第3話 契約
「決闘…ですか。」
「そうよ、私と契約したいならね。」
「負けたら俺はどうなるんですか?」
自分の事を悪魔みたいな存在と言うからには、やはり命でも奪われるのだろうか?
「貴方が負けても契約してあげる。ただ、絶対に手を抜かない事。本気でやらないと面白みに欠けるわ。」
思ったよりも良心的だな。何か裏でもあるのか?
「分かりました。始めましょう。」
剣を構えようとしたその瞬間。凄まじい違和感に襲われた。
体が全くと言っていい程に動かない。このシビルが操る能力なのか?
「先手必勝よ!」
体の自由が戻ったと思った次の瞬間、目の前に灰色の鎖が飛んで来た。
「クソッ!」成す術無く、相手の一撃を喰らって吹き飛ばされてしまった。
「決闘らしく正々堂々と戦ったらどうだ?」
「本気と本気の衝突なら何だっていいのよ。貴方も闇討ちの一つや二つやってみたら?」
「お言葉に甘えさせてもらうぞ。」部屋の中を駆け回り、相手が俺を見失う瞬間を虎視眈々と狙う事にした。だがコイツ、ただ一点を見つめて深呼吸している。
「そこだ!」俺は剣で斬撃するフリをした。あくまで「フリ」だ。
本当の狙いはもう片方の手に隠し持ったダガー。奴が斬撃に注意を逸らされている間に、心臓目掛けて思い切り投げる。
「まずは相手の力を見極める事ね。」しまった!体がまた動かない。
「グハッ!」あの鎖に、またしても一泡吹かされてしまった。
仕方無い、まずはコイツが使う異能のカラクリを暴くとしよう。
「まだやれる、かかって来い!」
「避け切れる?」
集中しろ、動きを良く見るんだ…
なるほど、鎖は両手から出してるのか。加えてかなりのスピードだ。
そして恐らく、この鎖に当たると数秒の間動けなくなる。と言う事は、相討ち覚悟で斬りかかるのは無謀だな。
「逃げてばかりじゃ何も変わらないわよ?」
「次逃げるのはお前の方だ、今に見てろよ鎖野郎!」
コイツが出せる鎖は二本だけ、つまりそいつらを受け流せば、ただの置き物に成り下がるって訳だ。幸いな事に、俺はダガーを二つ持ってる。
後は覚悟を決めるだけだ。
「さあ、喰らいなさい!」
今までのコイツの動きを思い出すんだ…よし、呼吸を整えて… キィィィィン!
「なっ!?」
「逃げる隙すら無かったな、これで終わりだ」
「グアッッッッッッッ!」金切り声をあげて、奴が地面に倒れ込んだ。遂に終わった…
「どうだ、これで満足か?」
「フフフ…貴方、面白いわね!お望み通り、喜んで契約するわ!」
「さっきあれだけ大きな断末魔を上げてた癖に、随分と元気だな。」
「あれはただの演技よ!シビルなんだから刃物が一、二本刺さった位、どうって事ないわ。」
「はぁ…喜んで損したよ。」
「とりあえず、さっさと契約するわよ。」
「契約ってのはどうやるんだ?」
血の押印でもするんだろうか。それとも寿命を捧げるとかか?
「私の手に触って。」
「これでいいか?」
「よし、終わったわ。」
「もう出来たのか?」
もう少し大袈裟な儀式でもするのかと思っていたが、たったのこれだけとはな。
「そうよ。これで貴方は契約者になった。」
「契約に代償とかは無いのか?」
どうせ寿命が半分くらい無くなるんだろう。それか死んだら魂を貰うとか、そういった類いだろうな。
「特に無いわ。強いて言えば、私との契約を続けたままだと、他のシビルとは契約出来なくなる。」
「寿命が縮んだりは?」
「しないわよ。」
なんだ、ただの杞憂だったか…
「そうか…ところでお前の名前は?」
「刻縛の鎖よ。まあ、サラナって呼んでくれたらいいわ。」
「サラナ?その名前、何処から出て来たんだ?」
「自分で付けたのよ。こっちの方が可愛いでしょ?」
「そうかもな…」
コイツ、結構変わった奴だな。
「他に聞きたい事は?」
「そうだな…契約をすると具体的に、何が出来る様になるんだ?」
「貴方も私の能力を使える様になるわ。」
「俺も鎖を出せるって訳か?」
「そうよ。折角だし、今やってみたらどう?」
手に力を入れ、鎖が出てくる様に強く念じた。すると、
「おお、本当に出たぞ!」
「良いわね。ちゃんと力を制御出来ているわ。ああ、そういえば言ってなかったけど、私にはまだ力があるわ。」
「鎖以外にか?」
「ええ。時間が止まる様に念じながら、息を止めてみて。」
世界の時間が…止まっている。
「どう?凄いでしょ?私と貴方しか動けなくなってるわ。ほら、テーブルを持ち上げても、落ちて来ないわ。」
うっ!何だか息が苦しくなってきた。まだ10秒も経っていない筈なんだが。これ以上は危険だ、能力を解除しよう。「ハァ…ハァ…確かに凄い能力だな。ただ…」
「分かってるわ。世界の時間を止めている間、物凄いスピードで酸素を使う。強い力にはそれ相応の対価を要するんだから、仕方の無い事よ。」
「なるほどな。ところで、お前が封印されてた小さい彫刻みたいなのは何なんだ?」
「ピューパの事?シビルは役目が無くて休息する時、あの姿になるのよ。エネルギーの消費を最小限に抑えられるから。」
「シビルってのは随分と不思議な存在だな。」
「確かにそうね。そういえば貴方、これからどうするつもり?」
「そうだな、とりあえず外に出るとしようか。」
「分かったわ。それじゃあ、私は一旦ピューパになって休むとするわ。でも、貴方と脳内で会話は出来るから安心して。助けを求めてくれたら、すぐに人型に戻るわ。」
サラナの体が真白く発光し、ピューパの状態に変化した。
『聞こえる?』
俺の脳内に、サラナの声が響く。
『ああ。』
心の中で返事を返した。
『良かった、成功ね。今、貴方は私と視覚や聴覚を共有しているわ。もしかしたら、何かの役に立てるかもね。』
『そいつは良いな。よろしく頼むよ。』
さてと、早いところこの穴から抜け出さないとな。早速能力の出番か。
意識を集中させて…よし、一番上まで届いた。まあ、鎖を出せば朝飯前だな。
久し振りの地上の光を浴びて、澄んだ空気を吸っている最中、「やあ、ラジアス!一段落したみたいだね!」二度と聞きたく無かった声が水を差してきた。
「またお前か…」
「まだ怒ってるのかい?」
「当たり前だろ…」
散々俺に迷惑を掛けた癖に、何を言ってるんだコイツは。
「そうか、じゃあ償いとして君の言う事を聞くよ。」
「本当か?なら今すぐ俺の目の前に…」
「そんなに俺を殴りたいのかい?でもごめんね、それは出来ないよ!俺は今、君からとても離れた場所にいるからね。」
「クソ…それなら、俺の質問に答えてくれ。」
「勿論いいよ!」
「じゃあ、お前は一体何者なんだ?」
「うーん…まあ、天才科学者ってところかな?」
「科学者の割に随分と強いんだな。」
「あれぐらいは出来て当然だよ。」
遠回しに俺の事を侮辱している様にしか聞こえない。それかコイツが人の顰蹙を買う天才なだけか。
「そもそも何で俺の事を知っているんだ?」
「強いて言うなら…君の知り合いの知り合いだから、かな?」
「その知り合いってのは誰だ?」
村を出て行った友人とかだろうか?それとも大人か?
「今は言えないよ。どうせいつかわかると思うけどね。」
今はってのはどういう意味だ?まさかコイツとまた話す羽目になるのか?
「謎の多い奴だ。それじゃあ、お前の名前は?」
「名前かぁ…そうだなぁ…『イマジンド』だよ!」
「取って付けた様な間だな。」
「そんなことないよ!本当にこの名前だよ!」
「ああそうか、じゃあ次の質問だ。お前はどうやって俺に話しかけてるんだ?」
「良い質問だね!それはね、君の体に特殊な機械を埋め込んだからだよ!ついでに君の位置を把握する機能も付いてる。」
「ふざけてるのか!?」
「逆に聞くけど、他に方法なんて無いだろ?」
コイツはどれだけ俺に迷惑を掛けるつもりなんだ?
「クソ、分かったよ。じゃあこれで最後の質問だ。何で俺と戦ったんだ?シビルを渡したかったなら、あの時直接渡せば良かっただろ?」
「君の力を知りたかったんだよ!どうしてもね。」
「その理由は?」
「さあ?何となくかな?」
コイツ、さっきから何を隠してる?
核心を突く質問は全部、のらりくらりと躱している気がする。
「他に質問はあるかい?」
「いや、もういい。じゃあな。」
まあ、こんな奴の正体をこれ以上詮索した所で、何の得にもならない。
早いとこギルドに向かうか。




