20話「スピリアの魔力」
「はぁ、本当に疲れたな。スピリア、美味しいご飯屋さんを探そう」
「そうですね、私ももうヘトヘトです。さっき地図を見ましたが、いい感じの喫茶店があるらしいです。夜遅くまでやってるらしいのでそこで休憩しましょう」
私たちは重い足を動かして喫茶店へと進んだ。
「ふう、久しぶりに椅子に座ったな。さて、腹も減ったし何か頼もう」
「私はオムライスが良いです」
「オムライスか、私もそうしよう」
私が最後にオムライスを食べたのはいつだったかな。確か父さんと母さんとドーウェンに旅行に行ったときが最後だったな。もうどんな味がする料理なのか覚えていない。
「「いただきます」」
久しぶりに食べたが美味しかった。懐かしさを感じると共に、父さんや母さんに会いたくなった。
「そういえば私は魔力を抑える修行を父さんや母さんに習ったんだが、スピリアは誰に習ったんだ?」
すると、美味しそうに食べていたスピリアの表情は一変した。
「え、気づいてたんですか?それにエリセツアも魔力を抑えてたんですか!」
「私は魔力を抑える修行をここ数年はずっとしてるからな。今はもう慣れたが、昔はきつかったぞ」
「てっきり私、エリセツアよりも魔力量が多くて実力を隠している強者だと思い込んでいました」
「なんというか、残念だったな、でも落ち込むことはない。ほとんどの冒険者には気づかれないほど上手く隠せているぞ」
スピリアは才能がある。私以外でスピリアの魔力に気づけていたのはドーウェン副ギルド長のロジとフローラぐらいだな。副ギルド長が、事件を解決した私だけでなく、スピリアも二級にしたのはそういうことだろう。
「それで、スピリアは一体誰に魔力制御について習ったんだ?」
「実は魔力制御に関しては、冒険者を始めた頃に一級冒険者の魔法使いに教えてもらったんですよね。おそらく私が王族だったから母上が私に近づけさせたんだと思います」
「ん?待てよ、スピリアはいつ冒険者になったんだっけ?」
「半年前ですよ」
なんということだ。私はスピリアを侮っていた。魔法に関する知識や技術の吸収が早すぎる。私が魔法の稽古をつければ私に並ぶくらい強くなれるかもしれない。
「ちなみにその一級冒険者ってどんな人だったんだ?」
「ホークという長身の女性でした。当時の私は周りに馴染めず緊張してばっかだったので、お構いなしに話しかけてくれてありがたかったですね」
ホークか、どこかで聞いたような名前だったが思い出せない。まあいずれ分かるだろう。
「よし、夜ご飯も食べて休憩したことだし、寝床を探そう」
「そう言えば野宿でしたね、一体どこで休むんですか?」
「おいおい、若い女の子二人が野宿とは見てらんないね。この喫茶店の二階に泊まっていきな?」
話しかけてきたのはこの喫茶店の店長らしき人物だった。明るいお姉さんという印象だ。
「え!良いんですか!」
スピリアはとても喜んでいる。私はあまり気にしていなかったが、スピリアは王族だしな、野宿に抵抗があるのも無理はない。
「あたしの名前はサンラだ。言っておくが飯はただじゃないからな?明日の朝飯代は払ってもらうぞ?」
「ありがとう。それでは、お言葉に甘えさせてもらう」
そして、私たちは二階へと上がり、ベッドに横になった。
「それにしてもありがとうございますエリセツア。明日の観光って私が試験で緊張しないようにするためなんですよね?」
「え、あぁうん、そうだぞ、」
普通に観光したかっただけとは言えないな。それにしてもスピリアは試験に緊張していたのか。私は正直落ちても次があると思えば問題ないし、ルドアイヴィに来てから周りの人間の実力を観察したが、どいつも私より強くなさそうだった。スピリアの実力があれば試験なんて余裕だと思うが、王族はこういうものに慣れていないから緊張するんだな。
次の日、私たちは朝から自然公園にきていた。
「自然公園って広いな!」
「そうですね。とても緑がたくさんあってワクワクします」