9話「呪いの力」
犯人が呪法師であるから名前を言わなかった。これはルーナ魔聖呪国では当たり前のことだ。何故名前を言ってはいけないのかと言うと呪法師が自分の名前に呪いをかけているかもしれないからだ。簡単に言うと自分の名前を言った相手を探知できたりするのだ。しかしそんな万能な能力ではない、呪法師の力量にもよるが、弱点は呪いの範囲だ。私が思うに相手の呪法師が探知できる範囲はドーウェンの面積十分の一程度だろう。
「では、私はこれで失礼します。スピリアはここに残ってくれ。久しぶりの再会で話したいこともたくさんあるだろう」
「はい、分かりました。エリセツアも気をつけてくださいね。まあそんなやわな人ではないことは分かっていますけど」
今、王都に呪いを使うことが出来る人間は私と犯人の二人だけだ。思えば今まで違和感は色々あった。
「同じ呪いを使える者として力量に差がありすぎるな。私の方が圧倒的に上だ。犯人は今地下水道にいるな、一体何をしているんだ?」
呪法師には特定のオーラがある。私に呪いを教えてくれた母さんの友だちが言うには、呪法師には呪いの力があり、そこに魔力が混ざると独特のエナジー、通称「対消滅エナジー」が生まれるかららしい。
私は地図で見た地下水道の道に沿って、魔力を抑えながら道を辿っていった。
「ほぉ、ここは壁になっていて一見何もないように見えるな。これは幻影魔法か、呪いだけでなく魔法の技術も高い者がいるとは驚いたな」
相手は気づいているのかいないのか分かりづらい。何も動きがないのだ。じゃあ私から行くしかないか。
「こんな魔法いつ使うんだよと思っていたがこう言う時に使うんだな、反転魔法『幻影解除』」
そう唱えると、壁が消えて研究室のような場所があった。
「昨日振りですね。副ギルド長」
「おや、エリセツアさんだね。一体どうしたんだい?ここは僕の秘密基地なんだが?」
「いや無理があるでしょ。あなたが王子に呪いをかけ、本物のロジを操っていることぐらいは分かっています。ですのであなたを殺しにきました」
そう言ったは良いものの、人を殺したことなんてない。魔獣を殺すのと大して変わらないと思っていたが、実際は全く違う。とてつもない覚悟がいるのだ。
「まぁ流石に無理か、ちなみに何故気づくことが出来たのか聞いてもいいかい?」
「理由は二つです。まず、ロジと最初に会った時、あいつからは対消滅エナジーを感じなかった。しかし、昨日のパーティで見かけた時にはそれを感じた。それとロジは副ギルド長と呼ばれるのを嫌っているんです。それなのにさっき私が『副ギルド長』と呼んだにも関わらずそれに反応していなかった」
「ほぉ、実に完璧な推理であるな、それに対消滅エナジーを知っているとは、褒めてやろう。でも君が俺を殺すことは確実にできない。そもそも君、手が震えてるじゃないか?」
「それがなんだ?私が殺せなくともお前が勝つことはない。私が捕縛して騎士団に突き出してやる」
正直捕まえるというのは殺すよりも難しいことだ。適度に制圧して無力化させなければならないからだ。そもそもそれは今回やっても意味がないのだ。その証拠に相手の表情は勝利を確信している。でも狙いはそこじゃないんだ。
「君はその年齢に見合わない実力を持った魔女だ!しかし、俺には敵わない、かかってこいよ!」
「それじゃ、遠慮なく。『切断』」
そう唱えると、その瞬間に何かが起きた。ロジの体はどこも切れていないのに何かが切断されたのだ。
「は?」
そう言ったのはロジではなかった。ロジの近くに浮いている黒い影からだった。なんとロジの体は操られていたのだ。