第9話 瘋癲執事
「何っ!?」
「おや、驚かせてしまいましたね。申し訳ございません。私、エーネル•ゲンサイザーと申します。このレーゼル邸の主、レドル•カリア様に仕える執事でございます。」
所々破けている、大量の返り血を浴びた白黒のスーツ。
見た者を恐怖で歪ませる程に禍々しい、赤黒い全身。
人型ではあるが口は大きく裂けており、無防備な人間なら串刺しに出来る程の、鋭い爪が生えている。
更に、人間の目に当たる位置から、横向きの角が一対生えている。
間違い無い。コイツが元凶のシビルだ。そのレドル•カリアって奴と契約しているんだろう。
「人の命を愚弄するクソ野郎…!今すぐこの世から消し去ってやる…ブレイズ・スティール!」
普段とは打って変わって、ディークスが激昂した様子で叫ぶ。
そして、シビルと共に灼熱の剣で斬りかかった。
「落ち着いて下さい、お客様。お飲み物を直ちにお持ち致します。」
奴はディークスの斬撃を軽やかに躱した。
そして直後に、「グアッッ!」ディークスの腕目掛けて、鋭利なナイフが襲い掛かった。
まるで意志でも持つかの様な挙動をして。
「さあどうぞ、新鮮な血でございます。ごゆっくり召し上がって下さい。」
腕から流れる血をコップに集め、これ見よがしにディークスの前で見せつける。
「舐めやがって…」
屈辱に満ちた表情で、ディークスが奴を鬼の形相で睨みつける。
「行くぞ、サラナ!コイツをここで始末する!」
このまま死ぬ訳にはいかない。何としてでも葬ってやる…!
「了解!さあ、行くわよ!」
まばゆい光と共に、サラナが現れた。
力を集中させ、二人で鎖を構えた。奴の隙を、目を細めて慎重に見極める。
「こいつを喰らいやがれ!」
空気を切り裂くスピードで鎖を振るった。
しかし奴は微塵も動じずに、悍ましい牙を剥き出して俺達を嘲笑う。
「ベッドをご用意致します。皆様お疲れの事と存じますからね。ごゆっくりお眠り下さい。今日も、明日も、その後も…永遠に…」
「グハッ!」「うっ!」
天井が崩れ落ち、俺達は血に塗れたベッドの下敷きになった。
まずい、此処は奴のテリトリー…完全に戦闘の主導権を握られている。
「私に任せて!」
クロリネが、黒光りする2丁の拳銃を構えた。
緊迫するこの状況下で、ピクリとも手を震わせずに、虎視眈々と奴を狙っている。
そして鋭い銃声と共に、艶めく弾丸を放った。
「新しい作品のテーマ…最近の悩みでございます。ご主人様がお喜びになるもの…」
奴は弾丸目掛けて椅子を飛ばし、何食わぬ顔でクロリネ渾身の一撃を、いとも容易く相殺してしまった。
「フフフ…良い案が思い浮かびました。宙吊りはいかがでしょうか?」
四肢に縄が絡み付き、クロリネは体の自由を奪われた。
そして、腕が青みを帯びる程に締め付けられる。
「コイツ…!」
「これなら、ご主人様も満足なさる筈です。皆様を余す事無くもてなした後、早速飾りましょう。」
「さっきから調子乗りやがって!俺が相手してやる!」
怒りに身を任せ、カイが奴に接近を試みる。
「皆様を全員纏めてお相手するのは、少々骨が折れますね…ここは一人一人お相手させて頂きます。」
ベキッッッッ!バキッッッッ!
突如、部屋が轟音を立て始める。
床や壁が一瞬にして粉砕されたかと思うと、それらが生きているかの如く動き始める。
そして俺達四人を分離する様にして、再び堅牢な壁がそびえ立つ。
「何だよこれ!出口がねえぞ!」
「まずい…あいつ、一人ずつ着実に仕留める気ね…」
狡い野郎め…そういう魂胆なら、他の仲間がやられる前に何が何でも倒してやる。
幸いな事に、戦闘は始まって間も無いからな。
怪我を負ってはいるが、呼吸はまだ乱れていない。多少の余裕を持って時間を止められる筈だ。
「お前、エーネル•ゲンサイザーとか言ったな。早いとこ俺を殺さないと、後で痛い目見るぞ。」
「本当でございますか?今の貴方様は、到底戦える御身体に見えませんが…」
姿は確認出来ないが、憎たらしい表情が想起される、皮肉めいた声色で話す。
「何だ?そんなに俺が怖いのか?まあ当然だよな、1対1じゃないと碌に戦えない貧弱野郎だからな。」
「フフフ…貴方様は、後でじっくり歓待致します。少々お待ち下さいね。」
コイツ…挑発に乗らなかったか。
仕方ない、ここは仲間の白星を祈るしか無いか。
「では…水色の髪をされている貴方様。今からおもてなしさせて頂きます。」
「かかってこい!どうせ俺が勝つけどな!」




