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 A君から聞いた話。


 その家に最初に気がついた人は役所の人でした。仕事で山の中にある川の調査で舟に乗って川上から川下に進んでいるときに川沿いぎりぎりに建っている家を見つけ、

「あんなところに家があったんだ」、

 そのときは仕事の最中だったのでそれで終わり、すぐに忘れて数値に集中したそうです。

 その後舟に乗っていたみんな思い出したことはあったかもしれませんが、別にそこに行ってみるでもなし、なんであんなところに家があるのか調べてみるでもなし、別にどうでもいいとそのまま終わるはずだったのが、一人が幼かったころのA君から

「何か怖い話ない?」と聞かれたので思い出し、

「怖い話ではないけど」と話したんだそうです。

 当時のA君が(だいたいこの辺かな?)と思えるところまで行ってみたんですが、道がない。川に行くまでに木が生い茂っていて林になっていて、踏み越えていくのは大変そうで、そのときはうろうろして終わったそうです。

 それから何年か経ってそれなりの年齢になり、仲間内で

「何か面白いことないか」という話になって思い出し、A君がみんなに言って

「じゃあ行ってみよう」と。

 まだ明るい内、お昼頃です、行ってみて、やはり昔と同じです、だいたいこの辺の前後をどこまで行ったっても、家どころか川に行ける道も見つからない、「故郷はすっかり変わってしまった」の逆、何一つ変わらないところなんです。

 しかし、よく怪談で後先考えずにどんどん行ってしまう者がいて、話はそこから始まることが多いように、仲間内に一人、

「よし!行くぞ!」と道なき林の中をどんどん入っていく奴がいたんですね、〝考え無しで動く奴〟のとんでもなさとはこういうものか!とA君目が丸くなったそうです。

 そいつはどんどん入っていって、一人だけで行かせるわけにもいきません、みんな後に続きまして、詩にある

「僕の前に道はない、僕の後に道はできる」なんて上品なものではないですよ、そいつが歩いていったって道なんてできません、そいつが邪魔な枝はどんどん折っていきますがそれで目の高さが楽になるわけでもなく、足下の歩きづらさもひどいものです。

 終わってみれば良い思い出となるかといえば、全くなりません。

 そんな行進が二十分になり三十分になり、いきなり終わりました。

 家があったんです。

 話をしてくれた役所の人は「とりあえず」と家を写していて、その写真はもらっているわけではありませんが、A君が見た印象では目の前にある家と同じ感じだったそうです。


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