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 A君も現代っ子ですので、廃屋であっても入ったら法律に違反するとは思うのですが、ここに来る道がない、川に舟を着けるところもない、家の持ち主は来ているのだろうか?持ち主がいなくなっていても国の持ち物になって関係ない者が入るのは駄目なんだろうけど、誰かが勝手に入ったことが解ることはあるんだろうか?と頭を悩ませていましたらね、先頭に立っていた奴がドアに手を掛け

「あ、開いてる」ドアを開けて中に入ってしまいました。

 おいおいとみんな後に続くのですが、まだ明るかったので中に光が入っていて支障はありません、視覚はいいんですけど、中に入ると川の流れの音が強くなった気がしました。

 今までは川に意識を向けていなかったからかな?と思ったのですが、みんなも少し戸惑っています。

 中はロッジのような、壁のない大きな一部屋です。とはいえトイレだろうと思える小さな部屋はありますが、廃屋としては普通で、埃っぽい、残されている物もある、誰も来てないようで落書きはない、みんなぐるっと見回してそれぞれ残置物を手にとって状態の確認をやっています。

 五分くらい経ったときでしょうか、また玄関が開いて人が入ってきました。

 小柄な、歳を少しとった女性です。

 いや、みんなびっくりですよ、苦労して木々の中を分け入ってここまで来て、道はなさそうなのに、この人もやっぱり木々をかき分けてここまで来たのだろうか、そのときはまさか舟で?とは思わなかったそうです。

 先頭の奴も唖然として、後になって

「おっさんとか恐い男だったら強気で大声だして戦うか逃げるかは考えたけど、あんなおとなしそうなおばさんが来るとは考えてなかった」といっていました。

 そのおばさんは

「肝試し?」と一言、静かに聞いてきました。

 A君は気力を振り絞って

「そうです、すいません、勝手に入って」と謝りました。

 するとおばさんは気をよくしたのか

「それはいいんだけどね、あんまりここにいるのはよくないわよ」

「ここ、何かあったんですか?」と仲間の一人。

「なんにもないわよ。ここはね、私の父親が買ったのよ。私の父は金貸しやって、家族には優しかったんだけどね、金貸しだから、大勢に恨まれてね。その中の一人に騙されてここを買わされたのよ。

 川って流し雛とか精霊流しとか…知ってるかしら?よくないものとか悲しいものを流してさっぱりする効用があるから、金貸しが背負った罪を川に流しましょうって紹介されたの。父はなるほどって買ったんだけどね、それ、騙されたの」

「何かあった家なんですか?」

「違うの。そういう流すものってね、川上から流すものなの。ここは川の中頃から川下のほうでしょう、川上からどんどん嫌なものが流されてきて、その嫌なものがこの家に当たってたまっているの。だから父も駄目になってしまったの。だから家族もここには近づかなくなったの。

 あなたたち、川の流れる音が聞こえるでしょう、その音を聞いているのって、嫌なものがあなたたちにもたまっているの。だから早くここから出なさいね」

 そういうとおばさんは外に出てしまいました。一拍おいてみんな叫び声を上げて外に出たんですけどね、おばさんはどこにもいないんですよ、土地の人だから林の中をすいすい進む方法を知っているのかもしれませんが、川上にも川下にも舟はなかったのは見ました。さすがに舟だったらそんな数分で見えないところまで進むことはないでしょうからね、舟で来て舟で帰ったのではないと思います。

 みんなてんでに木々の中に突っ込んで、傷だらけになりながらも道に出て、車に乗って帰りました。

 そのあとみんな、しばらくの間は嫌なことが続きましたが、それ自体は日常の不運な出来事なので、特に言うようなことではありません、ただ確かに嫌なことは続いたな、ということです。一週間もしないうちにそれも収まりましたけどね、

 それよりも、あのおばさんの言葉で、川の音ってばかにできないと思い知らされました。川はせき止めることはできても川の流れる音を止めることは誰にもできませんからね、

 別に恐くはありません、ただ今でも川の流れる音が聞こえると身構えてしまい、体の正面を向けるようになりました。

 これ、なんていう感情なんですかね。勝負、というでもなし、対峙かな?


 このあと、誰かがこの家に行ったかは、解らないそうだ。

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