7話「母親と王妃」
「私はエリセツアと申します」
相手は王妃だ。失礼がないようにしなくては。一応スピリアから礼儀作法はある程度習ったが、完璧ではない。
「そんな堅苦しい話し方はやめましょ。私は娘の友だちと話したいだけなのだから」
そりゃ私の本性をさらけ出させるためには互いに気を使わない方が良いに決まってるからな。
「ではヴァーラさんと呼んでもよろしいでしょうか?」
「ええ構わないわ。それより少し夜風を浴びたいの、外で話さない?」
どうやら周りの人たちには聞かれてはいけないようだ。面倒事には巻き込まれたくないが行くしかないな。
「じゃあ早速本題に入るわね。本当に申し訳ないけれどヴァリエには冒険者をやめて家に戻ってきて欲しいの。だからあなたには協力してほしい」
何となく予想していたが、まさか冒険者をやめさせる協力とは、普通の人間だったら王妃の協力要請を断るなんて出来ないだろうな。
「ヴァリエは私の友だちであり同僚です。急に冒険者をやめさせる協力をするのは難しいです。そもそも何故今更何でしょうか?」
スピリアは冒険者になってから半年以上が経っている。辞めさせるならギルド長と連絡を取れば良いだけなのにわざわざ自分から戻らせるためにこうやって私に話している。
「これは私の王妃としての判断とヴァリエの母親としての判断の結果よ。王妃として次期モナレン王国の女王になってもらうのは王族としての決まりだけれど、ヴァリエの母親として自由を尊重させてあげたかったの。でもそろそろ戻ってきてもらわないと女王としての教育が間に合わないの」
「ヴァリエが女王ですか!?本来ヴァリエの兄である王子が次期国王となるのではないんですか?」
スピリアから話は聞いていた。スピリアには二つ年上のシルヴァという兄がおり、次期国王なのだ。王子は次期国王としての教育の影響で何年もスピリアと会っていないとのことだ。
「本来であればそうなってたわ。ヴァリエには自由に生きさせてあげたかったし、シルヴァも次期国王として積極的に勉学に励んでいた。しかし、シルヴァは病気にかかったの、それも何が原因か全く分からない未知の病よ」
なるほど、次期国王になれないほどの危険な病なようだ。モナレン王国の優秀な医師や薬師でも治せないということは症状は悪化していくばかりだしな。でも、もしかしたら、
「では王子に会わせてもらうことは可能でしょうか?実は私、他国の病について学んだことがあります。もしかしたら何かが掴めるかもしれません」
私には特別な知恵がある。母さんとその友人から教えてもらった病とは根本的に違うものを治す方法だ。この国が知らないのも無理はないだろう。
「この国の人間が誰一人として解明できなかった病をあなたが本当に理解できるの?とても現実的とは思えないけれど」
「私だって承知しております。ですが、何もしないままじゃ王子の症状は悪化していくままです。どうか一度確認させてもらえないでしょうか?」
「そこまで言うのなら仕方がないわね。今日は夜も遅いし、明日にしましょう。今夜はこの城に泊まっていくといいわ」
ふぅ、何とか終わった。でも一か八かだな、王国が病について原因不明ということはおそらく呪いだ。でも本当に病だったとき、どうしようもないんだよな。まあそんなことを考えても仕方ないし、スピリアに会いに行こう。
「おーい、ヴァリエお嬢様ー」
「何ですか、その呼び方。いつも通りにしてください」
「すまんすまん。やっぱり王族には敬意を払って置かないと私がどうなってしまうか分からないからな」
その後、私はスピリアに明日、王子に会いに行くことを話した。どうやらスピリアも王子の病のことを知らされていなかったらしい。子ども思いの母親は娘を心配させたくなかったのだろう。
そして、スピリアも王子に会いに行くことになった。何年も会ってなかったから話したいことが色々あるのだろう。
「おやすみスピリア」
「おやすみなさいエリセツア」
綺麗な部屋のベッドで眠れるのは特別な体験だが、
「んー、困ったな。呪いだとしたら王子に呪いを、かけたやつがいるんだよなー。それに単純な呪いだったら私でも完全に祓うことができるのだが複雑だったり複数の呪いがかけられていたら面倒くさくなるぞ。まあいっか、明日のことは明日考えよう」