反対勢力の反応
反対勢力は、理論を否定しなかった。
それは不可能だと、誰よりも彼ら自身が理解していたからだ。
司祭団残党は、説教壇で声を荒らげながらも、内心では悟っていた。
祈りが弱まったのではない。
祈りが“説明されてしまった”のだ。
「安全性が確立されていない学術は、魂を危険に晒す」
声明はそう始まる。
倫理、伝統、秩序。
言葉は整っていた。
だが、信徒たちは気づき始めていた。
――恐れているのは、神の怒りではない。
――管理できなくなることだ。
軍産科学複合体も同じだった。
会議室では冷静な数字が並ぶ。
「魔術技術の拡散は、制御不能な兵器化を招く」
誰もが頷く。
だが、資料の最下段に記された真の損失額を見て、沈黙が走った。
――独占供給契約の崩壊。
――兵器ライセンスの無効化。
――市場そのものの消失。
安全性の問題ではない。
倫理の問題でもない。
秩序の問題ですらなかった。
それは支配権の問題だった。
議会工作は試みられた。
だが、理論は法律の外側にあった。
理解した者が増えれば、禁止は機能しない。
司祭団は異端認定を乱発したが、
異端の数が多数派になった瞬間、その言葉は力を失った。
軍産側は補助金と制裁を組み合わせたが、
砂漠領の循環炉は、外部市場を必要としなかった。
その時、彼らは選択する。
説得ではなく、沈黙。
統制ではなく、破壊。
ある夜、学院の実験棟が爆破された。
人的被害はなかった。
狙いは明確だった。
――理解の場を壊す。
砂漠領への輸送路では、循環炉部品を積んだ隊列が襲撃される。
犯行声明は出ない。
必要がないからだ。
王都では、公開講義の予定が次々と「安全上の理由」で中止される。
代わりに、街角には噂が広がる。
「理論は危険だ」
「扱えるのは選ばれた者だけだ」
「制御できない力は災厄を招く」
だが、破壊は遅すぎた。
理論はすでに人の頭の中にあった。
彼らはようやく理解する。
敵は人物でも施設でもない。
敵は“理解”そのものだった。
その瞬間、反対勢力は正式に一線を越えた。
文明の対話は終わり、
文明戦争が始まった。
誰も勝利を宣言しない。
なぜなら、この戦争に勝者はいないことを、
全員が薄々感じ始めていたからだ。




