第6話 ギルドへようこそ
「凄いな、こんなに人が沢山…」
小さなローシェ村で暮らしていた俺からすると、目を疑うような光景だった。
鳴り止まない足音に人々の会話。数え切れない程にある商店。
その全てが俺にとっては新鮮だった。
「ロータシアのギルドは、言わば城塞都市だからね。ギルドに所属していない一般市民も沢山いるんだよ。」
「一旦見て回っても良いか?」
「勿論。気が済むまで探索して良いよ。」
さてと、何処から見て回ろうか?
ここは…雑貨屋か。傷薬に砥石、冒険の必需品は大体揃っている。
いや待てよ?この砥石、一個1000リロもするのか!?
ローシェ村だと一つ150リロだぞ?
「そこの兄ちゃん、何か買ってくかい?」
何食わぬ顔で店主が話しかけてきた。
「いや、遠慮しときます」
気持ち早めに足を動かして、その場を去った。
「何だあれ?ぼったくりじゃないか!途轍もなく高級な砥石なのか?それとも村育ちの俺が世間知らずなだけか?」
「残念だけど…後者かな。ここはプレジア地方だからね。ロータシア最大の都市、サンセマレアがある位だし、あれくらいの値段が普通だよ。」
「まあ、そうだよな…」
やはり俺は井の中の蛙だった。
世界は想像出来ないくらいに広大で、まだ知り得ない事が山の様にある。
まあ、だからこそ村を飛び出して此処に辿り着いた訳だが…
「ディークス、治療室に案内してくれ。今の俺は大したリロも持ってないし、早いとこ傷を治したいからな。」
「分かった。こっちだよ。」
ディークスに着いていくこと数分。
遠く離れた村から眺めていた、巨大な城が目の前に。
赤い屋根に黄金の装飾。
正面には美しく輝くステンドグラス。
赤、緑、紫、青、黄と、鮮やかな色彩が俺の瞳を魅了する。
「よし、着いた。此処がロータシア•ギルドの本拠地、グリトネリア城だよ。」
「それにしても凄いな…城内は全部ギルドの領地なのか?」
「そうだよ。10年位くらい前は、国王が先祖代々住んでたんだけどね。今の国王は変わった人で… 巨大な樹の上に城を建てて、そこに住んでるんだ。それで要らないからって、ギルドにこの城を譲ったんだよ。」
「随分と破天荒な王様だな。」
「まあそうだね。でも人当たりが良いし、国民思いだから、反感を持つ人は少ないね。」
「なるほどな。よし、じゃあ早速…」
何かをふと思い出したかの様に、ディークスが食い気味に話す。
「一旦止まって!ラジアスはまだギルドに入団してないから、城に入る前に武器を全部、受付に預けないといけない。面倒だと思うけど、そういう規則だからね。」
「分かった。少し待っててくれ。」
取り出したのは、戦闘で一役買った2本のダガーに、何年も前から愛用している剣。
クリーチャーの血で、白銀に輝く刀身が赤黒く染まっている。
「これで全部だ。」
「そうだ、今まで聞いて無かったけど、シビルと契約はしてるかい?」
「ああ。今はピューパの状態だ。ほら。」
「じゃあ、一緒に預けてくれ。他には、羽ペンとかの先が鋭い物は持ってるかい?」
「いや、別に?」
たかがペン一本でも規則に触れるのか?相当用心深いんだな。
「なら良かった。前に万年筆で警備兵の目を失明させた奴がいてね。それからはより一層チェックが厳しくなったんだよ。」
「野蛮な奴がいたもんだな。」
「だね。よし、中に入るよ。」
ディークスが警備兵に向かって、手帳の様な物を見せつける。
かなりボロボロだな。ああ見えて結構歳を食ってるのか?
「あちらの方から、お話は伺っております。入団手続きが完了するまで、武器及びシビルを預からせて頂きます。次は、奥にいる警備兵の方までお進み下さい。」
「念の為、所持品を確認させて頂きますね。」
野太い声で、警備兵が話しかけてきた。
慣れた手つきで、俺のポケットの中を確認する。
「問題ございません。どうぞ、お通りください。」
ギシギシと音を立てながら、重厚な扉が徐々に開いてゆく。
目の前に広がったのは、真っ赤な絨毯に、無数のシャンデリア。
俺の身長を優に上回る巨大な額縁に、美しい絵画が幾つも並んでいる。
「本当に凄い…中まで豪華だな…」
「流石は元王家の城ってところだね。こっちだよ、着いて来て。」
数え切れない程に立ち並ぶドアと廊下。
迷宮の様な城内を、一切戸惑う事なく突き進んでゆく。
「おや?おや?」
正に貴族とでも言うべき、紅色と深緑色の豪華な服を着た男性が、前方から歩み寄って来た。何故か右手に鏡を握りしめている。
「ディークスじゃないか!客人を連れてるなんて珍しいな!この人は?」
「色々ありましてね。一緒にパーティを組む事にしました。」
「パ、パーティ!?急にどうしたんだ?変な占いでもやったのかい!?」
口角を大きく上げながら、ディークスが返す。
「な訳無いですよ。俺は先週からパーティを組む気でしたよ。」
「そうか。少し騒ぎ過ぎたな…そういえば君、見た事無い顔だね。名前は?」
こちらを向いて、柔和な表情で質問してきた。
「ラジアス•ブルーノです。」
「ラジアス君か。良い名前だ。私はロゼア•バーランド。ロータシアのギルド長を務めている。これから宜しく。」
「こちらこそ、お世話になります。」
「ディークスの事を頼むよ。それじゃあ、また会おう。」
革靴を鳴らしながら、ロゼアは去っていった。
「良い表情だ!いや、この角度も悪く無い… おお!これは良いな…今日のベストを更新したぞ!」
訳の分からない独り言を呟きながら。
しかも、最早呟くとは言えない位に大きな声で。
まさか、あの鏡を覗きながら歩いてるのか?
「ディークス、一つ聞きたいんだが、何でロゼアさんと親しげなんだ?」
「僕が古株だから、かな。」
古株?明らかに20代に見えるが。
「いつギルドに入ったんだ?」
「十年前ぐらいかな。まだその時は、30人くらいしかメンバーはいなかったね。」
「十年前…ディークスは一体何歳なんだ?」
「今は24だよ。」
「14歳でギルドに入ったのか!?」
14と言ったら、俺が剣を振り始めて、まだ間もない頃だぞ?
禄にクリーチャーと戦えなかったし、太刀筋も不安定だった。
「僕が一番向いてるのは戦闘だからね。ギルド以外に居場所はないと思ったんだよ。」
「凄いんだな、ディークスは…」
「本当に?嬉しい事言うね。さてと、着いたよ。ここが治療室。」
小綺麗に並んだ瓶詰めの薬に、天使の羽を想起させる純白のベッド。
部屋の中を眺めていると,分厚い眼鏡をかけた、白衣の医者が話しかけてきた。
「こんにちは。おや、怪我をしているようですね。すぐに包帯を交換します。」
手慣れた動きで、俺が応急処置で巻いた包帯を剥がしてゆく。
そして、瞬く間に汚れ一つない新品を巻き付けた。
俺のとは比べ物にならないくらい、正確で丁寧に。
「終わりましたよ。またいつでもどうぞ。」
優しく微笑んで、俺達を送り出した。
「ありがとうございました。」
「よし、次はいよいよ入団手続きだね。こっちだよ。」
ディークスに再び着いていく。
そして、目の前に映ったのは…
圧倒的な広さを誇るホールだった。
酒場にカジノといった、様々な施設が並んでいる。
「本当に何でもあるんだな、ここは… 一人だったら、一生迷子になりそうだ。」
笑みを浮かべながらディークスが話す。
「慣れたらこれが普通になるよ。それじゃ、受付の所に行こうか。」
「こんにちは。ご用件をどうぞ。」
上品な木のカウンター越しに、受付の女性が話しかけてきた。
「ギルドに入団したいんです。」
「承知致しました。では、こちらの書類にサインを記入して下さい。契約書の内容は、一通り目に通すようお願いします。」
『以下の内容に同意し、第五期カンティア大陸冒険者ギルドに入団する。
第一条(金銭の受け渡し)
1 依頼達成による報酬金の5%を、ギルドに納入する。
2 依頼の達成数及び達成内容に応じて、3ヶ月に一度、活動支援金が提供される。
3 ギルドの退会時には、これまでの総依頼報酬(ギルドに納めた金額及び、事前にギルドが差し引いた税金を含む)の2%が退職金として提供される。
第二条(処罰事項)
1 ギルドを介さない非正規の依頼を受注した場合、報酬金は強制収容される。
2 ギルド所属中に犯罪行為を行い有罪となった場合、収監中はギルド構成員としての地位を剥奪する。刑期が終了した場合、再びギルドに所属させるかの審査が行われる。
第三条
1 各ギルド構成員は、入団時にギルドノートが一つ支給される。
2 ギルドノートには、所有者の個人情報(氏名、生年月日、住所、契約中のシビル、前科の有無)が記載される。
3 ギルドが所有する各拠点に入る際は、ギルドノートを提示する。
4 ギルドノートを紛失した場合、再発行が行われる。再発行には50,000リロを要する。
氏名_______ 記入時の日付______ 』
特に困る内容は無いな。よし、これでいいか…
「ラジアス•ブルーノさんですね。ようこそ、冒険者ギルドへ。こちらがギルドノートです。後で個人情報の記入をお願いします。」
茶色の革に覆われた、小さな手帳を渡された。
俺の入団を祝福するかの様に、美しい光沢を放っている。
「おめでとう。これで君も晴れてギルドの一員だよ。」
「やっとか…長かった…」
厄介事に巻き込まれてどうなるかと思ったが、何とかなったな…
「それで、次は何をするんだ?」
「いよいよ集めるよ…大切な仲間をね。」




