11話「ドーウェンとの別れ」
城に戻ると、王子が元気になっていた。
「エリセツアさん、誠に感謝するよ!この通り僕は完全回復したんだ。父上や母上もよろこんでいた!そして報酬として明日、王家から何か望むものを一つ与えられるそうだ」
王子ってこんな明るい人だったのか、、もっとスピリアのようなら落ち着いた人だと思っていたが。
「望むものか、明日までに考えておきます。とりあえず今日は疲れたので休ませてもらってよろしいですか?」
「ああそうだね。あと明日に今回の事件について一から説明してもらう。正直、君以外の人間は今回の事件についてほとんど理解していないからね」
今回の事件は私が協力してから一瞬で解決したのだ。我ながら天晴れだ。
そして次の日、私は国王に謁見していた。
「冒険者エリセツアよ、我の息子シルヴァを救ってくれたこと、誠に感謝する。それで呪法師の事件についての説明してくれ」
私は呪法師がペルヴェリンという組織に所属していたことや副ギルド長に取り憑いていたことについて説明した。
「これはまさに奇跡だ。其方がいなければこの国は危険な状態に陥っていただろう。そこで報酬として望むものを一つやろう」
「私が求めるのはヴァリエ姫と共に旅をする権利でございます。私はいずれこの国を出る予定です。なので仲間としてヴァリエ姫には付いてきてもらえると非常に心強いのであります」
寝る前にテキトーに考えた結果だ。正直一人で旅をしても良いが、スピリアとお別れで悲しい雰囲気にもしたくない。別に寂しいとかではない、こともない。
「ほう、我が娘を求めるか、確かに次期国王であったシルヴァも戻ってきたことで、ヴァリエはまた冒険者に戻れる。しかし我は自由を尊重するのだ。ヴァリエの意思を確かめたいぞ」
私のさっきの発言に照れていたスピリアが出てきた。
「父上、私は冒険者エリセツアについていきたいと思います。そして各国を巡り、成長し、王族として最終的にこの国に貢献したいです」
それじゃ納得させるのは難しくないか?どうやって貢献するのか具体性が全くなく、曖昧だ。しかし、国王はそうは思わなかったみたいだ。
「よかろう。こうして我が娘が自分の意思を表すことが出来るようになり、我も嬉しく思うぞ。ヴァリエの身の安全はエリセツア、其方に任せる」
「承知いたしました」
こうして私たちは冒険者として改めて旅立つことになった。しかし、王都を出る前にギルドに呼び出されてしまった。
「そうだ、副ギルド長放置してしまっていた。あの呪法師を制圧していた時、意識があったのか、これはまずいな」
今回はスピリアも居るので応接室だった。何とも露骨な態度の変化だ、鼻につくな。
「エリセツア、それにスピリアさん。今日、呼んだのは二つ話があるからだ。まず一つ、先日私は乗っ取られていたらしい。私も魔法は得意なのだが、呪いという未知のものには耐性がなくてな、、」
尊厳を守りたいんだな、でも感謝はしてほしいな。
「そして二つ目だ。今回の件で私が特別に君を二級冒険者へと昇格させた。ついでにスピリアさんもだ。それでだな、一級試験が半年後に始まるんだ。場所はダリナー自然国で行われる。それを受けてほしい」
副ギルド長の権力は恐ろしいな。ほぼ強制で一級にさせようとするなんて、、断れる訳もないがな。
ダリナー自然国はモナレン王国の隣にある。色々な種族がいる国で、ある程度の法律とダリナー隊と呼ばれる独自の騎士団の様な組織がある、緩い国だ。
「急に二級冒険者になったかと思えば一級ですか。ちなみに何で一級冒険者になってほしいんですか?別に私たちはそんなに焦ってないんですけど」
「エリセツアもスピリアさんもどちらも優秀だ。エリセツアに関しては底が見えない。私はあまり詳しくないが魔法以外に呪いも使えるのだろう?ギルドはここ数年人手不足だ。早く優秀な人材を増やさなきゃいけんだよ」
なるほど三級では難しい任務は受けられないから早く上に上がって難しい任務を消化してほしいってことか。
「分かりました。丁度ダリナーには行く予定だったし、良いですよ。それと、私も聞きたいことがあるんです。特別冒険者についてです」
ギルドの中で特別冒険者という言葉を耳にしたことがない。誰もその存在を知らないようだった。そこでどんなものなのか改めて聞いてみることにしたのだ。
「んー、実はね、私もどんな役職なのは聞かされていないんだ。何かしら知っているのは大陸で唯一公表されている特別冒険者のギルド長ぐらいだ」
「なるほど。それでギルド長はどこにいるんですか?そもそもギルド長なのにギルドにいなくても良いんですか?」
ギルド長には会ったことがないし、どんな人かも知らない。ギルドにいる冒険者にも何回かギルド長について尋ねたが、ずっといないようだった。
「ギルド長ルグニカはね、この国の最高戦力と言っても過言ではない。その実力は単独で騎士団と魔法団に並ぶかそれ以上だ。国王はこの国に置いておきたかったら契約を結び、ギルドに籍を置いている。現在位置は分からないが連絡を取る手段はある。それはアリックだ」
単独で騎士団と魔法団に並ぶだと?どんな爆弾なんだ、
「しかし、何故アリックなんですか?普通だったらもっと偉い人じゃないんですか?」
「アリックは特殊でな、一度死んだ人間なんだ。そこをギルド長が無理やり魂を呼び戻して、生きているんだ。しかし、その時の契約でアリックはギルド長の使い魔のような存在になったんだ」
「つまりギルド長は死霊使いってことですか?」
「正確には違うが、そういうものだと思ってもらって構わない。どうだい?これで聞きたいことはないか?」
「はい、ありがとうございました。この国を出たら数年は戻らないと思うので、長い別れになりそうですがありがとうございました」
そうして私とスピリアはモナレンの王都ドーウェンを出た。
「エリセツア、最近長く話していませんでしたね。エリセツアはずっと忙しそうでしたし」
「あぁ、そうだな。でもこれからは基本的にずっと二人だ。スピリアも魔女として早く私に追いついてくれよ」
ロジに一生ここには戻らないかもしれないのは言わないでいた。私は世界を周る魔女だ、道を戻ることはない。常に新しい場所に向かい、新しい発見をする。それが人生であり、彩旅というものなんだ。
私とスピリアはそれから半年間、モナレンを旅した。港に行き海賊と戦って捕縛したり、王都周辺に現れた魔物たちをドーウェン騎士団と協力して倒したり、他にも多くの人と出会っては別れた。
そしてとうとう試験を受けにダリナーへ出発する時が来た。
「とうとう国を出るぞ!スピリア!」
「はい!行きましょう!」