起爆:静止の一瞬と時間の崩壊
世界が、ひと呼吸を奪われた。
ケイの指が力を込めるでもなく、炉心の欠片を床へ弾いた瞬間だった。
破片に蓄えられた逆相の魔力が、鋭い鐘のような閃光を放つ。
次いで――空間の魔力ノイズが 0.000 へと落ちる。
音が死ぬ。
温度が死ぬ。
動きが死ぬ。
魂鎖は、天井へ向かう蛇の昂揚を失い、
そのまま空中に突き刺さった矢のように凍結した。
それは停止ではなく、計算の一時停止。
演算器のクロックが止められた瞬間に似ていた。
研究班の胸に埋め込まれた鎖が、微かに震え――
そこから始まる。
吸収曲線の反転。
光の流れがL_i → 司祭ではなく、司祭 → L_iへと巻き戻っていく。
鎖は液体のような性質を取り戻し、
だが動きは滑らかではない。
生体値の再分配という計算が、個々の魂に再適用されるたび、
閃光が逆行し、司祭たちの法衣へ吸い込まれていった。
司祭団は声を上げない。
悲鳴ではなく、沈黙。
彼らは理解していたのだ。
**これはエラーではない。
自らが組み上げた最適化の“結果”**であることを。
一人が崩れ落ちる。
肉体が割れるのではない。
魂値が先に剥離する。
胸腔の奥から抜け落ちた値が、ゆるやかに形を失い、
空へ散る微粒子のように零れていく。
床に倒れるのは、人の形を保った容器だけ。
死体に似ているが、死ではない。
保持していたデータが空になった殻だ。
ラクシアは震える唇で小さく呟いた。
「……反転吸収……回路の再帰。
彼ら自身の儀式に喰われている……」
言葉は恐怖ではなく、解析の報告だった。
魂鎖は設計通りに稼働し、
ただ入力と出力が反転した。
――この瞬間、宗派が信仰ではなく工学であることを、
学院中の誰もが理解することになる。




