極化の連鎖 — “互いの欠陥が互いを正当化する”
魔術大聖堂の高壇で、白金の法衣をまとった司祭は語った。
祈祷の深淵から立ち上がる魔素の波が、聴衆の心臓を直接撫でるように震わせる。
「科学は魂を持たない。鉄の器は祈りを知らず、血脈の印なき者の手では魔素は荒れ狂う。暴走は神罰だ。血統なき力の僭称に対する戒律である。」
群衆は沈黙で応じる。
都市の南端で起きた魔導炉爆縮事故——数千の死傷者はすでに政治的象徴となっていた。
誰も原因を調査しようとしない。
事故は“神意の指標”として処理された。
一方、北方の研究都市では異なる声が響く。
軍技術局のブリーフィングルーム、壁面に映された統計図は血の数値のように冷たい。
「魔術は妄信だ。儀式、血統、霊脈。どれひとつとして再現性がない。統計不能な手法は毒だ。人命の最適化を妨げる思想を排除するのは我々の義務だ。」
魔素砲の暴走ログも、祈祷干渉によるAIループも——
すべては“外乱要因”“環境誤差”“政治的妨害”として棄却された。
計測不能の領域が存在するという事実そのものが、彼らの理念を挑発し続けていた。
こうして誤った自己肯定は、二つの文明を包囲する装甲となった。
魔術側で魔導士が暴走するたび、司祭たちは胸を張る。
「見よ、血統への裏切りが招く堕落を。やはり血こそが保証なのだ。」
科学側で臨界事故が都市を焼くたび、官僚は指を鳴らす。
「統制は不十分だった。さらなる制御技術こそ答えだ。」
街が荒れ、民衆が怯え、境界域の遺棄地帯が拡張するたびに、
両陣営はこう結論づける。
「不安は異端のせいだ。秩序とは弾圧だ。」
その論理は鏡像のように一致していた。
互いを異端と呼びながら、同じ道を踏みしめていた。
血統を信仰しながら科学を拒む世界と、
統計を崇拝しながら魔素の意味を否定する世界。
双方が向かう先は一つしかない。
改革ではなく、抑圧。
その地平の向こうで燃え続けているのは、ただ一つ——
自らの欠陥を照らす、果てしない炎だった。




